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俺が魔法を使えた頃  作者: 於田縫紀
第21話 独り言

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113 独り言

 確かにこの仕掛け、結構釣れる。

 エサを入れて、10mちょっと先に仕掛けを投げ込めば、あまり待つことなく魚がかかる。

 釣れるのは大きくても全長15cm程度までの、小物ばかりだけれど。


 しかしそこそこ近くにいる愛美さんの方は、全く連れていない。

 俺はもう10匹目を釣り上げているのに。

 仕掛けかエサか、場所が悪いのだろうか。


 しかし愛美さんは、空間操作特化型の魔法使い。

 近未来予知魔法も当然使えるだろう。

 釣れないまま竿を出している、なんてことは考えにくい。

 

 ならきっと、そのうち大物が釣れるのだろう。

 だから俺は気にする必要はない。

 そうは思うのだけれど…… 


 やっぱり気になるので、一応聞いてみる。

 直接ではなく、美羽さんと陽菜ちゃんが調べてまとめた釣りの知識を使って、こんな形で。


「もしよければ、俺が釣った小物を泳がせ釣りのエサとして使うか?」


「ありがとうございます。でも大丈夫です。実は転送魔法で周囲にエサをまいて、小魚を寄せています。大型の魚も少し下の層に集まり始めました。もう少し暗くなったら、小魚や釣り針のある層までやってくると思います」


 俺の思いつかないことまでやって、大物を狙っていた様だ。

 なら問題ないな。

 そう思ったところで。


「ただ釣れるまでには、もう少しかかりそうです。ですので少し自分自身の頭の整理を兼ねて、ここで独り言をいいます。あくまで独り言です。ただ、たまたま近くにいて聞こえてしまう分には仕方ありません」

 

 おそらくこれは、『私が言うことを黙って聞いてください』という意味だろう。

 確認はしない。

 今の言葉そのものも、独り言という可能性があるから。

 しかし一体、何を言うつもりなのだろう。

 

「衣緖菜さんを見ていると、思い出してしまうんです。以前、この世界に来る前頃の、カナ姉を」


 全く予想外の方向の話が出てきた。

 どういうことだろう。

 そう思いつつ、耳を傾ける。


「カナ姉は戦闘に適さないということで、農場管理を担当していました。魔力が強すぎて、常に魔力を抑えた上で、弱めの治療魔法を発動し続けていないと、身体が壊れていってしまう。だから攻撃魔法に専念出来ず、戦闘に適さないわけです。

 ですが戦闘が出来ないわけではありません。むしろ本気になった場合は、私を圧倒できるくらいに強いはずです。既知の魔法のほとんどを使うことが出来ますし、魔力も私より遥かに上ですから。ただ本気で全力を出すと、十分少々で身体が崩壊して死ぬだけで」

 

 また予想外の話が出てきた。

 俺はそこまでの魔力を、花音さんから感じたことはなかった。


 花音さんからの知識でも、愛美さんが言ったようなことは入っていなかった。

 使える魔法の種類は多いが、身体が弱くて戦闘には適さない。

 そんな感じの情報しかなかったはずだ。


 でもそれが、どう衣緖菜につながるのだろう。

 衣緖菜もそんな感じで身体が弱い、ということはないはずだ。

 俺が持っている衣緖菜の知識には、そういう内容はない。


 そしてこの衣緖菜の知識には、隠されたり歪曲されたりした部分はないはず。

 日本に来たばかりの頃の、衣緖菜の全知識そのままの筈だから。


「あの頃のカナ姉は、私たちをこちらの世界に逃がすため、かなりの無茶をしていたんだと思います。実際に何をしていたのか、私たちはほとんど知りませんけれど。カナ姉はその気になれば、私たちに気づかれずに行動できますから。たとえば私たちが寝た後、睡眠魔法をかけて、起きるまでに行動するというような形で」


 確かにそういった形で動けば、気づかれずに動くことは出来るだろう。

 起きている間であっても、魔法を上手く使えば可能だと思う。

 飽多時代には衣緖菜も、気づかれない、気づかないといった心理操作魔法を、主にうちの親に使っていたから。


「移動する3ヶ月前くらいから、カナ姉の体調が少しずつ悪くなっているのは、私も気づいていました。でも何をやっているのかまでは、わかりませんでした。当時は異世界という知識すら無くて、世界を移動するなんてことは想像すら出来ませんでしたから。

 ある朝、私から陽菜までの4人は、いきなり知らない部屋で目が覚めました。何が起こったのかと、この後どうすればいいのかの知識は、押し割った記憶はないのにひととおり思い出せる状態でした。そしてカナ姉がいませんでした。

 あの時はそれでも、1週間でカナ姉に会えました。ほとんど声が出ない上に、両腕がほとんど動かない状態でしたけれど。今は大分回復していますけれど、まだ完全には治っていません」


 確かに声もかすれているし、腕も明らかに青白くて細い。

 それは最初から気になっていた。


「カナ姉の優先順位はきっと、自分自身より、私たちを安全な場所へ送り出すことだったのでしょう。そして衣緖菜も、似たようなところがあります。

 衣緖菜自身は間違いなく、今の生活を楽しんでいます。それでも優先順位はきっと、昔の部下の安全と安心の方が、自分自身より上のままです。

 だから陽翔には十分気をつけて欲しいんです。衣緖菜が無茶をしない様に。そして衣緖菜が、この世界で楽しんでいる自分を大事にできる様に」


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