11 当座の方針
なるほど……
俺は彼女の事情を、とりあえず理解した。
彼女が近未来予知の御力で見た転移先は、この学校の中学3年の教室。
しかし御力がぎりぎりだったため正確な転移ができず、中学校から5km東の山林の中に出現。
転移で御力を使いきったため、場所確認や近未来予知の御力を使えず、それ以上動くことができないまま一晩待機。
翌朝、近未来予知能力で改めて移動先と到着すべき時間を確認。
隠蔽御力という、周囲の人に気づかれない魔法を使いつつ、この中学校へ移動。
人が来ないだろうと判断した体育館2階観客席で、時間まで休んだ後。
隠蔽御力を発動させたまま周囲に気づかれないようここへ来て、近未来予知御力で会うべき相手が俺だと確認。
俺だけに隠蔽御力を解いて姿を現した、という流れだ。
ここまで記憶を確認して、今さらながら気づく。
「昨日から飯を食べてないけれど、大丈夫か?」
『任務の時はそれくらい珍しくない。水は御力、いや魔法で出せるから大丈夫』
いや、大丈夫ではないだろう。
どう考えても無理している。
確かに記憶では「任務中はよくあること」となっているが、それは基準が間違っているのだ。
昼までに気づいていれば、給食を一食分くらい誤魔化すことができただろう。
しかしこの時間には、すべて片付いてしまっている。
どこかで買いたいところだが、俺は小遣いを貰っていない。
俺が確実に食料を入手できる場所となると、やっぱり家だ。
母が買い物も料理もしない代わりに、父が菓子パンやカップラーメンを買い込んでいる。
パンは賞味期限が切れているものもあるが、気にする余裕はない。
今までの経験からすると、1週間くらいなら大丈夫だ。
それに彼女はこちらの世界のことを知らないし、この後のプランも全然持っていない。
俺は先ほどまでの彼女の全記憶を持っているから、それくらいはわかる。
ならこの後に彼女が取れる行動は、
・取りあえず俺が連れ帰って一晩泊める
・警察などの公的機関に連れて行き、以降の扱いを任せる
のどちらか。
法的に正しいのは警察だ。
しかし彼女は近未来予知魔法で、“俺の前に姿を現すべきだ”と判断した。
警察に行くという判断ではなく。
彼女の記憶と知識がある俺には、その意味がわかる。
彼女にとって最適な手段は警察ではなく、“俺がどうにかできる範囲”にある、ということだ。
なら家に連れて帰って問題は……
父と母は、彼女の精神操作魔法でごまかせる。
彼女に対しても俺に対しても、全く気づかず無関心になるよう操作するのは難しくないらしい。
問題は、うちの家が俺の部屋以外、散らかっているところ。
トイレや洗面所は帰ったら、彼女が使う前にささっと掃除しておこう。
寝るのは俺の部屋を使うしかない。
部屋数は結構あるのに、父や母が散らかしまくって片付けないから。
あとは彼女にベッドを使ってもらい、俺はキャンプ用寝袋を使えばいい。
同じ部屋で寝るのは避けられなくても、寝袋で寝ればそう変な気は起きないと思うし、思いたい。
それに一緒に帰れば、今後のことについてじっくりと話し合える。
ただその前に、取りあえず何か食べてもらって、そして休んでもらった方がいい。
では方針を彼女に確認しよう。
「とりあえず今日は俺の家に来て、何か食べて、休んでもらうということでいいか。散らかっているけれどさ」
『ありがとう』
あっさりと、そう返ってきた。




