111 夕食終了
確かに、どれも美味しい。
ちゃんとした中華料理を食べた記憶なんて、はるかな昔、小学校時代にあるだけ。
あとは衣緖菜と生活するようになってから、出来合いだったり冷凍だったりする惣菜を食べた経験しかない。
そんな俺からすると、別世界の料理という感じだ。
「学校で昼ごはんを食べている時にも毎回思うんだけれど、花音さんって料理上手だよね。どうやってこういう料理を作れるようになったの? 中華料理は向こうにはないよね」
メイがそう言うのも無理はない。
「この世界は、料理の情報がネットで簡単に手に入りますから。それに向こうでも料理は私の仕事でした。その応用で作れば、割と簡単です」
「カナ姉は向こうでも料理を作っていた。農作業を魔法でやりつつ、私たちへの仕事や訓練の指示もしつつ。これくらいは余裕」
「あの頃よりは時間の余裕がありますし、こちらは調味料も香辛料も簡単に手に入ります。料理の種類も多いですし、楽しいですよ」
そういえば、花音さんは農場をやっていたと聞いた。
その頃のことは、花音さんから伝達された知識で、ある程度は知っている。
身体が戦闘に耐えられないと判断されたため、11歳の時に農場管理の知識を送り込まれ、1年ほど別の農園で研修を受けた後、12歳で農園を任される。
以降は戦闘員として生み出され、国から預けられた12歳から15歳までの者を使って、農園をやっていた。
しかし愛美さんが15歳になると徴兵されるので、その前に日本に脱出したと。
そして愛美さんより年上で、徴兵されていった人もいるようだ。
俺の知識には何人かいて見送ったというだけで、具体的な情報は入っていないけれど。
さて、料理は種類が多いし量もあるしで、本当は思い切り食べたいところだ。
しかし俺の胃袋は、悲しいくらい容量が小さい。
なので、おかずもごはんも各一口くらい、これに自分用のスープを飲めば、ほぼ限界になってしまう。
美味しいとわかっても、これ以上食べられない。
この辺りは昼食会のおかげで、既に皆さん気づいている。
「陽翔や衣緖菜は少食だよね、本当に。日本人が少食ということはなさそうだけど」
なぜ結菜さんがそう言うかというと、少食ではない日本人がいるから。
もちろんメイのことだ。
「そのあたりは体質なり生活なりの違いだね。確かに2人とも少食だと思うけれど」
平皿にタケノコご飯を敷き詰め、上に青椒肉絲をのせた丼風の代物を食べながら、メイが言う。
その前は同じようにして酢豚丼、さらにその前は八宝菜丼を作って食べていた。
他のおかずも、スープもガンガン飲み食いしながらである。
だから俺も、ここは注意しておこう。
「確かに俺や衣緖菜が少食なのは認めるけれどさ。メイは基準にしない方がいいと思うぞ」
「それは私も認める。でも美味しいものを前にした時は、食べられる方が便利だよね」
「まあそうだけどさ」
確かに美味しそうな料理が並んでいる中、思う存分に食べられないのは悔しい。
「それでこの後は釣りでいいんだよね。転移魔法で直接魚を海中から獲るのは禁止でいい?」
「転移魔法で魚を獲るのは、かなり難しいと思います」
花音さんが説明する。
「魚はそれなりに動きが速く、転移魔法を使って獲ろうとすると、さっと逃げられてしまいます。どうやら海水に魔力が混じるのを感知するようです。料理に使おうと何回か挑戦してみたのですが、上手くいきませんでした」
どうやら花音さん、既に挑戦済みだったようだ。
「カナ姉でも駄目なら、難しいかな」
「挑戦するのも魔法の訓練になります。だからやってみてもいいでしょう。ただ、空属性魔法がそこまで得意ではない場合は、最初は普通に釣りの方法で試してみたほうが成果が出やすいと思います。どこに魚がいるのか、仕掛けをどうやって飛ばすか、魔法で出来ることは幾つもありますから」
「100m先でも思い通りの深さに針と餌を落とせる仕掛けを作ったのです。あとは大物を狙うだけなのです」
「魔法でエギを泳がせてイカ狙い。駄目なら素直に投げサビキ」
陽菜さんと美羽さんは、既に作戦を考えて準備済みの様だ。
部室でも通販で買った仕掛けをバラしたり、別売りの針や糸、その他小道具を使用してあれこれ独自の仕掛けを作っていたし。
でも材料が足りないと、転移魔法で遠出して買い出しするというのは反則だと思う。
なお俺はとりあえず、誰でも釣れる方法らしい投げサビキで挑戦。
衣緖菜やメイは、また別に何か考えている様だけれど。
どう見ても7人には多すぎると思った料理も、30分程度できれいさっぱり無くなった。
「本当はもう少し食べたいところだけれど、この後に釣りで動くことがわかっているから、この辺で抑えとこう」
人一倍というか、茶碗換算で5杯以上食べているメイがそんなことを言っているけれど、まあ無視して。
「それでは食事は終わりで、釣りの時間にしましょう。今日は風がなく波も高くないので、場所はどこでも大丈夫です。愛美も事故の発生は見えていないと言っていますけれど、足場が悪い場所が多いので十分注意してください。それでは20時まで、頑張って釣ってください。成果がそのまま明日の昼食に直結します」
釣り開始だ。




