110 高等魔法は料理用?
広間に向かう途中で、匂いに気付いた。
俺がわかるのはニンニク程度で、他は料理の匂いとしかわからない。
けれど何種類もの料理を作っているだろうとは感じる。
「カナ姉、思い切りよくやっている様なのです」
「同感」
部屋に入る。
畳敷き、図面では18畳の大広間だ。
既に折りたたみ式の長い座卓を並べて、ある程度の会場が出来ている。
座卓2つを縦横2つずつ並べて大テーブル状になっているのは、多分全員で食べる為の場所だろう。
座椅子、座布団も人数分置かれている。
左側の壁に座卓やテーブル、座椅子、座布団が積んであるのは、使用しなかった分だろう。
どうやらこの部屋、もっと大人数で宴会をすることも企図しているようだ。
あとは壁沿いに、長テーブル4つを横に長く配置した場所があって、そこに各種の鍋が並んでいる。
深い鍋2つ、中華鍋、深くて大きいフライパン2つ、小さいけれど深さがあるフライパン2つ。
どれも中身が入っていて、湯気が出ていたり沸騰していたり、何かを揚げている感じだったり、きっと魔法で炒めているんだろうという感じだったり。
その鍋が全部見える位置に座椅子と座布団を置いて、花音さんが座っていた。
ハミングしながら、それらの鍋に魔法を飛ばしている。
「カナ姉、今日は何故、収納外で料理?」
「調理中の匂いがあった方が、料理を美味しく感じられる気がしませんか。いつもはこれだけ並べるような場所がありませんから、やってみたかったというのもありますけれど。あと5分あれば終わりますから、そちらのテーブルの準備をしておいてください。テーブルクロスや食器、カトラリーは、そこの戸棚にある様です」
「了解」
「わかったのです」
白いビニールクロスのテーブルクロスを引っ張り出してテーブルに敷いて。
テーブルの中央部分に大皿をずらっと並べ、更に中皿2枚、小皿2枚、お椀1つに箸、フォーク、スプーンを7人分置いて。
「結構皿を出すんだな」
「今日の料理は、大皿から各自が取る形式なのです。学校の寮に入る前は、だいたいこの形式だったのです」
「味が交じると悲しい場合がある。取皿は多めの方がいい」
「皿の洗浄や収納は、結菜姉の魔法があれば問題ないのです。何なら魔法の訓練で私がやってもいいのです」
「皿は訓練には不適。失敗すると割れる。うちではカナ姉か結菜姉が主にやっていた。あの2人なら大抵のことは魔法で可能」
なんて説明を聞いたところで、愛美さんと結菜さんが戻ってきた。
「お疲れ様。どうでした?」
「結構きれいな状態だったよ。一ヶ月前くらいに使って、ちゃんと掃除して帰ったって感じ。でも一応全面的に埃払いして水拭きして乾燥させて、畳とか布団とかは洗浄魔法かけたけれど」
「やっぱり空間操作系以外の魔法は、思い通りに行きませんね。風系統の埃払いや水系統の水拭き魔法は、下手な攻撃魔法以上に構成が複雑です」
「それでも一通り発動できるのは、流石愛美姉だと思うよ。魔力はだいぶ無駄に使ったけれど。とりあえずここのテーブルや更には、私が洗浄魔法をかけとく。ところでカナ姉、今日はなんで中華料理?」
確かに見えている料理のほとんどは中華料理だ。
一部分類がよくわからないものもあるけれど。
「ざっと周囲を見たところ、タケノコが何本か採れました。ですのでこれを使ったメニューということで」
つまりタケノコはもう採ったということか。
遠くを見る魔法でタケノコを探して、物を動かす魔法などを使って掘って、転移や転送といった魔法を使えば可能だ。
理屈ではそうわかるけれども、実際に出来るかとなると難しそうな気がする。
衣緖菜なら出来るだろうけれど。
「でもタケノコって、下ごしらえしてアクを取る作業が必要だけど、何か便利な魔法があるの? 今回は新鮮だから、アク抜きが必要なかったのかもしれないけれど」
料理ができるメイは、俺とは違う点が気になった様だ。
「一定範囲の時間経過を加速する魔法があります。使いみちはあまりない、空間属性のおまけみたいな魔法ですけれど、料理を煮込んで味をしみさせるのには便利な魔法です。今回のタケノコには時間経過10倍の魔法を使って、更にアク抜き用の水にアルカリ性の温泉水を使った形ですね」
時間経過10倍か。
というか、時間って魔法で操れる代物なのだろうか。
「時間も魔法で操作できるんだ」
メイも同じ疑問があった様だ。
「止めたり逆戻しをしたりは無理でしょう。でも加速させたり遅くしたりするのは、そこまで難しい魔法ではありません。衣緖菜さんも、自分の時間経過を操作する魔法は持っていますよね」
「一応。でもこういう使い方には気づかなかった」
俺の記憶にある、衣緖菜の知識を探ってみる。
確かに一応存在はしたし、10倍は無理でも最大7倍程度までは使える様だ。
ただ自分自身を加速しても、**慣性などの影響で、**そこまで速く動けるわけではない。
身体強化系の魔法を使った方が、魔法の効率がいいし、実用的だ。
また時間を減速させるのも、代謝を落として長時間水や食料を摂取しなくても済む様にする以外には、使い道が無い。
結果として、ほとんど使用していなかった模様。
「さて、料理の方は、こんなものでしょう。ひととおり出来ましたので、テーブル中央に持っていきます」
花音さんの言葉と同時に、調理場所だった長机上から鍋が消えた。
一秒くらいした後、テーブル中央に並んだ大皿上に料理が出現する。
更に各自のお椀に、タケノコが入った汁が入ったところで、花音さんが立ち上がってこっちに歩いてきた。
「今日のメニューは、青椒肉絲、酢豚、八宝菜、タケノコの甘辛照り煮、タケノコとワカメと焼き豚の和えもの、タケノコのラー油和え、ポテト&スティックサラダ、醃篤鮮というタケノコとお肉のスープ、タケノコご飯という内容です。足りなくなったら追加を出しますので、遠慮なく言ってください」
7人用ではあるけれど、それ以上に量がある気がする。
というか、手前側と向こう側に1皿ずつある青椒肉絲や酢豚1皿だけで、7人用の料理には十分と感じるのだけれど。




