第8話 従妹からの甘い招待状
王都からの招待状は、封を切る前から甘ったるかった。
上質な青紙に金の縁取り。クララが人前用に使う便箋だ。けれど紙を指先でしならせると、北辺役所でしか使わない厚手の測量紙が芯に混ざっているのがわかる。
「従妹さん、ずいぶん得意げだね」
グレタが肩越しにのぞき込む。
文面はこうだった。
『春の地籍改訂祝賀会にて、わたくしは正式にアルベルト様の婚約者としてお披露目されることになりました。北辺で少しは落ち着かれたなら、お姉様もぜひお越しくださいませ』
末尾にはアルベルトの短い追記があった。
『意地を張らず戻ってくるなら、君の席を整え直してやれる』
私は手紙を閉じた。
「戻れ、ではありませんね」
「黙って線を引き直せ、だろうな」
いつの間にか後ろに立っていたヴィクトルが言う。
「焼き捨てるか」
「いいえ。これは証拠です」
私は封蝋を明かりに透かした。王都地籍局の正式印に似せてあるが、外縁が半度だけ傾いている。白鹿草原の偽伝票と同じ傾きだった。
「同じ印です」
「紙もか」
「ええ。北辺役所の測量紙を芯に使っています。こちらの補正資料が王都へ流れていた証拠になります」
ヴィクトルは招待状を受け取り、一度だけ目を落とした。
「なら、行く理由は十分だ」
「はい。でもその前に、こちらの証拠をもう一つ固めたい」
「好きにしろ。必要な人も馬も出す」
王都に呼ばれたのは、私を見下したいからだろう。
だったらなおさら都合がいい。
今度戻る私は、追い出された記録官ではない。
紙も石も帳簿も持って、線そのものを返しにいく。




