第7話 短くされた測量鎖
測量塔の鍵は、帳場の割れた抽斗の奥から見つかった。
「前任の監督官が閉めて以来、誰も開けてないよ」
グレタと二人で重い扉を押すと、錆びた金具の匂いが立つ。階段を上がった先の棚には、本来あるはずの真鍮照準器が消え、代わりに古布で巻かれた鎖が一本置かれていた。
「これが測量鎖?」
私は手に取り、机の上で伸ばした。
王国標準の五十リンク鎖のはずなのに、どう数えても四十八しかない。二リンク短ければ、紙の上ではわずかでも、現地では畑ひとつ分を平気で削れる。
「短い」
「壊れてるってことかい」
「いいえ。削られています」
接合部の輪だけ新しい。古い輪を外し、長さを詰めて付け直した痕だ。
棚の奥には薄い手帳も隠されていた。亡き母ではなく、私の元上司である老測量官フリッツの筆跡だ。以前、北辺監査へ来たことがあった人だ。
『鎖を短くすれば、紙の上の世界はいくらでも奪える。だが土は覚えている』
頁の余白には、白鹿草原南端の補助線と、王都測量部の槌印の写しが描かれていた。
「フリッツ先生……」
私は思わず呟いた。上司は三年前に急死している。けれど、この記録は死の直前まで書かれていた。
ヴィクトルが手帳をのぞき込む。
「君の知っている人か」
「ええ。線は人を守るためにあるって、最初に教えてくれた人です」
「なら、この手帳は遺言だな」
私は短くなった鎖を握りしめた。
王都で私が押し込められている間も、誰かはここで不正に気づき、記録を残していた。
私が止まる理由は、もうどこにもなかった。




