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第19話 もう誰かの影の測量士ではない
翌朝、王都地籍局から正式な打診が来た。
局長名で、特別監査官への復職願い。以前より高い席と裁量を用意できるという。
昔の私なら迷ったかもしれない。認められたい気持ちがなかったわけではないから。
けれど今は、返答に長い時間は要らなかった。
「お断りします」
私は書面へそう書いた。
『北辺領との公正な地籍連携を結び直すこと。今後の改訂は公開記録を原則とすること。その条件が守られるなら、北辺地籍監査室から協力します』
王都へ従属して戻るつもりはない。対等な線を引き直すだけだ。
北辺へ帰ると、役所の入口に新しい木札が掛かっていた。
『ノルトハイム辺境侯領地籍室 室長 ヘレナ・ヴァイスナー』
グレタが腕を組んで立っている。
「代行、外れたよ」
「勝手に外しましたね」
「勝手じゃない。領主命令だ」
少し遅れてヴィクトルが現れ、短く告げる。
「お前の名前で線を引け」
王都では、私はいつも誰かの図面を整える役だった。
でもここでは違う。
私は自分の名で記録を残し、自分の責任で境界を守れる。
もう私は、誰かの影の測量士ではない。




