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第20話 私の線で歩いていく
北辺の春は短い。だからこそ、境界線がきれいに見える朝は驚くほど鮮やかだ。
白鹿草原の再測量からひと月。新しい地図は各村へ渡り、水車場の税も正しく戻り、ラウベ村の救済倉も満ちていた。
私はヴィクトルと並んで、草原の新しい石列を歩く。かつて動かされた境界石は、今ではまっすぐ朝日を受けていた。
「この線なら、子どもでも迷わないな」
ヴィクトルが言う。
「迷わないように引きましたから」
遠くではエイスフェルトの牛が草を食み、ラウベ村の荷車が水車場へ向かっている。紙の上で戻したものが、ちゃんと暮らしに戻っている。
ヴィクトルが立ち止まり、私へ向き直った。
「ヘレナ」
「はい」
「これから先の地図も、一緒に見てほしい」
言葉は回りくどくない。けれど十分だった。
「仕事だけではなく」
そう続けた彼へ、私は笑ってうなずく。
「ええ。私も、あなたとなら迷わず歩けます」
差し出された手を取る。羅針盤がなくても、今はもうわかる。私が向かいたい方角はここだ。
王都で誰かに引かれた線の内側に、私はもう戻らない。
これからは私の記録で、私の線で、私の選んだ人と歩いていく。
白鹿草原を渡る朝の風が、新しい地図の端をやさしく揺らしていた。




