第16話 公開地籍審問会
公開地籍審問会は、王宮の石造大広間で開かれた。
磨かれた床、半円に並ぶ審問官席、その後ろに集まる貴族たち。地図室で紙だけ見ていた頃の私なら、足がすくんでいたかもしれない。
でも今の私は、北辺の風を知っている。
「北辺地籍監査室室長代行、ヘレナ・ヴァイスナー」
名を呼ばれ、私は前へ進んだ。机へ旧図、新図、裏帳簿、短くされた測量鎖、境界石の角度記録、委任状を順に並べる。
「まず、白鹿草原の境界改訂は正式実測に基づいていません」
私は透写布を一枚ずつ重ねた。古図と現行図の差が、誰の目にもわかるように浮かび上がる。
「次に、現地境界石は日の出ではなく真昼に打ち直されています。こちらが影焼けの記録です」
ざわめきが起きる。
「さらに、使用された測量鎖は二リンク短く改造されていました。これにより、実地面積は継続的に縮小されています」
私は鎖を机へ置いた。金属音が、よく通る。
「そして裏帳簿。白鹿草原、水車場、ラウベ村の補正費は、ライナー補正局特別費とエルフェルト石材商会へ流れていました」
アルベルトの顔色が変わる。クララは白い顔で扇を握りしめたままだ。
「最後に、この委任状です」
私は母の遺した書類を開く。
「白鹿草原と付属水車場の査閲代理権は、十年前の時点で私に付与されていました。クララ・エルフェルトに補正へ関与する権限は最初からありません」
王宮大広間が一段深くざわめいた。
誰かを感情で責める必要はない。
線と数字と権限だけで、十分だった。




