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第15話 王都帰還の地図筒

 王都へ向かう馬車には、私とヴィクトル、それにヨアヒムが同乗した。


 膝の上には地図筒、足元には帳簿箱。紙の束は重いのに、不思議と前より体は軽かった。


「緊張しているか」


 向かいに座るヴィクトルが問う。


「ええ。でも、前ほどではありません」


「なぜだ」


「戻る場所があるからです」


 口にした瞬間、自分でも少し驚いた。けれど嘘ではなかった。王都へ行っても、私には北辺へ戻る場所がある。


 ヴィクトルはしばらく黙り、それから外套の内側から小さな包みを取り出した。


「これを」


 包みの中には、真鍮の羅針盤が入っていた。私が王都で使っていた古いものだ。北辺へ来た初日に箱の底へしまい込み、針がぶれているのを理由に使わなくなっていた。


「直してくださったんですか」


「針軸を替えた。北辺の鍛冶ならこのくらいできる」


 蓋を開けると、細い針が迷いなく北を指す。


「ありがとう、ございます」


「終わったら聞かせてほしい」


「何をですか」


「王都に残る気があるか」


 私は羅針盤を掌で包んだ。金属はまだ少しだけ温かい。


「答えはもうあります」


「なら、急がなくていい」


 短い言葉なのに、胸の奥へ静かに落ちていく。


 王都で私は、誰かの示した方角へ歩かされてきた。


 でも今は違う。


 針が指す北の先に、自分で選びたい場所がある。


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