第11話 王都地籍局の裏帳簿
王都地籍局の裏帳簿は、ヨアヒムが持ち帰った古びた皮袋の中に入っていた。
「局の下働きをしていた男を見つけました。帳簿を二重につけさせられていたそうです」
机に並べられた帳簿を開くと、表の地籍台帳にはない支出欄が現れる。白鹿草原、ラウベ村、水車場。北辺で消された場所ばかりに、別名義の補正費がついていた。
「名義は」
私が問うと、ヨアヒムは一枚の頁を指した。
「ライナー補正局特別費。それからエルフェルト石材商会、王都測量部立替」
予想していたのに、文字になると胸の奥がきしんだ。
私はさらに頁をめくる。そこには見覚えのある番号が並んでいた。私の控え帖の管理番号だ。なくなった北方第七区の記録が、別帳簿へまるごと移されている。
「盗まれたのは鍵や控え帖だけじゃなかった」
私はゆっくり息を吐いた。
「私の実測記録そのものが、裏帳簿の元になっています」
「つまり、君の仕事を盗んで不正に使った」
ヴィクトルの声音は低いまま変わらない。けれど机の上に置かれた手が、ほんの少し強く握られていた。
「はい。正しい線を引くための記録を、土地を奪うために使ったんです」
帳簿の後ろには、私の名で整理された保管票もあった。だが承認印はアルベルトの私印、そして運用欄の筆跡はクララのものだ。
「これで王都の中でも役割が分かれます」
私は紙を並べ替えながら言う。
「アルベルトが地籍局の権限と印を使い、クララが委任を装って補正へ口を出した。商会はその先で利益を受けた」
「戻る理由は足りたか」
ヴィクトルの問いに、私はうなずいた。
「十分です。今度は疑いではなく、帳簿で話せます」
「石でもな」
短い付け足しに、思わず少しだけ笑ってしまう。
王都では、私が積み上げた記録は都合のいい時だけ使われた。
でも今回は違う。
盗まれた仕事ごと、私は取り返しにいく。




