映画論争
三階の映画館で映画を選ぶ。
「ピコ、これがいいー」
ピコちゃんが指差したのは、なんと超ハードなアクション映画。
いやそれ、普通にたくさん人死ぬよ?
「俺はこれがいいな」
グレッムが指差したのはSF映画。
うん。この中で一番選びそうなやつだと思ってた。
「私はこちらが」
疫病神が指差したのは―――甘酸っぱい恋愛映画。
意外すぎるて。
するとピコちゃんは頬をぷくーっと膨らませた。
「これ絶対面白いもん!ドキドキワクワクして、寝ることないもん!」
……ピコちゃんの中で、映画って寝るほどつまらない物なのかな。
「いんや!この映画が一番良い!広大な宇宙で繰り広げられる戦闘!何より登場する戦艦や兵器の精巧性といったら―――」
頬に手を当て、顔を紅潮させて話してる。
もしかして、グレッムってロボットオタクの気質もあるんじゃ―――
「私はこれがいいです。譲りません。男女の生々しい色恋を見てみたいと思うのです」
疫病神。あんた、R18の内容を想像してない?
二人とも学生だから、絶対そんなこと起きないわよ。
てか、突然見たい映画のプレゼンし始めたんだけど。それも三人とも。
「エスエフ?とか、よく分かんないもん!そんな難しい映画観る人、頭おかしいんだ!」
「はあ!?俺はそんな殺戮だらけのアクション映画を観る方が信じられないね!」
「私は平和に進む物語が好きです。お二人のなんて、絶対一人は死ぬじゃないですか」
なんかヒートアップしてきた。
てか。いつの間にか、相手の映画を批判するスタイルになってるし。
「このシリーズの映画はすごいんだもん!とにかくボカーンって!それで、ドドドドドって!」
「それは地球の中での話だろ?こっちは宇宙だ宇宙。そんなちっぽけなスケールじゃねぇんだよ!」
「もう。お二人とも、わんぱくですねぇ。大人はしっとりゆっくりと、映画を嗜むものですよ」
なんか疫病神、二人を見下してない?
「そうだ!レミっちに決めてもらえばいいんだ!」
は……?
「そうだな……レミィはまだ、どんなのが観たいか言ってないしな!」
はあ……?
「で、どうなんですかレミィさん。何が観たいのですか?」
突然、三人があたしの方を見る。
「え。あたしが観たいって言った映画を観るの?」
「うん!レミっちなら分かってくれるはず!」
「レミィはこんな阿呆どもとは違う!そう信じてるからな」
「レミィさん。別に恩を売るわけではないですが。私はあなたを蘇らせました。別にその恩を返せと言っているわけではないですよ。まあ、でも。ねぇ?」
三人があたしに寄ってくる。
「あたしが観たいって言った映画を観る。本当にそれで良いのね?」
「うん!」
「ああ。それでいい」
「はい」
ふっ。残念ね三人とも。もう覆らないわよ?
「あたしが観たいのは―――これ!」
あたしが指差したのは―――
三人が目もくれなかった、ホラー映画。
「なっ……!そんな子ども騙しが観たいのか、お前は!?」
「ほ、ほらぁぁ!?む、むりむりむり!ピコ、怖いのむぅぅぅりぃぃぃ!!」
「は……?本気か……?」
三人はそれぞれ違う反応を示した。
「嘘だろレミィ!?人間の作るホラーなんぞ、生まれたての悪魔が大笑いするレベルの物だぞ!?」
「いや笑うって。なんで笑うの」
「低レベルすぎて。怖いどころか、面白い人形劇だと思ってるんだよ」
「それは周りに異形しかいないからでしょ」
「確かにそうだが……とにかく俺は反対だ!退屈すぎて、一回昇天しかける自信もあるからな!」
いや昇天て。退屈で死んだら、たまったもんじゃないでしょ。
ん?あれ?でも―――
あたしはピコちゃんの方を見る
「ピコちゃん。ホラー怖いのよね?」
「うん……」
「ほら見なさいよ!ここに、人間の作るホラーで怖がってる悪魔がいるけど!?」
あたしはピコちゃんを指差して言い放った。
「ピコピーノは人間の世界に馴染みすぎたんだよ」
あ。なるほど。そういうこと……。
「レミっち!ピコはホラー反対だからね!」
頬を膨らませ腕を組んで、そっぽを向いちゃった。
「疫病神は―――」
「反対です。退屈しのぎにもなりません。観るくらいなら、緩衝材のプチプチを潰している方がマシです」
は?そこまで言う……?
ていうか―――
「あんた達、あたしが観たいって言った映画を観るって言ったでしょ?まさかここで“それを取り消す”なんてワガママ言わないわよね?」
腰に手を当て、睨むように眉をつり上げる。
「嫌なものは嫌だもん!」
「ホラーねホラー。それも心霊モノ……せめてここは人間の怖さを描いた、サイコホラーにしてほしかったな……」
「幽霊なんて、ちょちょいのちょいで祓えるような存在ですからね〜。人間の皆様は大袈裟に描きすぎと言いますかぁ……」
疫病神は肩をすくめて、首を横に振る。
「ピコちゃんは、百歩譲って良いとして。あんたら二人はダメ!」
あたしは疫病神とグレッ厶を順番に指差す。
「男に、二言はないって言うでしょ?」
「俺、性別ねぇし」
グレッ厶は拗ねたようにそっぽを向いた。
「そんなん、言い訳にもならないから!」
「私も性別ねぇし」
「お前は完全に男だろうが!」
どっからどう見ても男だよ、疫病神お前は!
あたしはため息をついた。
三人とも、自分の選んだ映画以外は観ないって、譲らない。
何も進まないんだけど……。
「もう……あんたら本当に観る気ないの?」
「見ないもん!」
「お断りだ」
「嫌です」
三人ともそっぽを向いて、否定の意思を示してきた。
これじゃあ埒が明かない。
もうこうなったら―――最終手段を使うしかない。
「あんた達、こうなったら―――じゃんけんよ!」
あたしは拳を突き出す。
「じゃんけん……平等でシンプルな決め方だな」
「フフフ……ピコ、結構じゃんけん強いんだ〜」
四人で拳を出して、構える。
「それじゃ、いくわよ。最初はグー、じゃんけんポン!」
ピコちゃんだけがチョキで負けた。
「うわ〜ん!負けちゃったぁぁぁ〜」
オーバーに悔しがるピコちゃんを横目に。
三人で再び構える。
「もう一回!じゃんけん、ポン!」
今度はグレッ厶だけがパーで負けた。
「クソ!負けた……」
あたしと疫病神が向き合う。
「これで決まるわね」
「レミィさん。覚悟はいいですか」
「できてるわよ」
ただのじゃんけんなんだけど、あたし達は真剣な面持ちで構える。
「じゃんけん……ポン!」
結果は、あたしがグーで疫病神がパー―――つまり疫病神の勝ち。
「クソっ……!負けた……」
「私の勝ち。観るのはこの映画、ということで。それでよろしいですよね?異論ないですね?」
疫病神が念を押して確認してくる。
「ああ、いいよ。じゃんけんで公平に戦って、決まったことだ。不平も不満もない」
「うん。そうだね〜。じゃあ、ピコはお昼寝の時間ってことで」
「寝るのかよ」
欠伸をしたピコちゃんに、グレッ厶が横からツッコむ。
あたしはため息をつく。
「正直、あの映画を観られないのは残念だけど。もう決まったことだから、仕方ないわね」
こうしてあたし達四人は、恋愛映画を観ることになった。
キャラメルポップコーンと、各々飲み物を買って。
劇場に入り、席に座る。
上映時間より少し前。他の映画の宣伝とかが映ってる。
「あ……ピコが見たかったやつ……」
最初に流れたのは、あのアクション映画。
その予告だけ見ても、やっぱりハード。
出てくる俳優達も渋い顔ばかり。
「お。俺が観たかったやつだ」
次に流れたのはSF映画。
主人公が特別な力に目覚めて、宇宙戦争を止めるために戦いに身を投じるって内容みたい。
確かに宇宙船とかすごい細かい。CG技術半端ねぇ―――。
「あ……」
今度はあたしが観たかったホラー映画の予告。
ある村に帰省した主人公家族が、村の言い伝えを破ってしまう。その日から身の回りで怪奇現象が多発するようになって―――と、まとめるとそんな話。
(やっぱり面白そうだなぁ……)
口惜しい気持ちでスクリーンに見入る。
「皆さん、そろそろ始まるみたいです……!」
疫病神が妙にハイテンション。キモすぎる。
ピコちゃんはジト目でポップコーンを口に放り込んで。
グレッ厶は大きな欠伸をした。
二人とも、微塵も興味がないみたい……。
そして映画が始まった。
ストーリーを紹介すると。
成績優秀だけど運動と人付き合いが苦手な、真面目な主人公。
隣の席は“氷血の王子様”と呼ばれる、冷静沈着なイケメン男子。
主人公はその男子が好きだけど、告白できない。
そんなある日。なんと彼の方から告白してきた!
だけどそれは、迷惑なファン避けのための“偽彼女”になってくれ、というもの。
落胆する彼女だが、仮初めでも恋人として彼をサポートし、彼の評判を下げないようにと奮闘する。
その一生懸命な姿に、彼の心も徐々に変化して……
んで結ばれてハッピーエンド。
簡潔にまとめると、こんなストーリーだった。
面白いには面白かったけど。
(やっぱり、ホラーが良かったな……)
終わってから、改めてそう思った。
劇場から出て、う〜んと背伸びする。
「終わったか……」
「映画観ただけなのに……なんか疲れた〜」
グレッ厶とピコちゃんも欠伸をして、すごい退屈そう。
「フフフフフ……ありがとうございます皆さん。おかげで楽しい時間が過ごせました」
疫病神だけ上機嫌。口角めっちゃ上がってる。キモ。
「ん……もう3時過ぎてるな……そろそろ帰るか」
グレッ厶が腕時計を見て、そう言った。
「え。まだまだ遊べるじゃん」
3時って。全然昼間でしょ。
すると、疫病神が後ろから、肩に手を置いてきた。
「レミィさん、今日は帰りましょうよ」
「は?何でよ」
振り返って聞く。
「今日は悪魔と遭遇せずに済みましたが……明日、明後日はどうなるか分からないでしょう?早く帰って、戦う英気を養った方が良いと思うんですよ」
「む……」
確かに。悪魔といつ、どこで遭遇するかなんて分からない。
「それもそうね……じゃ、帰ろうか」
あたし達はアポロンストリートを去った。
やっとショッピングモール編、終わりました。
ちなみに四人が観たかった映画のモデルは、特にありません。




