「水林檎さん」
おんなの源氏名は「水林檎」という。
ずいぶん座りがわるいというか何というか。シアトリカル。自我のうっとうしさが感ぜられるために、おとこによっては指名しないかもしれない。
わたくしはメンタルがあるうえ、お酒も飲まないため、そういう悪所には疎遠だし、だいいち金銭をはらって皮膚と皮膚をこすりあう行為に ひとのごうの 深さを みてしまい 無意味にキズをつくる気がした。
だけれどだけれど、その夜は。
パイセンのおごり、ていうカセがありましてん。無下には断れない子であるのもメンタルかかえている証左なんです。
おんなはわたくしより大分トシウエの様だった。スタイルが迚も良かった。おもいの外、笑顔がうつくしかった。
くらいソファは けだものの黒い革 を張ってあるんだ。死んだうしの背中なんだ。しかもそれは偽物のうしなんだ。架空のしたいなんだ。
それがかすかにこわかった。
ソファにまたがって。
構造や組織をブラックライトに明かした水林檎さんは、ひどく官能的だった。
かのじょはうつくしくて、綺麗だから、わたくしは嫉ましくおもったくらい。
それから数年後のはなしなんです。
わたくしの入院した病棟に、かのじょは現れた。
病衣をきていた。
お化粧はしていなかった。
本名は加奈子といった。
ふつうの名前だった。
そうしてふつうに笑っていた。
それはそれで綺麗だった。
わたくしが退院した二日あとに、かのじょは首をくくった。
かぜの噂に聞いたんです。
其れだけのはなし。




