表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/240

26 風結ノ章 二十六

「では、母様のいる丹後へ行って、母様に会った後温泉に立ち寄り、傷を癒しましょう!」

紅羽は嬉しそうだった。


「紅羽姉様・・・・」


伊佐は紅羽を見つめて思う。

いつもは凛として美しい姉様も、時には少女のような無邪気な顔を見せる。

いつか、わたしも姉様のような美しい女になれたら、白結丸様も・・・・。




『伊佐、とても頼もしくて美しいな。嫁にしよう』

なんて!

・・・・きゃーっ!!





「ああっ!?紅羽姉様、伊佐姉様がまたくねくねと!」

「伊佐、まだ悪霊が抜けきっておらんな・・・・」






「ですが姉様、なぜ母様に会いに行くだけなのに・・・・」


三人は鎧装束を身につけている。さらに兵が二十人。御体車みたいぐるまが三台。それぞれの戦御体を乗せている。


「何を言う、伊佐。いつ何時、敵がいるかわからないでしょう?」

「それはそうですが・・・・」


「それに、ここから西へ進むと老野坂おいのさかの関の向こう、老江山おいえやまには山賊やあやかしが出るとの噂もあります。どれだけ心積もりしても足りないくらいです」


「そうなんですね」


・・・・紅羽姉様の言うことですから、何か深いお考えがあるのでしょう。

そうか!もしかしたら、このまま内緒で白結丸様を追うことをお考えなのでは?


そうです、それに違いない!


さすが姉様!このまま終われませんものね!

わたしたちにも言えない、何かを掴んでおられるのですね!


は、白結丸様を追って行く!!

・・・・えへへ。






・・・・時千代に絶対に怪我なんかさせられない!

無事にたどり着いて、時千代と二人で温泉!!

背中を流し合って・・・・それで・・・・。

ほんのり赤い時千代を、ゆったり愛でる至福のひと時・・・・。

・・・・でへへへへ。


あ、鼻血。






「姉様たち、早く行きましょうよ!」








「で、都で一番と名高い職人のところへ来た!」

「それは何故ですか?」


貞基は兵たちと重国を連れて楠流番匠くすりゅうばんしょうの前にやってきていた。


「わからんか、重国。孝基兄者の話だと霞の末子の戦御体は壊れかけだったと聞く。ならば、それを直すために職人町に来ているに違いないのだ!」


「・・・・そうでしょうか?」


「壊れたものは直す!当たり前であろう?」


「そんな、わざわざ捕まるかもしれないのに都の中をうろうろとする訳が・・・・」




「たのもー!!」

「あ、聞いてない!」





「なんだ、おめぇたち!!」

出てきたのは筋骨隆々の男。

年は取っているようだが、その体は兵たちの誰よりも大きく、強そうだ。


「最近、戦御体の・・・」

「戦御体だぁとぉ!!」


・・・・・。


貞基を睨みつけてくる男。


「重国、こいつには戦御体が何だかわからんようだ」

「若、巷では戦御体のことを”鬼”と呼んでおります」

「そうか。鬼退治は武士の務め。鬼と言えばわかるか」


「何をごちゃごちゃ言ってる!?何の用だ!?」


「鬼を退治に来た!」


「はぁ?」


「若、それでは意味がわかりません!」

重国が耳打ちする。



「鬼なんかここにはいねぇ!!いるのはうちのおっかぁくれぇだ!!」

「誰が鬼だって!?」

「だから、うちの・・・・・・」


重蔵のうしろに、妻のきみが顔を引きつらせて立っていた。

「ひいっ!?」



「なあ重国。あの大男が怯えておる。あれが鬼か?」

「違います。あれは鬼嫁です」

「鬼嫁は鬼ではないのか?」

「鬼嫁は鬼のような嫁です。嫁は人です」

「では、鬼は?」

「戦御体のことを話していたのに、いつの間にか鬼の話になっています」



「あんたたち、なにをごちゃごちゃいってんだいっ!!」






「なぜ殴られて追い出されたのだ?」

貞基は頭のこぶを気にしている。


「若のせいです。いい加減にしていただきたい」

重国もこぶを気にしている。




「ぎゃあああああっ!!」


後ろの方で、あの大男の叫び声が聞こえた。



「あの男もきっと、若に「いい加減にしてくれ!」と思っていると思いますよ」


「・・・・おれにはわけがわからん」



「若、申上げます!」

兵が貞基のところへ来ると、片膝をついた。

「・・・・どうした?」

「紅羽様が兵を連れて都を発たれ、西へ向かわれたとのこと!」



「紅羽が?」

「若、ですが紅羽様はお暇を取られて温泉に行くと・・・・」

「知っておるか、重国」

「何をでしょう?」

「普通、温泉に行くときは兵を連れて行かぬのだ」

「・・・・そう、でしょうね」

「ならば、考えられることはひとつ!」

「はい。霞の末子を捕まえに・・・・」


「おれが迎えに来るのを待っておるのだ!」


「どうしたらそういうことに?」



「ともかく、我らも紅羽の後を追う!皆の者、ついて参れ!!」


「おうっ!!」

兵たちが声を上げる。

貞基以下五十騎が西へ進軍を開始した。




「えー・・・・・・大丈夫ですか?」







・・・・なんで緋家の追手が?

もうあいつらのこと、バレちまってるのか・・・・?


皆秀、ともかく無事で行けよ・・・・・。



そんなことを思いながら、頭のこぶを気にする大男・楠重蔵くすのきじゅうぞうだった。








「なあ、皆秀」


「はい、なんでしょう嶺巴殿」


「あの小御体、ずっと遠巻きにあたしの方を見ているんだけど」


「すっかり嶺巴殿が気に入っているようですね」


「気になって着替えも水浴びもできないんだよ」


「向こうは気にしてないと思いますよ?」


「あたしが気にするんだよ!」



山道を登る一行の少し先を、小御体は木の枝から枝へ、腕の鎖や六本の足を器用に動かして渡っていく。


「蜘蛛だか猿だかわからないねぇ・・・・」



「もうすぐ関所がある。すこし手前で馬を休ませよう」

白結丸が声をかける。


御体車を引いている馬が泡を吹いている。

ずっと急な上り坂だったからだ。



山道の途中で広い場所を見つけ、そこへ御体車を引き入れる。


「どうする?関所はこのまま通れないよ?」

「そうですね。白結丸殿と嶺巴殿はお尋ね者ですし」


「新しくなった風結でふっ飛ばせばよいのじゃ」

ミカナ・・・・。


「どちらにしてもこの先、馬で車を牽くのは難しい。御体車を御体で背負って、森の中を抜けようと思うのだが・・・・」


白結丸がそう言いかけた時、関所の方から旅人たちが走り降りてきた。

「た、助けてくれ!」


「どうしたんだ!?」


白結丸が息を切らしている旅人に言うと、しばらくぜぇぜぇ言った後、こう答えた。



「上が人で、下が蜘蛛みたいな変な奴が、関所で暴れてるんだ!!」




・・・・・・・。




・・・・ああ、そうですか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ