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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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27 風結ノ章 二十七

白結丸たちが老野坂おいのさかの関所にたどり着いたとき、すでに役人たちは地面に倒れていた。


「う、うう・・・・」


「白結丸殿!あそこの人、意識がある!」

皆秀が役人の肩に手をかけて起こす。

そこへ白結丸が役人へ声をかける。


「しっかりしろ!誰にやられた!?」

「う、上が人、下が・・・・蜘蛛・・・・」


ばきっ!!

白結丸が役人を殴る。


かくっ。

また気を失った。


「よし、これで気が付いたときは全部夢だと思うだろ!とりあえず誰もいないうちに役人を縛り上げよう!」


「そうだね、承知したよ」


「白結丸殿、意外と容赦ないですね」







「とりあえず、これでよし」


地面に転がっていた役人を六人、全員縄で縛り上げた。


「では、今のうちに行こうかの」

ミカナがすました顔で言う。



「だけどよ、皆秀。あいつ、おとなしくさせられないのか?」

嶺巴が言うと、皆秀は困った顔をする。

「・・・・おれに言われましても」


「もともと人だった時の気性を持っておるからな。難しいじゃろう」

ミカナが言う。


「でもさ、もともとって、どんな奴だったんだろう?罪人だったんだろ?」


「その罪人が、羅城門ではおれたちを助けてくれたんだ。おかしなことだな」

白結丸が言う。





「きしゃぁぁぁぁぁっ!!」

どこかで小御体しょうみたいが鳴く声がした。







「ある旅人が老江山にさしかかった時、不意に霧に包まれて方向を見失ってしまった。とにかく前へ進もうと、坂を登っていった。すると、登れば登るほど疲れを感じなくなり、だんだん走って山を登ることもできるくらいになっていった。そして頂上に着くと霧が晴れ、目の前にお堂があった。誰が何のために作ったお堂かは見てもわからなかったが、旅人が恐る恐る中を覗いてみると、若い尼が経を読んでいた。年の頃は十七・八で、それは美しい尼だったそうだ。だが、その尼の周りには人骨が散らばっており、旅人は怖くなって逃げた。だが、走っても走っても同じお堂の前に戻ってきてしまう。すると、尼が旅人の前にあらわれて、「道に迷った旅人か。大したもてなしはできないが、酒ならある」と言って旅人をお堂に招き入れたという。尼は酒を飲めと勧めたが、旅人は飲んだ振りをして、酒を床に捨てた。「そこにある人骨は何だ?」と尋ねたところ、「わたしは八百年以上、ここに迷い込んだ旅人を食っている」と言ったと思うと、白い虎に姿を変え、森の中へ消えていったという。旅人はいつの間にか、山の中腹で倒れていたそうで、慌てて山を降りて一命をとりとめたらしい。勧められるままに酒を飲んでいたら、命を取られていただろう」




「って話です」

皆秀は話し終えると、皆の様子を見渡した。



その夜は野宿になった。

次の宿まで行きたかったが、馬が思うように車を牽けず、手間取っているうちに陽が暮れてしまった。




「なんだよ、その御伽草子おとぎぞうしは。まるで子供騙しじゃないか」

嶺巴は欠伸をしている。


ミカナはいつからかわからないが、すうすうと寝息をたてている。


「あれ?怖くないですか?」

「怖いわけないだろ?今時、わっぱもそんな話怖がらないよ。なあ、白結丸」

「あ、当たり前だろ?そ、そ、そ、そんな話」




・・・・・・・・・・。




「・・・・白結丸の弱いとこ、見つけた。くくく」

嶺巴がにやりと口元を上げた。



「あ、そこに!」

嶺巴が突然草むらを指さす。


「ひぃっ!?」


嶺巴に飛びつく白結丸。

「おーよしよし、かわいいねぇ」


「こ、こらっ!からかうなよ!」


「あはは!何もいやしないよ!」


「そんなことないだろ!本当にいたから驚いたんだよ!」


「・・・・・・え?」


嶺巴が適当に指さした先には、暗闇の中にぼんやりと浮かぶ人の姿があった。

青白い顔。ぼさぼさの髪。

そして、下半身は蜘蛛。



「ぎゃああああああああああっ!!」

「ひぃいいいいいいいいいいっ!?」

嶺巴の悲鳴に皆秀も驚いて叫んだ。




「ひっ!?何じゃっ!?」

驚いたミカナも飛び起きた。







その小御体は火を焚いている一行の少し離れた森の草陰からこちらを見ている。


その姿は・・・・・。

ものすごく不気味。



「名前がないから、余計に不気味なんだよ」

嶺巴がぼそりという。



「なら、嶺巴殿、名付けてはいかがですか?」

皆秀が言うと、嶺巴は慌てた様子。

「や、やめてくれよ!あたしはそういうの、すっごい苦手なんだから!」

「じゃが、もっとも嶺巴に懐いておるからの。嶺巴がつけた名ならあいつも喜ぶのではないか?」

「なんだよ、ミカナまで」

「おれもそれがいいと思うぞ」

「白結丸!!」

「じゃあ、決まりです。嶺巴殿、名付け親になってやってください」


「・・・・・・」


嶺巴は眉間に深く皺をよせた。

「まあ、ゆっくり考えればいいですよ」



朝日が昇った。


「・・・・・・嶺巴、もしかして一晩中考えていたのか?」


嶺巴が死にそうな青い顔で白結丸を見上げる。


「え、えへへ。思いついた・・・・」






「こいつの名前は、”荊火いばらび”だ!」


嶺巴が小御体の頭に手を置く。


「あたしが子供の頃、言うこと聞かないときに父上が話して聞かせた、怖い怖い鬼の名前!荊火童子から名前をとって、”荊火”!」



「ふん、いいんじゃないか」

「そうじゃな」

「そうですね」


「・・・・それだけかい!あたしが一晩悩んだってのに!」



「きしゃああああ!」

荊火は首をかくかく動かした。

「・・・・まあ、あんたが気に入ってくれるならそれでいいよ」





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