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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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28 風結ノ章 二十八

山賊が現れた!


「た、助けてくれっ!!」

一行が街道を西へ進んでいくと、山道の途中で

向こうから走って逃げてくる男がいた。



「またかぁ・・・・」

ミカナが心底嫌そうな顔をする。



「どうした?一応聞こう」

白結丸は、想像がついていた。


「おれたち、襲われているんだ!訳の分からない奴に!!」


「もしかして、それは上が人で下が蜘蛛みたいなやつか?」


「そうだ!その通り・・・・知ってるのか?」



「みんな、先を急ごう!」


「あーい」

「承知しました」

「行くのじゃ!」


「ちょっと、あれ、お前たちの仲間かっ!?」



これで何回目だろう?

山賊が「襲われているから助けてくれ!」などと。

普段は襲っている立場だろうに。

「助けてくれ」という旅人を助けているのか?



「しかし、この辺りは山賊がこんなに多いのか?」


「はい。昨夜話した通り、あやかしの噂が絶えない場所ですから、山賊にとっても隠れみのになるのでしょうね」


「山賊同士もいろいろあるだろうに」

嶺巴が言うと、ミカナがニヤッと笑った。

「さすが、元山賊」


「ふん!あたしたちと並の山賊と一緒にするんじゃないよ!」


「しっ!何か、聞こえる」


白結丸が耳を澄ませた。




かしゃん、かしゃん・・・・・・。


ずうん!・・・・・・ずずぅぅぅん!!




荊火いばらび、何かと戦っているのかい?」


「この重たい音・・・・もしかすると・・・・」



「・・・・戦御体ですね」

皆秀が言った。




「戦御体を使う山賊なんているのか!?」

「わかりません!ですが、戦のあとで放棄されたものなどを使う山賊ならいるかもしれません!」

「さすがに戦御体相手では荊火も分が悪いよ!」

「助けに行こう!ミカナ!頼む!」



「・・・・やれやれじゃ」

ひとりだけ腰の重いミカナ。


「・・・・見た目幼いけど、中身はおうなだねぇ」

「そこまで歳とっておらんわ!」


荷車にかけられた大きな布を取り去る。


新緑と白に塗られた戦御体、新しくなった風結が現れる。


ミカナが御霊石に触れると、石が輝き出しその姿を吸い込んでいく。

そして白結丸が腹の部分、繰り座に滑り込む。

そして両側にある御霊石に触れた瞬間、体の全神経が広がり、風結を自身の体と認識する。

風結は白結丸自身の体となって動き始める。


風結は立ち上がると、一気に森の中へ走り出す。


「これは・・・・以前より何倍も軽い!」


『おお、すごいぞ!さすが、今の技はこれほどになっておるとは!』


「ミカナ、少し飛ばすぞ!」


風が、空気が、音が、後ろからついてくるような感覚に襲われる。

ひとたび大地を蹴れば、矢のように進む。


風結は森の木々の間を、飛び回るように抜けていく。




「・・・・・・あっという間に行っちゃいましたね」

皆秀が森の中へ消えていく風結を見送った。


「ちょっと、白結丸!!」

嶺巴も慌てて蒼刃に乗り込む。


「待ってください!嶺巴殿はここで白結丸殿を待ちましょう!今、おれだけで山賊に襲われたらひとたまりもありません!」

「ちぇっ!あたしだって、蒼刃を試したかったのに!」








「あれだ!」


うす暗い森の中を抜けた先、視界が広がる。


荊火が腕の鎖を絡ませながら、空中を飛び回っている。

木から木へ、そして地面を蹴ると、大きく飛び上がる。


そしてその鎖を戦御体が掴む。

首はなく、ずんぐりとした体で背中に角のようなものが二本生えている。


「うりゃあ!」


戦御体は荊火の鎖を引っ張ると、地面に叩きつける。


「きしゃああああっ!!」

どうん!!


荊火が砂塵を巻き上げて地面に激しく突っこむ。


『さすがに力負けしておるの!』

「考えもなしに突っ込むからだ!」


風結は腰の太刀を抜くと、山賊の戦御体の前に躍り出る。


「おい!山賊!そこまでだ!」


「なんだ、貴様!」


「そいつを離してもらおう!」


「何を言うか!もともとこいつからおれたちに喧嘩をしかけてきたんだ!このおれ、大盗賊”荒熊あらくま”と、戦御体”角鳴つのなり”に楯突くなど、殺されて当たり前だ!」


「ああ、わかってる!そんなこと百も承知だ!」

『こら、白結丸!山賊相手に問答しておる場合か!』


・・・・あ、確かにそうだ。


「では、風結の力、見せてやるぞ!」


一気に地面を蹴る。


ひゅっと空に跳ね上がる。



・・・・軽い!!


「なにっ!?飛んだ!?」


風結が飛び上がりながら太刀を振り下ろす。


山賊の戦御体は荊火の鎖を放り投げると、その一撃を転がって避ける。


「な、なんだ、あいつはっ!?」


角鳴が何とか立ち上がろうとした瞬間、目の前に風結が迫った。

「うひゃっ!?」

風結の太刀が横に一閃する。


それを咄嗟にしゃがんで避ける。

背中の角が斬られて落ちる。


「しまったな、動きが早すぎて踏み込み過ぎた」


『少し、動きを抑える必要があるな』


「そうだな。ミカナ、動きにかせをかけることもできるのか?」

『もちろん』

「頼む。普段の自分の体よりも、この風結は《《動きすぎる》》」



「なんだ、こいつは!?戦御体の動きではないではないか!?」

荒熊は戦慄した。


逃げなくては!!


踵を返すと、角鳴は森へ向けて逃げ出す。


それを追う風結。


『どうじゃ?これくらいか?』

「そうだな。もう少し抑えてくれ」


『よし、これでどうじゃ?』

ふっと、地面に引き寄せられる感覚が戻ってくる。

「いいな!これくらいだ!」

『よし、とどめを刺せ!』


「ああ、山賊退治だ!!」



森の中を逃げ惑う角鳴。


「あ、あんな化け物の戦御体、こんな古い国府の払い下げの戦御体で勝てるわけがない!」


はぁ・・・・はぁ・・・・・・。


急に静かになった。


荒熊は自分の呼吸以外聞こえない。



・・・・追ってこない?


「ははは・・・・。逃げ切ってやったぞ!!」

安堵した瞬間だった。


目の前に風結が空から降りてきた。


は?



だが、荒熊にそれを意識するほどの時間は与えられなかった。



落下する風結が振るったその一閃は、角鳴の体を左右真っ二つに斬り分けたからだ。



ずううん!!



「・・・・しまった!やりすぎたっ!!」

『気にするでない。当然の末路じゃ』

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