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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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25 風結ノ章 二十五

「滅創衆という邪魔が入りました」

紅羽は少し頭を下げた。


「それで霞の子を逃がしたと?」

孝基が低い声で言う。


・・・・自分だって逃げられたくせに!


「まあ、よい。仕方あるまい。こいつらの力不足じゃ」

紀基が寝そべりながら言う。


「紅羽、お前たちに少し暇をやる。修練せよ」


・・・・・・・くっ!


「はい」


「では父上、霞の子は?」


貞基さだもとにでもやらせろ。あいつに翔鶴しょうかくを与えればよい」


「・・・・翔鶴ですか?」


「何かあるか?」


「あれは・・・・是基これもとに与えようと思っておりましたゆえ」



「是基には羅刹らせつがあるじゃろ?もうお前は緋家の総大将になる身。戦御体に乗ることもあるまいて」


「はい・・・・」


「それで、佐伯さえきの行方はまだわからんのか?」


「はい。そちらも・・・・」


「もうよい。別の者を御体守みたいのかみにたてよ」


「承知しました」




「・・・・では、わたしはこれで」

紅羽が立ち上がる。


「ああ。修練に身を入れよ」


「御免」



紅羽は紀基と孝基のところを後にする。




・・・・・・悔しい!!


何が悔しいって、あの馬鹿貞基より下に見られた!



あー!!


悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!





・・・・時千代で心を癒そう。






「紅羽姉様!」

時千代っ!


・・・・そう!これこれ!!


ほわ~ってする!


ああ、かわいい・・・・・。



「伊佐姉様が最近変なのです!」

「伊佐が?」

「はい。時々、体をくねくねしておられるのです!」


・・・・くねくね?








・・・・白結丸様。


『次は敵ではなく、恋の相手として会いたいな!さらばだ!』

伊佐の脳の中で、白結丸の言葉を都合よく改変している。


『その傷のせいで行くところがないなら、おれのところへ来るがいい』

『傷?それは綺麗すぎるお前にとって、他の者と並ぶための、いわば枷のようなものではないか』

『そもそも、お前のような綺麗な娘は嫁にするしか考えられない!』



・・・・いやん!





「・・・・・本当にくねくねしているっ!?」

「でしょう?病気でしょうか!?それとも悪霊!?」

「そ、そうだな、陰陽師を呼んだ方がよいかも・・・・」






「アウンカラカラオンカラカラエンカラカラワンカララ・・・・キエー!!」





「・・・・ちょっと、さっぱりしました」

伊佐の顔から、少し赤みが引いた。


「・・・・よかった」

「どうなることかと・・・・」

紅羽と時千代は胸をなでおろす。


「それで、爺様と叔父上は何と?」


「・・・・それが・・・・」




・・・・・・。





「白結丸様討伐を貞基が!?」

伊佐が声を上げる。



「ああ、貞基にやらせるらしい。わたしたちは暇を取らされた。もっと修練しろとか言われた!」


紅羽は言いながら悔しさが沸き起こってくる。



「それは・・・・駄目です!!」

「伊佐?」


・・・・だって、貞基は頭は悪いけど、腕だけはそこそこある。もしかしたら、白結丸様は・・・・。


「駄目ですよ!そんなことしたら、わたしたち、白結丸様に会えなくなります!!」


「・・・・白結丸、様?」





・・・・あ。




「は、白結丸、秋刀魚さんまと煮て、あえなくどうにかこうにかなっちゃったりして!」


「・・・・伊佐、 まだ悪霊が残っているみたいだな。しばらく休もう」

「紅羽姉様・・・・」


「では、姉様たち!」


時千代が満面の笑みで嬉しそうに言った。


「お役目がないのなら、母様ははさまに会いに行きませんか!!」








「是基、お主に与えるつもりだった翔鶴だが、貞基へ与えることとなった」


「そうですか。かまいません。お爺様がそう申したのでしょう?」

「うむ。それで、お主にはわしの羅刹を与える。これから修練して使いこなせるようにな」

「おお、ありがたきことです!父上の戦御体をいただけるとは!」



「是基兄ぃ、父上なんだって?」

三男、昭基あきもとが言う。

一番下の弟、四男の敦王あつおうの手を引いている。


「ああ、おれに戦御体をくれるって」

「おーすげぇ!!」

「しかも、父上の羅刹だぞ!」

「わー、いいなぁ。おれも欲しいなぁ」



「お、おれにもくれないかな?」




知基とももと、おれがやっともらえたのに、お前にはまだ早いだろ?」


知基は是基の一つ下の腹違いの弟。

四人兄弟で唯一の側室の子だ。


「父上に聞いてくる!!」


そう言うと、知基は走り出した。


「あ、知基!!」


「兄ぃ、やっぱ知基兄ぃは変わってるよな・・・・」



しばらくして、知基は走って戻ってきた。


「なんて言われた?」


「殴られた!!」

知基はそう言って頭のこぶを見せた。


「ふっ、あははははっは!」

是基が噴き出す。

「知基兄ぃ、恰好わりぃ!あははっは!」


「あ、あはははっはは!!」


敦王だけが指を咥えて兄たちを見上げていた。









「これが、翔鶴か!!」


貞基が白い戦御体を見上げる。


白を基調に、肩には黒。背中に赤い丸が描かれている。

鶴の色らしい。

その形は人に近い。頭から肩、腰に流れる曲線は芸術のように美しい。


「なんでも、唐の職人・・・ホワン()イェン()とかいう者に作らせたそうです」

伴藤重国ばんどうしげくに。長く緋家に仕える家臣で、今は貞基のお守り役を仰せつかっている。


「そうか、あのほーわーいーえーか!」

「いえ、ホワンイェンです」

「方腕胃炎?」

「何ですか、それ?」


「だが、これでおれも戦える!これで手柄を上げれば父上《紀基》も認めてくれるだろう!」


「・・・・そうでしょうか?」


「そうなれば、おれと紅羽の婚儀も間違いない!!」


「・・・・そうでしょうか?」


「で、おれはどこへ行って何をしたらよいのだ!?」


「知らないのにひとりで盛り上がっていたのですか?」





「まあいい!とりあえず出立するぞ!!仕度せいっ!!」





「・・・・・・あの、どちらへ?」

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