24 風結ノ章 二十四
「紅羽姉様ーっ!!」
時千代が紅羽に駆け寄る。
「時千代・・・・時千代に助けられたな」
掠れた声でいいながら、時千代の頭を撫でる。
「紅羽姉様ぁ・・・・」
・・・・わたしのために泣いている時千代!今なら、今なら・・・ぎゅってしてもいいかな!?いいのかなっ!?
「わああっ!!」
紅羽が迷ううちに時千代が飛びついた。
「ぐへぇっ!?」
・・・・・・時千代、そこ、痛いところ!!
「伊佐、肩の傷を見せて見ろ」
「白結丸?」
白結丸は伊佐の肩、着物の破れたところに手をかけると一気に引き裂いた。
「ちょ、ちょっと何をする!?」
顔を赤らめる伊佐。
白結丸は自分の着物の袖を破ると、伊佐の肩の傷口に巻いた。
「・・・・・・」
「傷口が開かないように気を付けるんだ」
「・・・・なぜ、わたしに・・・・」
「お前のような綺麗な娘に傷が残ったらいけない」
「敵に情けをかけら・・・・・・え?」
「それと、おまえはずっと紅羽の一歩後ろにいたが、力押しの紅羽よりおまえの方が怖かった。もっと前に出たほうがいい」
「・・・・・・」
「・・・・どうした?」
「・・・・さっき、何と言った?」
「お前は紅羽の一歩うしろに・・・・」
「その前・・・・」
「傷が開かないように・・・・」
「違うっ!!」
「・・・・おれ、何か言ったか?」
「・・・・意地悪」
「は?」
「な、なんでも・・・・・ない」
伊佐の肩を結び終えると、白結丸は立ち上がる。
「どうやら紅羽も大丈夫みたいだな。おれは行くから。傷、綺麗に直るといいが」
「・・・・綺麗・・・・・・・」
ぼっ!
・・・・顔、熱い!!なに、これ!?
「ま、また・・・・会える?」
「?」
「・・・・い、いや、何でもない!」
「次は敵じゃなく会いたいな!またな!」
「はい・・・・また!・・・・白結丸・・・・」
様。
白結丸の後ろ姿を見送る。
目が離せない・・・・。
何、これ?
ぽっ。
◇
「滅創衆ですか。名前は聞いたことがありますが・・・・」
皆秀が顎に手を当てながら言った。
「宗派のようなもの、としか知りませんけど」
白結丸と嶺巴、ミカナは彦佐たちの御造所へ戻ってきた。
嶺巴は手拭いでミカナの髪を拭いている。
「だが、あいつの強さは半端じゃなかった。もう一人仲間を連れていたが、ふたりがかりで来られたらおれはもうこの世にいなかったかもしれない」
「白結丸が言うならよっぽどだね」
嶺巴が言うと、ミカナが白結丸の腕にしがみつく。
「おれたちが会った相手も怖かったのう、嶺巴」
「そうだよ!あいつ、なんかこう、わかんないけど、怖い奴だった!」
「・・・・そうだな、おれも良くわからないが、都には強い奴が大勢いるってことか。やっぱり人が多いところは怖いな」
「白結丸殿より強い者は都でも珍しいと思いますが・・・・」
皆秀が苦笑いしながら言う。
「で、どうするんだい?」
嶺巴が風結を指さす。
「もうほとんど終わってるって言ってたよ」
風結は見違えるほどきれいになっていた。
剥がれていた緑色の塗装は新しくなり、新緑と白に塗り分けられた。
その出来は、彦佐の満足気な表情でもわかる。
「東雲山に行くか・・・・それとも」
嶺巴が白結丸を見る。
「・・・・・・」
ミカナが白結丸を掴む手に力が入る。
「まず、因幡へ行く」
「白結丸!」
ミカナが白結丸に飛びついた。
「宗矢兄上がミカナと約束したのだろう?ミカナの父上の仇をとるって。おれは宗矢兄上の遺志を継いでいるからな」
腰の白い長刀に手をやる。
・・・・それに、あの滅創衆のような奴がおれを狙ってきているのなら、お蓮たちを巻き込むわけにはいかない。
「さすが白結丸!おれが身も心も捧げた男じゃ!」
ミカナが白結丸の胸に顔をうずめる。
「ちょっと待て!”身も心も”ってなんだ!?」
嶺巴がミカナを白結丸から引きはがそうとする。
「何を言う!おれと白結丸はいつもひとつじゃ!」
「何を言ってんだい!身も心もちんちくりんのくせに!」
「おれはこう見えても嶺巴より歳上じゃっ!」
「歳がどうとかじゃないんだよっ!」
「あの・・・・喧嘩しないで・・・・」
「「うるさいっ!!」」
「・・・・はい」
「・・・・あの、おれもついて行っていいですか?親方にも破門されたので楠流にも戻れないし・・・・」
皆秀が恐る恐る手を挙げる。
「そもそも、誰がちんちくりんじゃ!」
「ちんちくりんはちんちくりんだろ!?」
「お主みたいに膨らんでおればいいというものではないわ!」
「あ、あの・・・・旅の途中で御体が壊れたら、直す人も必要だと思うし・・・・」
「なんにもないよりはずっとましだと思うねっ!」
「自慢げにほっぽり出しておる女もどうかと思うのじゃ!」
「こ、これでも、ここでひと通りの技と知識は身につけたんですよ・・・・」
「だけど、白結丸は大きい方が好みだから!あら残念!」
「白結丸は破廉恥な娘より、古風でしとやかな娘が好みじゃ!こりゃ残念じゃな!」
「・・・・まあ、まあ」
と、白結丸。
「「うるさい!!」」
「・・・・・はい」
「・・・・・・あの、誰かおれの話も・・・・・・」
皆秀。
「「うるさい!!」」
「・・・・・・はい」
◇
その五日後。
「戦御体は、普段はこの御体車に乗せて、馬で牽きます」
「大きな荷車じゃな」
ミカナが見上げながら言う。
「はい。普段から御体に乗って歩くと、すぐに霊力が切れてしまっていざというときに動かせなくなりますので」
彦佐はそう言うと、「かなり頑丈な荷車ですから、ちょっとやそっとでは壊れません」と付け加えた。
「すまなかったな、彦佐。いろいろ世話になった」
「いえ。いずれ、あなたたちが、世の中を変えてくれたらいいです。御体を役に立つものとして。誰でも作れて、使えるものになる世がくればいいと思っていますから」
「ああ、今のおれでは約束できないが、やってみようと思う」
こうして白結丸たちは因幡へ向けて出発した。
西へ。皆秀も一緒に。




