23 風結ノ章 二十三
紅羽と伊佐が刀を振るった瞬間。
伶守の体が消えた。
「なっ!?」
「消えた!?」
次の瞬間。
紅羽の体を伶守が蹴り飛ばす。
「ぐはっ!?」
紅羽の体は大きく飛んで、壁に当たって地面に落ちる。
うっ。
口から血を吐く。
「くそっ!!」
白結丸は一気に動くと、伊佐へ飛び掛かる。
「えっ!?」
白結丸は伊佐の体を抱きかかえ、その勢いのまま地面を転がる。
さっきまで伊佐がいた場所の地面に、伶守の短刀が突き刺さる。
「くっ!?」
「大丈夫か、伊佐?」
白結丸は伊佐を見る。
肩が切れ、血が滲んでいる。
痛みで顔を歪ませる伊佐。
「少し離れているんだ!」
白結丸は立ち上がると、伶守へ向かって走る。
伶守も走り出し、一瞬のうちに地面に刺さった短刀を拾うと、白結丸めがけて投げつける。
きいん!!
その短刀を刀で弾く。
だが、次の瞬間。
白結丸の前に伶守の顔が広がる。
・・・・間合いに入られた!
ごふっ!?
伶守の右の拳が白結丸の鳩尾に入る。
白結丸は体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。
そのまま伶守は前へ跳ぶ。
白結丸の体は地面に叩きつけられた。
ぐはっ!!
口の中に血の味が広がる。
そこへ、短刀を持った伶守が迫る。
「待ってください!!」
伶守の短刀は、白結丸の鼻の先で止まった。
白結丸の鼻の頭から、つうっとひとすじ、血が流れる。
・・・・伶守はそこで刃を止め、立ち上がった。
「止まってください!これ以上はわたしも黙っていませんよ!!」
伶守が振り向くと、そこには黒と金色の戦御体、金冠が立っていた。
時千代だ。
「・・・・命拾いしたな、霞の子よ。もう少し強くならねば、この世は取れんぞ」
伶守は短刀を鞘に納め、懐へ入れた。
「・・・・緋家の御曹司!」
「な、なんでしょう!?」
「本気で敵を止めようと思うなら、怖さで震えるのを堪えよ!」
「・・・・・・はい」
伶守は歩き去った。
「あ、待ってよ、兄者!」
紺織が続いて去っていった。
◇
「ええと、なんであたし、こんなところにいるんだっけ?」
嶺巴は廃屋の中にいた。
広い屋敷だ。
「白結丸を助けないといけないのに!」
だが、この屋敷、迷路のように入り組んでいる。
・・・・ええと、落ち着いて!
さっき、右に曲がったから、次は左!次は左しか行けなくて、その次は左の部屋に入って・・・・あれ、ここさっきの場所じゃないか!?
ずっと長い間、人が出入りしていないのだろう。
床からは草が伸び、天井は破れて剥がれ落ちている。
もう、どうしたら出られるのかねぇ!?
・・・・そう言えば、ミカナはどこに行ったんだ?
ぴちゃっ。
足元が濡れている。
・・・・ミカナか?
水が床に点々と続いている。
「ミカナ・・・・?」
床の水の後を追って、部屋の角を曲がる。
そこにミカナがいた。
全身がずぶぬれで、長い黒髪は頬に張り付き、装束は体に張り付いていた。
ゆっくりとミカナが振り返る。
「嶺巴・・・・・」
その目の端には、涙がたまっていた。
「ミカナ!?」
「ここじゃ・・・・」
「?」
「この部屋で、子どもが生き霊に憑りつかれて苦しんでおった。父様は、その子の命を救ったのじゃ。おれはその父親に原因があるとわかっておった。だから、それを悔い改めよと言ったのじゃ。そうしたら、父様が・・・・首を刎ねられた」
「ミカナ・・・」
「おれは、何も見えない暗いところへ閉じ込められて・・・・光も風もなかった」
嶺巴はゆっくりとミカナに近づいて、肩に手を置いた。
「おれの名、ミカナは父様がつけてくれた・・・・」
ミカナは顔を上げた。
「光と風の名。だからミカナ。なのに、そこには光も風もなかった・・・・。名を呼ぶものもいなかったのじゃ・・・・・」
「・・・・・」
嶺巴は濡れて冷たいミカナの体を抱き締めた。
「それが誰だろうと、あたしたちに任せなよ。取ってやろうぜ、仇をさ!」
「・・・・頼む」
その時。
嶺巴は咄嗟にミカナを背後に押しやると、腰の刀に手をかけた。
「誰だ!?」
「・・・・・・なんか取り込み中でしょうか?」
冴えない男の声だ。
すぐそこ、障子の向こう側から出てきた。
・・・・こんなに近くに来るまで気配を感じなかった!?
男は肩まである薄汚い髪をかき分けて、半開きの目で二人を見た。
「女か。ここは空き家だから住まわせてもらっているのだが、出て行けというなら出ていくが・・・・」
「あたしたちはここの屋敷のものじゃない。あたしらがすぐに出て行くよ」
「そうか。でも、教えてあげるよ」
「・・・・何を?」
「この屋敷にいた、富士江成親、今は因幡へ飛ばされた。因幡で成り上がって国司をしているって話だ」
「・・・・どうしてそんなことを?」
嶺巴の刀の柄を持つ手に力が入る。
背中を冷や汗が流れるのを感じる。
「さっき、成親が父親の仇だって言ってたじゃないか。親切に教えてやったんだよ」
「・・・・そうか。感謝する」
「頑張れよ、敵討ち」
そう言うと、男はまた襖の向こうへ消えていった。
まるで幻だったかのように、一瞬で気配が消えた。
「ミカナ、ともかくここを出よう。危険だ」
「ああ、そのようじゃな」
ミカナの濡れた顔が、少し青ざめていた。
◇




