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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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22 風結ノ章 二十二

「でえええやああっ!!」

紅羽が叫びながら白結丸に斬りかかる。


白結丸はその一撃を避けると、ミカナを持ち上げる。


「おっ!?」


「嶺巴、受け取れ!」


そう言ってミカナを嶺巴に投げる。


「う、うわっと!!」


どうにかこうにかミカナを受け止める嶺巴。


「こりゃ、おれは投げるもんではないぞ!」


「嶺巴!ミカナを連れて逃げるんだ!屋根の上からおれたちを狙う奴らがいる!気をつけろ!」


「承知!!」


嶺巴はミカナを抱えて走り出す。



「おい、白結丸ーっ!!」

ミカナが叫ぶ。



「逃がすな!あいつらも捕らえろ!」

紅羽が兵たちに号令をかける。


「おおーっ!!」


紅羽たちが引きつれていた二十人ほどの兵たちが、馬に乗ったまま嶺巴とミカナを追いかける。


・・・・くそっ!


ミカナを抱えた嶺巴は敵の兵たちにすぐに囲まれてしまった。


「嶺巴、囲まれたぞ!」

「わかってる!」

「敵は二十人くらいじゃ!」

「わかってる!」

「後ろは壁じゃ!逃げ道はないぞ!」


「だーっ!!わかってるってば!」


・・・・二十人くらい、何とかなる!だけど、ミカナを守りながらじゃ・・・・。



「そっか!」


嶺巴はぽん、と手を叩いた。


「お、嶺巴!何か思いついたか!」


にへぇ・・・・。


「な、なんじゃ?」

身の危険を察知するミカナ。


「守るの、やめれば勝てる!」



「は?」



ぽいっ!!



「ひ?」


嶺巴はミカナを屋敷の壁の向こうへ放り投げた。


「な、なぁにぃぃぃっ!!」


ミカナの体はそのまま放物線を描いて壁の向こうへ。


ばっしゃ――ん!!


バシャバシャ。


「げほっげほっ!!何をするーっ!!」

「池でよかったな、ミカナ!あとで迎えに行くから待ってな!」



さて、二十人。相手にするには不足だね!

嶺巴は腰の刀を抜いた。








「でやあああああああっ!!」

紅羽の気合の一閃が白結丸を襲う。


大振りだが、早い!

身を捻って避けたところへ、伊佐の突きが入ってくる。

白結丸はそれを飛び上がって躱す。


・・・・恐ろしいほどに息が合っている。


白結丸が斬り返そうにも、紅羽と伊佐、二人の隙間をお互いが埋め合っている。


そして、交互に打ち込んでくるため、白結丸に息をつく暇も反撃の隙間も与えない。


・・・・今は躱すだけで精一杯。


だが、どこかに隙が生まれるはず!!



打ち込まれれば打ち込まれるほどに、少しづつだが二人の動きに目が慣れてくる。


姉の紅羽は、力押しで来る。妹の方は、素早さで姉の助けをしている。

姉の隙間を埋め、姉が打ち込むところの邪魔をしないよう、一歩引きながら打ってくる。


なるほど!


見えてきた!



狙いは、こっちだ!






「あれあれ、緋家の姫が押してるじゃない!」

紺織ことりが目の上に手をかざして見つめながら言った。

「・・・・そう見えるか?」

伶守れいもりがぼそりという。

「え、違うの?」

「これだからお主は半人前のつまらん奴だというのだ」

「何でよ、兄者!わたしも今では四の衆の破導はどうだよ!」

「そんな肩書など、つまらんものだ」






「さて、ミカナを迎えに行くか」


嶺巴の足元には二十人の兵たちが倒れている。

全員、股間を両手で押さえている。


「・・・・ちっと、やり過ぎたかね?」


・・・・・・だけど、あんなところで高みの見物してるやつら、あたしは気にくわないけどね!


嶺巴は白結丸のところへ向かって走り出した。



・・・・向かって、いる筈だった。


「・・・・どっちから来たんだっけ?」






白結丸は紅羽の一閃を躱す。


そこへ伊佐が袈裟懸けに刀を振るう。


伊佐の一撃を刀で受け止めると、はじき返して横へ跳ぶ。

紅羽も、刀を振るえど当たる気配すらないことに苛立ちを感じていた。



「でええいっ!!当たれーっ!!」


叫びながら刀を振るう。


それを白結丸が跳んで躱す。


「姉様!落ち着いて!!」

伊佐が叫ぶ。


・・・・今だっ!!


それが一瞬の隙だった。


白結丸は地面を転がりながら短刀を拾うと、その勢いのまま投げつけた。


その短刀は紅羽でも伊佐でもないところへ、まっすぐ飛んでいった。


「どこを狙っている!血迷ったか!!」

紅羽が言う。






「ひょおおおおっ!?」


紺織が腰を抜かしていた。


白結丸の投げた短刀は、間違いなく紺織の眉間を貫く線を描いていたのだ。


それを、伶守が片手で止めた。

紺織の前髪が数本、はらり、と落ちる。


「やるじゃないか!こういう相手にはなかなか出会えんからな!!おれがやってみたくなった!!」

伶守が立ち上がる。


「ひ、ひ、ひぃ・・・・」

紺織は震える膝で必死に立ち上がった。


伶守はすっと飛び上がると、地面にともなく降り立つ。



「何者だ!?」

白結丸が言うと、伶守はニヤリと不敵に笑った。



「我が名は伶守!滅創衆めっそうしゅう一の衆(いちのしゅう)狛牙こまが破導はどうにして影の男!」


高らかに名乗りを上げる。





「・・・・・紅羽!」


「何だ、霞の子!」


「こいつ、今なんて言った?」


「知らないわよ!」





「と、ともかくわたしたちの邪魔をする気か!?」


紅羽が気を取り直して男に向かう。



「さっき、短刀を投げてきたのはこいつだ!ミカナを狙っていた!」

白結丸が言う。


「おれの短刀を防いだのはお前が初めてだ!霞の末子!」


「・・・・それは・・・・光栄至極」


・・・・なんだ、この男っ!?ただ立っているだけなのに、まるで隙がないっ!?

どう切り込んでも跳ね返される・・・・。


それがわかるから、踏み込めない!



「お前のような奴と、一度手合わせしてみたかったのだ!つまらん奴ばかりで腕が鈍ってしまう前にな!」


伶守が構えたと同時に一気に白結丸に迫る。


「早いっ!?」


かろうじて身を捻る。

着物の袖が少し切れる。


伶守は手にした短刀で、見えないほどの速さで打ち込んでくる。


きいん!きいん!!


・・・・相手は短刀なのにっ!?


・・・・受けるのがやっとだ!!


「どうした!打ってこい!!」

伶守が叫ぶ。


その後ろ。


「もらったーっ!!」

紅羽と伊佐が伶守の背後から飛び上がった。


「駄目だっ!!やめろーっ!!」

白結丸が叫んだ。

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