21 風結ノ章 二十一
「お、お前たち!!霞の子!!」
紅羽が叫ぶ。
「えっ!?緋家の姫様たち!?」
嶺巴が声を上げた。
「まずい!!」
白結丸が前に出て、刀の柄に手をかける。
「おれが霞家四郎白結丸!おまえたちの狙いはおれだろう!?」
「霞の末子!よもや都にいるとは!!」
紅羽が言いながら馬を降りる。
そして刀の柄に手をかけると、白結丸と睨み合う。
「我が名は緋紅羽!緋家当主浄基が娘!おとなしく六原へ来てもらおう!」
「・・・・おとなしくついていく気は・・・・ない!」
・・・・・・。
「と、いうことは白結丸様は叔父上殿ですね!」
とっても呑気な声で時千代が言った。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「初めまして!叔父上殿!わたしは時千代と申します!」
満面の笑み。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「こんなところで叔父上とお会いできるとは、紅羽姉様、やはり見回りもしてみるものですね!」
「こら、時!今、そんな雰囲気じゃないでしょ!?」
伊佐が言うと、時千代はびっくりした顔をする。
「え!?駄目でしたか?でも、白結丸様は母様の弟君でしょ?」
「そうだけど、今はそういう感じじゃないでしょって言ってんの!」
「・・・・・・・なんか、やる気が失せた」
紅羽が首を横に振る。
「・・・・そうだな、姉上の子、言われてみればそうだ」
「・・・・ええと、いいのかな?」
嶺巴が鼻の頭を掻きながらつぶやく。
「だが、六原へは連れていくぞ!」
紅羽が言うと、白結丸も顔を顰める。
「六原へ行く気はない!」
ふたりは再び向き合って刀の柄に手をかける。
「・・・・結局やるのか」
嶺巴も仕方なく腰の刀に手をやる。
「こりゃ!ここは天下の往来!こんなとこで抜こうとするやつがあるか!」
ミカナがずいっと前に出る。
「おい、ミカナ!!」
嶺巴が声をかける。
その声に耳を貸すことなく、ミカナは前に出る。
白結丸と紅羽の間に立つと、怒った顔で紅羽を見上げた。
「お主ら、何で白結丸を追っているか知らんが、それはお主たちの意志でしておるのか!?ちがうであろう?どうせあの紀基入道めに言われてしかたなくしておることじゃろうが!」
「・・・・それが、・・・・・それが我らの役目!何が悪い!」
「紀基入道に言われて母親の血縁を斬るなど!そのようなこと、母様が悲しむと思わぬのか!?」
「き、斬るとは言っていない!ただ、六原に・・・・」
「いいや、斬る!お主らは白結丸を斬る!」
・・・・斬られる気はないのだけど?
「紅羽姉様!」
時千代が声を上げる。
「・・・・・・わかった」
紅羽が再び柄から手を離した。
「確かにここではあたりに人の目が多すぎる。このようなところで刀を振り回すのはわたしとて本望ではない」
「・・・・紅羽」
白結丸も姿勢を戻す。
「だが、わたしたちとて、お前たちを目の前にしてこのまま帰るわけにもいかん」
「・・・・・・」
「その娘を預かる!」
そう言ってミカナを指さす。
・・・・・・何、この娘。怒っている顔、ものすごーっく愛らしい!
時千代と二人並べて、ぎゅーってしたらものすごい幸せに違いない!
あ、鼻血出そう・・・・。
「な、なんでおれなんじゃ!?」
「それは、お前がかわ・・・・人質だからだ。この娘を取り戻したければ、六原まで捕らえられに来るがいい!」
「どういう理屈か知らないが、ミカナを渡す気はない!」
「ならば、やはりここで・・・・」
◇
「なあ、兄者。これ、いつになったら始まるの?」
紺織は痺れを切らしていた。
白結丸と紅羽のやり取りをしている近くの家の屋根の上。
二つの人影があった。
「ふん、つまらん。霞の末子、どれくらいのものか期待していたがな」
伶守のイライラも限界に達していた。
「どれ、けしかけてみるか」
懐から短刀を出す。
「あ、兄者!それあたいにやらせてよ!」
「駄目だ!外したら元も子もなくなる!」
「外さないよっ!!これでも修行はちゃんとしてる!」
「うるさい!黙って見てろ!つまらんこと言いおって!」
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
「やっぱりやりたい!!」
「だめだっ!!」
伶守は紺織にとられないように慌てて抜き身の短刀を投げつけた。
その狙いは、ミカナ。
寸分違わず、ミカナの左胸をめがけて飛んでいく。
◇
「!」
その時、白結丸が動いた。
きいん!!
一瞬でミカナの前に立つ。
その刹那、刀を抜き飛んできた何かを弾く。
弾かれた短刀はくるくると回って、時千代の乗る馬の足元に刺さった。
いいいひいいん!!
馬が驚いて前足を上げる。
「時千代、危ない!!」
紅羽が叫ぶ。
「うわぁ!!」
叫び声をあげると、時千代はそのまま背中から落馬した。
どんっ!!
「うっ!!」
「時千代!!」
「時!大丈夫っ!?」
紅羽と伊佐が駆け寄る。
「あ、はい。何とか大丈夫です!」
時千代は痛そうに顔を歪めながら立ち上がる。
・・・・よかった。
「怪我は、怪我はないか!?よく見せて見ろ?」
「紅羽姉様、大丈夫ですよ。ちょっと、背中を打ちましたけど」
「そうか、あとで見てやるからな。体中、怪我がないか調べてやる」
「は、恥ずかしいですけど!」
・・・・照れる時千代。たまらん。
だが!
「貴様、何のつもりだーっ!!」
紅羽は刀を抜いて白結丸に向ける。
伊佐もそれにならい、刀を抜く。
「ちょっと待て!誰かがおれたちを狙っている!」
「問答無用!!時千代に痛い思いをさせた罪、その命で償え!!」
紅羽の怒りは一気に極限に達した。
◇
「あーもう、投げちゃった!でも、やっと始まりそうだね!」
紺織は楽しそうに言う。
「まったく、世話が焼ける奴らだ。まったくつまらん」
伶守は吐き捨てるように言った。




