20 風結ノ章 二十
翌朝。
満身創痍のまま、どうにか御造所へたどり着いた。
「何でそんなにボロボロなんじゃ?」
ミカナが小首をかしげる。
「あなたがミカナ殿ですか。おれが皆秀です」
「・・・・・・・・」
「ええと、道中、白結丸殿から話は聞いております」
「・・・・・・・・」
「なんでも、御霊石から生まれたとか」
「・・・・・石から生まれてはおらんが、そっちのはなんじゃ?」
皆秀の後ろに小御体がいる。
結局付いてきてしまった。
「ああ、これ!すごいでしょう!わたしが組み立てた・・・・」
「・・・・・・・」
黙ってじっと小御体を睨みつけるミカナ。
「あの・・・・何か?」
「・・・・何とも、奇妙な」
「はい、見た目にも奇妙でしょ?」
「そんな話ではない。生きていないはずじゃが、命はある。珍妙じゃ」
「?」
「まあ、どちらにしても、この世の理に反するものじゃ。長くはない」
◇
「なあ、白結丸ぅ!連れて行ってほしいところがあるんじゃーっ!」
ミカナが白結丸の腕にしがみついてくる。
「そういうところだけ子供っぽくするなよ」
「なんじゃ、お見通しか」
「で、どこだ?」
「おれの父上を殺した奴の屋敷じゃ」
「?」
「名を富士江成親という。おれは父上と一緒に成親の息子を生き霊の呪いから助けたのじゃ。じゃが、おれが成親に楯突いたとして父上は殺された」
「急に重い話だな」
白結丸は襟を正す。
「それで、偶然会った宗矢に仇をとって欲しいと頼んだのじゃ。じゃが、宗矢は伊豆で死んだことになっておる」
「・・・・なっている?」
「ああ。その後、都へ戻ってきた」
「ちょっとまて、それって・・・・」
「ああ、《《生きていた》》。少なくとも、おれが眠りにつく前までは」
「・・・・・・」
「おれは風結に取り込まれてそのまますぐ眠ってしまった。宗矢が風結の中にいたことは覚えておるが、その後のことはわからん」
「・・・・そうか。まあ、それがわかっただけでも希望はあるな」
「じゃが、おれの父上の仇をとって欲しいのじゃ。白結丸!」
「その、富士江何某というのは都にいるのか?」
「わからん。それを確かめに行きたい」
◇
結局その後、霞家の末子の行方はわからなかった。
何の収獲もないまま、紅羽たちは六原へ引き返すことになってしまった。
伊佐は馬に乗る紅羽を見つめていた。
・・・・こんな気持ちの重いときでも、紅羽姉様は凛として美しい。
六原へ帰れば爺様《紀基》や叔父上《孝基》から散々嫌味を言われるだろうに。
どうして姉上はあんなに素敵にいられるのだろう?
紅羽は民からも人気が高い。
こうして馬で大路を進むだけで、一目美しい武者姫を見ようと人が集まってくる。
だが、紅羽の心の中は違った。
・・・・時千代。かわいい。たまらん。こうして同じ馬に乗っていると、鼻血出そう。
「ねぇ、紅羽姉様!」
「どうしました、時千代」
「せっかくですから、都の町を見回りしてから六原へ戻りませんか?」
「・・・・・・」
・・・・見回り。そうか、そうすれば、もう少し時千代とくっついていられる。
「では・・・・」
「駄目でしょう、時!」
伊佐が隣から声をかけてくる。
「紅羽姉様はとても忙しいのですよ!爺様や叔父上にも話をしないといけないのですから!それに、戦御体を三体も連れているのですよ!都の人たちの往来のことも考えなさい!ねえ、姉様!」
「そうです、時千代。伊佐の言う通り。わたしたちは物見遊山に来ているわけではありません」
紅羽が無表情で言う。
「・・・・すみません、姉様」
哀しそうな表情で俯く時千代。
・・・・・ああっ、そんなことない!!わたしも時千代と一緒に都を回りたい!!
「でも、まあ、それはそれで・・・・」
「ごめんなさい、紅羽姉様!わたし、姉様たちと少しでも長くこうしていたくって!」
時千代が少し潤んだ瞳で紅羽を見上げる。
頬をほんのり赤く染めて、小さな拳を少し震わせる。
ばふっ!!
・・・・魂を、撃ち抜かれた!
・・・・この世の中に、時千代ほどかわいい生き物などいるのか!?
いいや!いない!!
時千代、最強にして最高の可愛らしさ!!
この顔、この表情に逆らえるものなどこの世にはいない!!
「伊佐、少し都の町を見て回りましょう。時千代の言うことも最もです。もしかしたら、霞家の子が都に潜んでいることも考えられますからね」
「姉様!!」
そう言いながら伊佐は思った。
・・・・さすが姉様だ!
時のわがままを仕事にしてしまった!
美しいだけじゃない!強いだけじゃない!
人としても本当に優れているっ!
「わかりました。少しだけですよ、時」
「ありがとうございます!紅羽姉様、伊佐姉様!」
時千代は笑顔になる。
・・・・あぁ、かわいい。幸せ♪
◇
「たしか、この屋敷じゃ」
ミカナは崩れかけた壁の続く屋敷の中を窺っている。
「でもミカナ、この屋敷には人が住んでいるようには見えないよ」
嶺巴も中をのぞきながら言う。
「この屋敷のことを知っている人が近くにいるといいが・・・・」
白結丸ものぞき込む。
その屋敷の中は草が生い茂り、荒れ放題に荒れている。
皿や布など、人が暮らしていた形跡らしきものも見受けられるが、それはずっと過去のもののようだ。
「おれ、中に入ってみる」
壁を乗り越えようとよじ登るミカナ。
「まて、まて、危険だ。何がいるかわからないぞ」
白結丸が言うと、嶺巴もミカナの装束の裾を掴んで壁から引きずり下ろす。
「そうだぞ、ミカナ。こういう屋敷跡をねぐらにしてる盗賊や山賊なんていくらでもいるんだからな」
・・・・さすが元山賊
「じゃが、おれは、ここまで来て何もしないで帰りとうない!」
「わかってるよ。もう少し、様子を見て、見つかりにくいところから入って・・・・」
そう言いながら嶺巴が屋敷の壁の角を曲がった時、馬に乗った一団とばったり出くわした。
「あ・・・・・」
「あ・・・・・」
紅羽と嶺巴は目が合って、しばし言葉を失った。




