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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
第三章 芽吹

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85 芽吹ノ章 十二

まだ意識はある。だが、目の前の景色がくるくると回る。

酔っている?

うう、気持ち悪い・・・・。


「は、ははははは!残念だったな!」

畑松が復活した。

おれの手から・・・白縫の手から太刀を取り返すと、白縫を蹴り飛ばした。

白縫は地面に倒れる。

痛い。だが、動けない。

「あと少しのところだったのに、霊力が切れるとはついてないな!日ごろの鍛錬を怠った結果だ!」

悔しい!が、その通り。

体が動かせない。敵が目の前にいるのに。おれを殺そうとしているのに!

嫌でも死を意識する。もうあきらめるしかないのか・・・?



姉上の顔が浮かぶ。

いつもおれの肩にもたれかかっておれを見上げる。悪戯っぽい笑顔で。

おれの頬をつねって怒る。可愛らしい怒り顔。

そして姉上のあの懐かしい香り。心を満たす、姉上の香り。滑らかな肌の感触。


・・・妙珠殿。

迎えに行けないようです。ごめんなさい。

あの天女様の笑顔が浮かぶ。

「今宵もお待ちしております」


・・・そうだ、おれは・・・負けるわけには・・・いかない・・・・!

待ってくれている人がいる!



全身の力を振り絞る!

遠くなりそうな意識を、もう一度呼び戻す!

立て、白縫!

立て、義陽!!

こんなところで、死ぬわけにはいかないだろう!!


「な、なんだ!?」

畑松が動揺を見せる。

動かなくなったと思った白縫が、もう一度立ち上がったからだ。



と思ったら倒れた。



ぷすん。

やっぱ無理だ。



「・・・・ええと、いいのかな?とどめ、さしまーす!」

畑松のの戦御体が太刀を振り上げた。



ああ、やっぱり駄目でした・・・。やっぱり父上の子だ。最期まで情けない。



「死ねぇぃ!!」

太刀がおれに向けて振り下ろされた。


薄れていく意識が最後に見たのは・・・・。

黒い大きな何かが、敵の戦御体に太刀を突きさす光景と、「まったく、つまらん戦いをしおって・・・・」という、誰か知らない声だった。






目が覚めると、いつもの天井が見えた。

「き、気が付いたっ!?」

姉上の顔。

「ああ、なんてことだ・・・姉上まであの世に来るなんて・・・」

「何を言ってるの!」

おれの頬をつねる。痛い。

おれはいつもの自室の布団の上に横になっていた。・・・何があったのか?

「おれ、生きてますか?」

「ぐすっ、いつも言ってるでしょ!死んだら殺すって!」

そう言いながらおれの肩に腕を回し、抱きついて泣き始めた。

「よかった、よかったぁ!!わぁあああ!」

「・・・姉上・・・・」

おれは姉上の体を抱き締めたかったが、まわりにいっぱい人がいることに気づいてやめた。

宗近殿、兼信殿。父上と母上も泣きながらおどおどしている。

・・・そして、もう一人、見たことのない黒装束の人。

「ええと・・・みなさん、お揃いで」

「義陽」

宗近殿がずいと前に出る。

ぐずる姉上を押しのけて、おれの肩を掴む。その力は強い。

・・・なんか、怒られそう。

おれはちょっとだけ身構える。

「よくやった。お前にここを託したことは、正しかった」

・・・・え?

今、まさか、褒められた?あの宗近殿に?


さらに、黒装束の人がおれの前に来た。

「お主、おれがいなければ命はなかった。だが、感謝などというつまらん物はいらんがな。だが、何もないよりはましだ」

黒装束の人が言う。

ええと・・・誰?それと、遠回しに感謝しろって言ってるのかな?

「あ、ありがとうございます。あなたがおれを助けてくれたのですか?」

「会ったことはなかったな。この男は滅創衆の一番手、伶守(れいもり)だ。この度、伊豆へ戦御体を運び入れることが出来たのも、この男の助力あってのことだ」

宗近殿がおれに言う。

「ええと・・・ありがとうございます」

そうは言ったが、なんのことやら。

めっそーしゅー?

「ふん、つまらん敵だった。だが、おまえは初めてでよくやった。もう少し鍛えねばならんがな」

・・・はい。身に沁みました。





それから、おれは兼信殿から二人きりでその後のいきさつを聞いた。

おれが気を失った直後に伶守殿が戦御体で割って入り、畑松を一閃の元に斬り倒したらしい。

大将を失った敵は崩れ始め、そこへ引き返してきた宗近殿と兼信殿たちの軍が合流、あっという間に決着はついたそうだ。

「あの・・・宗近殿はこの度のこと、どう言っておられましたか・・・」

「どうとは?」

敵は街道を護る兵力を囮にして、直接この室山を狙っていた。

宗近殿がそれを考えずに全兵力をもって出て行ってしまったとは、やや腑に落ちない。

「あの・・・宗近殿が先ほど、”お前にここを託した”と言われたので・・・」

「正直言って、わしにはあの方のお考えはわからん。だが、戦御体をひとつ、わざと置いて行ったのは間違いない。それと、街道沿いに敵の兵力が少ないと見るや、すぐに引き返した。だから、お主らのところへ間に合ったということも間違いない。どこまで読んでおられたのか・・・わしにはわからんよ。婿殿」

「・・・・そうですか」

おそらく、宗近殿は確信するまでではなかったにせよ、敵の動きを読んでいた。

・・・おれを試した?まさか。

だが、やはり姉上たちを敵の脅威にさらしたことについては一言申上げないと・・・。

「今、婿殿と!?」

「そうじゃ?」

・・・ええと。

「だって、妙珠をもらってくれるのじゃろ?」

「あ、はい。そうですね。そうなりますね」

「はやく、わしに孫の世話をさせてくれ、婿殿!」

そう言って、おれの肩をバシバシとたたいた。

「は、はぁ・・・」





「・・・宗近殿。お話があります」

おれは宗近殿がこの森の木陰でひとり、瞑想に(ふけ)っているのを知っていた。

どうしてもふたりきりで話がしたかったので、こっそりここへ来た。

「どうした、義陽。もう体は良いのか?」

「はい。お気遣い痛み入ります」

「うむ。なら良い」

「宗近殿・・・ひとつ伺いたいことがあります」

「何なりと申せ」

「この度の畑松の動き、宗近殿はどこまで知っておられたのですか?」

「・・・どこまでとは?」

「宗近殿たちが出立して、明後日には制圧したという知らせの早馬が届きました。あまりに早すぎます。そして、畑松の主力がこちらへ向かっているという早馬を出した後、半日と経たず戻っていらっしゃいました。これもあまりにも早すぎます」

おれは言葉を切る。深く息を吸う。

「知っていたとしか思えません。でなければ、なぜ戦御体を一体、置いて行ったのですか?おれが御造所へ駆けこんだ時、綴師殿は事態をすべて知っているように、おれに戦御体を指さしました。宗近殿、どこまでわかっていたのですか?」

拳に力が入る。感情を抑えるためだ。

「・・・義陽。戦というのは、何が起きるかわからん。数が多ければ勝てるものでもない。今は戦御体が勝敗の鍵を握る。だから置いて行った。それとおれが敵の動きを知っていたかどうか、それに答えるなら、おれは何も知らん。ただ、おれが敵ならば、そうするかもしれないと思っていただけだ」

「ですが・・・おれは・・・・」

「藤月のことであろう?よい。はっきり申せ」

「・・・・姉上を・・・藤月を愛しています。藤月を苦しめるような人を、悲しませるような人を、危うきことにさらすような人を、許すことが出来ません。たとえ、それがあなたであっても!」

気が付くと、おれは宗近殿の襟をつかみ上げていた。

だが、宗近殿は笑みを浮かべた。

「うむ、それでよい、義陽。おれにはお前が必要だと思っている。おれの信念を叶えるために、お前がどうしても必要だ。だが、お前の心を貫くなら、たとえおれであろうと邪魔な者は叩きのめせばよい。理想を叶えるつもりなら、それでよいのだ。わかるか、義陽。おれたちは今、それを始めたのだ。この伊豆からその最初のひと足を踏み出した。それをやったのはお前なのだ!義陽、理想を掲げろ!そして追い求めろ!おれもそうする。おまえもそうしろ。それでよい!もう一度言う、おれがおれの理想を叶えるために、お前を利用する!お前もおれを利用すればよい!」

おれは手を離した。

その瞬間、やはりおれはこの人に敵わないと思った。おれとは見ている世界が違う。

もっと、広いところを見ている。おれには想像もできない、遠いところで戦っているのだ。

おれは自分の感情だけで動いてしまった自分の未熟さを痛いほど感じた。この人の前ではおれは無力だ。

おれは膝をついて、頭を下げた。

「申し訳ございません。ご無礼を働きました。何なりと御処罰を」

「かまわぬ。一生おれについてこい。それがお前の罰、(かせ)だ」

「・・・はい。この汐永義陽、一生の忠誠を殿に誓います」

「おれは良き家臣に出会えた。今日は良き日となった」

そう言って宗近殿は襟を正すと、おれの肩に手を置いた。

もう逃げることはできない。その手をひどく重く感じた。

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