6-10 禍神ノ章 十
「大丈夫か、ふたりとも!」
淡影が風結を出て、ミカナの体に着物をかぶせながら言う。
「はい。わたしは大丈夫!」
蓮華も紫雲から降りてくる。
「はい。わたしもです!」
瑞奈は小さくなった狐白丸を両腕で胸に抱く。
「おん!」
「良かった。最後のやつがあらわれた時はどうなるかと・・・・」
「はい。なんというか、恐ろしかったです・・・・」
瑞奈が淡影のそばに行き、その瞳を見つめる。
・・・・あれ?
蓮華の中に、何か引っかかるものがもやもやと湧きあがる。
「ともかく、瑞奈が無事でよかった。すまない。おれがもっと守れていれば・・・・」
淡影が瑞奈の肩に手を置く。
「いいえ。淡影様と・・・・皆のおかげです・・・・。ありがとうございます淡影殿・・・・とても・・・・素敵でした・・・・」
淡影を見上げながら、少し頬を赤らめる。
「おい、蓮華」
「何よ、ミカナ」
「なにか、おかしなことになっておらんか?」
「・・・・やっぱりミカナもそう思うんだ・・・・」
「瑞奈は男じゃが、今までずっとおなごとして生きてきた以上、すぐに心まで男には戻れぬのではないのか?」
「・・・・」
「しかし、瑞奈まで淡影の人たらしに取り込まれるとは意外じゃった」
「ミカナ」
「なんじゃ?」
「この場合、わたしはどっちに怒ればいいの?」
「・・・・知らん」
◇
「霞淡影、流石だ!よくやってくれた!!」
桐高が淡影の手を取って声を上げた。
翌日、上皇の間にて、淡影は桐高上皇に昨夜の顛末を報告に来ていた。
「はい・・・・ですが・・・・」
「しばらくは滅創衆もここへは近づけまい!奴らもかなりの痛手を受けただろう!」
「・・・・はい。ですが叢方という男が言っていました。帝を排さないのであれば、朱雀をよみがえらせると・・・・」
「そのような脅しを聞くわけにいくまい!この世から帝を排するなど、出来るはずもなかろうて!それに、こちらにはお前がいる!」
「いえ・・・・わたしだけでは、あの男にはかないません・・・・」
「もちろんお主だけではいかん。これより先、お主は緋家討伐のために吹原へ赴いてもらうからな!それ迄に、不甲斐ない内裏の近衛たちを鍛え直してもらいたいのだ!」
「・・・・それに関しては、わたしより役に適したものがおります」
「ほう、お主より腕の立つ者ということか?」
「はい。わが師で、歳はとっておりますが、剣の腕はわたしなど遠く及びません」
「なるほど。淡影が言うのならば間違いなかろう。では、その者に任せてみようではないか。そうすれば、お主は吹原遠征の支度を整えられよう!」
◇
「内裏の近衛が敵を前にして逃げだすとは言語道断!!性根からたたきなおしてくれるわっ!!」
ばしっ!!
「いたいっ!!」
天狗は内裏の広大な庭を走る近衛兵たちを、木刀で叩きまくる。
「ほら、わしより早く走らんと、木刀で尻を叩くぞっ!!」
「ひ、ひええええっ!!」
「た、助けてっ!!」
「おらおらおらおらおら!!」
「ぎゃあああっ!!」
ばしっ!
ばしっ!!
「化け天狗に殺されまするぅ!!」
「ぎゃああっ!!」
「・・・・東雲山の筋肉坊主さんたちを想い出します」
蓮華は天狗が近衛たちを鍛えるのを見てぽつりと言う。
瑞奈は蓮華寺の朝の鍛錬の様子を想い出す。筋肉坊主たちが褌一枚で庭に並び、棒術を鍛錬していた。
「・・・・あのとき、はじめて殿方の・・・・その・・・・裸というものを見てしまい・・・・その・・・・」
恥ずかしそうに頬を染めて俯く瑞奈。
「あの、瑞奈様?」
「はい?」
「以前よりも女になっていますよ?わたしなんかよりもずっと女らしいですけど、大丈夫でしょうか?」
「あ・・・・いえ・・・・わたし・・・・いつの間に。つい、癖で・・・・」
両手で頬を覆って、恥ずかしそうに俯く瑞奈。
・・・・まるで、乙女。わたしの知ってる瑞奈様はもう少し、こう、野性的な面もあったのに。今の瑞奈様はまるで花も恥じらう純なる乙女。見た目が綺麗なだけに気持ちがくすぐられる。
「あーっ、もう!!どういうことっ!?」
◇
「ええと、どういうことでしょうか?」
義陽は淡影の言葉に首を傾げる。
内裏の庭先、淡影は義陽たちと昨夜の戦いの後始末をしていた。
「ええと、よくわからないのだが、滅創衆の破主ってやつが言っていた、”不死の山”というのは富士山のことだと思うんだ。だから、関ノ府への帰り道、富士に朱雀がいるのか見てきて欲しい」
「朱雀?そんなもの、見たことがないですが?」
「おれも見たことがない。しかも、探せばすぐ見つかるとも思えない」
「それをおれに探せと?」
「無理を承知で頼んでいる。見つからなければ仕方ないことだが」
「・・・・朱雀ですか。そう言えば、以前富士川での緋家との戦の時に千浦殿から聞きましたが、富士川のほとりで火を焚くと富士が暴れると言っておりました。それのことでしょうか?」
「おお!たぶんそれだ!!千浦殿という方に、その話を詳しく聴いて、そのあたりを調べてくれないか!」
淡影の言葉に義陽は苦い顔をする。
「・・・・あの人、おしゃべりで苦手なんですよね・・・・」
「だが、おれの・・・・いや、おれとミカナの持つ風の力と朱雀が蘇ることに何か関係があるのかもしれないんだ。となると、この力をむやみに使えばこの世が火に包まれ灰になるらしい」
「ええと・・・・話が大きすぎて良くわかりませんが、やれるだけやってみましょう」
「すまない。伊佐のこともよろしく頼む!」
そう言うと、淡影は走り出して何処かへ見えなくなった。
・・・・あれ?伊佐殿のこと、話したっけ?




