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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
禍神 (まがかみ)

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6-8 禍神ノ章 八

ぎいいんっ!!


風結の振り下ろした太刀を、禄染が受け止める。

「くふっ!!」

禄染《ろくそめ》を通じて玖狼《くろう》の両腕に、刃がぶつかった衝撃が伝わる。


・・・・重い!


うっすらと手が痺れるのを感じる。

・・・・以前、伶守《れいもり》殿が都で手合わせしたと言っていたが、本当にこの男なのか?伶守殿の太刀より、ずっと重いぞ。


「そのまま動くんじゃないよっ!!」


紺織《ことり》の華裡《はなうら》が、背後に隠してある小太刀を風結めがけて投げつける。


ひゅんっ!!


『任せるのじゃ!!』


風結は左手を太刀から離し横に振ると、その手の先から風が起きて飛んできた小太刀が弾かれて地面に落ちる。


ぎんっ!!


風結はその勢いのまま後ろへ跳んで禄染と距離をとる。


「くそっ!!当たりもしねぇのかよっ!!」

紺織が忌々し気に悪態をつく。

「玖狼!!馬鹿力だけがあんたのとりえなんだ!!ともかく何とかしなっ!!」

「・・・・わかった!!」


玖狼は紺織にそう返したが・・・・。


・・・・おそらく、何をしても敵わない。ともかく時間を稼ぐことしかないな。


「うおおおおおっ!!」

玖狼は叫びながら、風結めがけて斬りかかる。

「おまえでは風結の相手にならないっ!!」

淡影は叫ぶ。


ぎんっ!!


ぎいんっ!!



狂ったような禄染の太刀の振り下ろしの応酬を、事も無げに受け続ける風結。


・・・・だが!


玖狼は、口の中で何かを噛んだ。

あらかじめ歯の間に仕込んでいたものだ。


「うおりゃあああああっ!!」

玖狼が叫び、風結めがけて上から太刀を振り下ろした。


がきいんっ!!


「このまま、このまま!押し潰してくれるっ!!」


風結は禄染と組み合ったまま、ずるずると後ろへ押される。

風結の踵が地面の土を引き摺って行く。


「なんだ?さっきより力が強く・・・・?」

『こやつ、さっきまでより霊力が増しておるぞ?』

「そんな急に強くなるのか?」

『何か、異様な気配がするな!ともかく、離れるのじゃ!』

「わかった!」


ぎいいんっ!!


風結は禄染の太刀を弾き飛ばすと、後ろへ跳ぶ。

だが、次の瞬間には禄染が風結の目の前に迫る。


どふぅっ!!


禄染は肩から風結に体当たりし、風結は弾き飛ばされる。


「ぐはっ!!」

『ひゃああっ!!』


ずうううん!

ガラガラガラ・・・・。


風結は内裏の壁に倒れかかり、瓦礫の中に倒れ込んだ。

「なんだ、こいつ・・・・・。大丈夫か、ミカナ!」

『こっちは平気じゃ!奴に気をつけよ!さっきまでとは違う、異様な気配じゃ!!』


玖狼は目の前の敵の姿が何重にも見えてきていた。

目の前がぐるぐると回る。


・・・・なんだ、これは?


◇


「玖狼、これをお前に渡しておく」

そう言って、斎尾《いお》が小さな四角いものを手渡した。

「歯の中に仕込んでおけ。いざというときに、それを噛むのだ」

「・・・・すると、どうなる?」

「薬がその中に詰め込んである。全身に毒がまわり、やがて死ぬ」

「・・・・自決用か」

「だが、それだけではない。死ぬ直前、その者の霊力が急激に跳ね上がる。それに伴い、恐ろしいほどの力と素早さが手に入る」

「だが、その力を使う前に死ぬのではないか?」

「それはおまえの力しだいだ。どれくらいの時間持ちこたえられるか、どうしても勝てない敵と出会った時に試してみるがいい」


◇


・・・・斎尾は、おれが最期にどうなるか知りたかったのだろうな。

この薬をおれで試したかったのだろう。


頭がくらくらとしてきた。


目の前が翳む。


・・・・だが、まだ死ぬわけにはいかない!!




「うおおおおおおおおおっ!!」


禄染は太刀を振り上げると、倒れている風結めがけて振り下ろす。



ぎいいんっ!!


風結は倒れたまま、太刀を受け止める。


「くっ!!すごい力だ!!」

淡影の両手に、痺れるような振動が伝わる。


「死ねいっ!!この命尽きる前に、このまま死ねぇ!!」




「・・・・玖狼!?」

紺織は声を漏らした。

何だ?

玖狼の様子がおかしい。

あんな後先考えないような飛び込みをする奴じゃなかったけど・・・・。


・・・・だが!


玖狼が作った千載一遇の機会!!


「高みの見物はお終いだよっ!!」


華裡は小太刀を取り出すと、目にも止まらぬ早業でそれを投げた。


その小太刀は空を切る音を立てながら、風結の上を通り過ぎていく。


「しまった・・・・!!」

『いかんっ!!』

淡影とミカナがその小太刀の飛んでいく先を見る。


そこには、狐白丸に乗った瑞奈がいた。



「えっ!?」


もう、それを避ける暇はなかった。



瑞奈の目の前に木立の切っ先が迫る。






「えええええいいいっ!!」





きいん!!




ずしゃっ。




華裡の投げた小太刀は叩き落されて地面に刺さった。


「大丈夫ですか、瑞奈様!!」


「蓮華殿!!」


小太刀を空中で叩き落したのは、蓮華の紫雲の薙刀だった。


「蓮華!!」

淡影も叫ぶ。

「淡影様!!」

紫雲が風結に駆け寄ろうとする。

「こっちはいい!瑞奈を守ってくれ!!」

「でも!」

「大丈夫だ!何とかなる!!」

「・・・・わかりました!!」


蓮華がそう言うと、紫雲は薙刀の先を華裡へ向ける。


「あなた、滅創衆ですね!!」

「ふん!だったらどうだっていうのさ!!」

「わたし、滅創衆にはいろいろと嫌な目にあわされているので、手加減できないと思います!!」

「ほざけっ!!」

華裡が小太刀を投げつける。


きいんっ!!


紫雲の薙刀が小太刀を弾き落とす。


「何があろうと、瑞奈様には触れさせません!!」

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