6-6 禍神ノ章 六
「くかぁー、くかぁー・・・・」
こちらは明橋の嶺巴の寝床。
肌を露にした嶺巴が布団を抱きかかえながら寝息をたてている。
ぺろっ。
「ん・・・・・くかぁ・・・・・・」
ぺろぺろっ。
「んー・・・・・・さむい・・・・・・」
ぎゅっ!!
「あおんっ!?」
「へっ!?」
おかしな鳴き声に飛び起きる嶺巴。
かぷっ!!
「いてぇっ!!」
鼻先を噛みつかれ、完全に目が覚める。
「なんだよ、狐白丸っ!!」
「おん!おん!!」
「さっき飯はあげただろう?大人しく寝てくれよ・・・・」
そういうと、嶺巴は狐白丸に背を向けて再びごろりと横になる。
「おん!おん!」
「なんだよっ!獣は内裏に入れないってさ!仕方ないだろ!?」
ぺろっ、ぺろっ!
「もう、くすぐったいよっ!!」
嶺巴がそう言った瞬間、後ろにいる狐白丸の気配が急激に大きくなった。
「・・・・え?」
思わず振り向く嶺巴。
べろんっ!!
「うひゃっ!?」
大きくなった狐白丸に盛大に顔を舐められた。
「うう・・・・べとべと・・・・」
「おんっ!!」
狐白丸はひとつ吠えると、嶺巴の帯を咥えて障子を突き破って庭へ飛び出した。
「ちょ、ちょっとっ!?」
「おんっ!!」
嶺巴の帯を咥えたまま、狐白丸は空へ跳びあがる。
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
そして内裏の方へ空を走って行く。
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!?着物、脱げるっ!!落ちるっ!!死ぬううっ!!」
◇
「まったく、あの壺頭は!!」
紺織は心底頭に来ていた。
というのも、破主から「桐高上皇の子、白拍子の瑞奈王の首を取ってこい」と言われた途端、玖狼が戦御体・禄染で勝手に出て行ってしまったからだ。
「力押しでどうにかなる場所じゃないっての!!内裏ってのは!!」
ぶちぶちと言いながら、戦御体・華裡を走らせる。
大路を北へ。
朱雀門が見えてくる。
その巨大で分厚い門扉が壊されている。玖狼がこじ開けて入り込んだのだろう。
その奥。
暗闇の中、大きな影が動いているのが見えた。
「玖狼!!」
すると、その隣にもう一体、影が動いた。
「戦御体・・・・。もうっ、あたいは知らないよ!!どうにでもなりなっ!!」
そう言うと、紺織の華裡は朱雀門を駆け抜けた。
◇
「蓮華殿!奥へ!!」
瑞奈が蓮華の前に立つ。
「瑞奈様!!」
「こいつの狙いはわたしです!蓮華殿は奥へ隠れて!」
「瑞奈様、逃げて!わたし、紫雲をとってきます!!」
ふたりの前に、玖狼の禄染が迫る。
・・・・ただ、殺せばいい。なら、簡単なことだ。
禄染は腰の太刀を抜き、片手で振り上げる。
「瑞奈様っ!!」
蓮華が叫び名がら、瑞奈の体にしがみつく。
「御免っ!!」
瑞奈はそう言うと、蓮華の体を押し飛ばした。
蓮華は突然突き飛ばされて、部屋の隅に転がる。
「うっ・・・・瑞奈様!!」
蓮華が叫んだ時、禄染の太刀が振り下ろされた。
がしっ!!
・・・・・・。
・・・・・・。
「風結!?」
蓮華が床に転がったまま叫んだ。
「淡影殿!」
禄染が振り下ろそうとした腕を、風結が片手で受け止めた。
・・・・いつの間に!?
玖狼は風結がどこから現れたのか、まるでわからなかった。
一瞬のうちに隣に現れた。まるで気配を感じなかった。
「・・・・黒い戦御体、何者だっ!?」
淡影が叫ぶ。
「・・・・・」
玖狼は答えない。禄染は風結から腕を振りほどくと、後ろへ跳んで間合いを取る。
「仕方ない、やるぞ、ミカナ!!」
『当たり前じゃい!!今宵のおれは、ご機嫌斜めじゃ!!ぶっちぶっちにちぎって捨ててやるのじゃ!!』
「・・・・・・何かあったのか?」
『淡影にそう言われると、余計に腹が立つのじゃ!!』
「?」
淡影は首を傾げながらも、敵に向き合う。
風結は腰から太刀を抜くと、低い姿勢で構える。
敵の黒い戦御体は太刀を高く振り上げると、風結めがけて一気に地面を蹴った。
◇
「瑞奈様、ここを離れましょう!!」
蓮華が瑞奈の手を引く。
「はい!向こうへ・・・・」
ふたりが走り出そうとした、その時だった。
「ひやぁぁぁぁぁ!!」
ぼてっ。
空から嶺巴が落ちてきた。
「嶺巴!?」
「嶺巴殿っ!?どうして!?」
「い、いてて!!もっと丁寧に降ろせよっ!!」
空にいる狐白丸に向かって叫ぶ嶺巴。
「おおん!」
狐白丸がゆっくりと降りてくる。
「それよりも嶺巴!あなた、どうしてほとんど裸なの!?」
「この狐のせいだっ!!あたしだって別になりたくてなったんじゃないっ!」
そう言いながら、帯を結び直す。
「嶺巴殿、蓮華殿を頼みます!」
そう言うと、瑞奈は狐白丸の背に飛び乗る。
「あ・・・・」
すっと、瑞奈を乗せた狐白丸は空へ飛び立つ。
「瑞奈、よくあんなものに乗れるな・・・・」
嶺巴は口を開けたまま空を見上げた。
「もう!それどころじゃないでしょ!戦御体のところへ!」
「ああ、そうだ!って、蒼刃は今、使えないんだ!」
「わたしの紫雲があるの!」
「蓮華、戦う気か!?」
「当たり前でしょっ!!淡影様も、瑞奈様も戦っているんだから!!」
・・・・敵が悪いような気がするが。
たったひとりで内裏に攻め込んでくる相手だ。まともじゃない。
「ともかく、ここを離れよう!」
そう言って嶺巴が蓮華の手を引いて走り出す。
「ちょっと、そっちじゃないでしょっ!!御体蔵はこっち!!あたしが連れて行くから!」
「わかった!!こっちだな!!」
「何で逆に行くのよっ!!そもそもあんた、内裏の中のこと知ってるの!?」
「・・・・初めて来た!」
「もう!あたしについて来てっていってるでしょっ!!」




