5-55 流転ノ章 幕間 八
「行尊っ!!」
娜縞皇女が叫ぶ。
「何をするんですかっ!普通死にますよっ!!」
行尊が叫んだ。
「・・・・へ?普通死ぬだろ?」
娜縞皇女がぽかんと口を開ける。
「なぜ、無事に?」
朽平も口をパクパクとさせて呆気に取られている。
雷巌もふんふん、と首を振る。
見たところ行尊には傷ひとつない。僧服が少し切れているくらいだ。
「澪瀬!勝手に水軍を連れて出て行ってしまって!!水瀬、とっても心配したのだからね!!もう、夜も眠れないくらい!!」
「姉様、昼寝はちゃんと寝ていたのでしょう!?」
「はい!夜寝られないから昼間はぐっすりと!」
「そのせいです!」
「それもそうですね!水瀬、うっかりもの!」
ぺろっと舌を出す水瀬。
「いや、そうでなくて、澪瀬殿。なぜここに?」
「斬る!!」
ざしゅっ!!
「ぐぎゃあ!!・・・・って、人の話を聞きなさい!!」
「なんだ、久しいな行尊殿!なぜ姉様と一緒にいる!?」
「今頃気になりましたかっ!?」
「澪瀬、水瀬たちはね、”山椒の珍味”を探しているのよ!」
「”三勝の仁義”?」
「”三種の神器”ですっ!!」
行尊が割り込む。
「待て待て、三種の神器と言ったか!?」
貞基が行尊を睨みつける。
・・・・しまった。澪瀬殿が緋家の水軍に志願したということは、この男は緋家水軍の将だ。浦崎姉妹に乗せられて迂闊に三種の神器のことを言ってしまったが・・・・。
「本物の”三種の神器”なら、先ほどおれが愛しの紅羽に見せてやったばかりだぞ。そして、本物の三種の神器はまとめて因幡国主の時之のところへ預けてきた!!」
・・・・・・は?
「こら、馬鹿!《《本当のこと》》をこんな素性も知らぬ奴等に話してどうするのですか!」
重国が声を荒げる。
「ああ、思わず《《本当のこと》》を言ってしまった!」
・・・・どうやら、《《本当のこと》》らしい。
「心配なさらずとも、この腐れ生臭坊主はわたしが斬ります!」
ざしゅっ!!
「うぎゃあっ!・・・・って、けっこう痛いからやめていただきたい!!」
「・・・・痛いで済むのか?」
娜縞皇女がぼそりという。
「あいつ、あんなに斬られてどうして無事なのだ、重国?」
貞基が重国に聞く。
「ふふふ。こんなこともあろうかと、こっそりと澪瀬殿の刀を刃のないものと取り換えて・・・・」
「そうか、さすが重国!」
「おこうと思っている間に、今日を迎えております」
「・・・・まだ取り換えていないのだな?」
「はい。そのようで」
「しかも、さっきおれのことを馬鹿といったな?」
「いえ、気のせいです」
「そうか。なら仕方あるまい」
ざしゅ!!
「うぎゃあっ!」
「どうして、血がぶしゅうっとかならんのだっ!!」
澪瀬が叫ぶ。
「澪瀬!行尊様が痛がっておりますよ!やるなら一思いにっ!!」
「水瀬殿っ!そうではなくて澪瀬殿を止めてくださいっ!!」
・・・・それはさておき。
「と、いうよりだ。早く吹原に戻らぬと、また兄者に怒られるな」
「そうですよ、若。いつまでもたもたしているのです?」
「なにかいちいち棘があるな、重国」
「気のせいです」
「おいっ!!どうでもよいが、早く道を開けろっ!!」
貞基がずいっと前に出る。
「どうぞ。もう開けておきました」
朽平が言う。
「・・・・ああ、本当だ。では通らせてもらおう・・・・」
といいながら、貞基は朽平の顔をじろじろと見る。
「・・・・あのう、何か?」
「お主の顔、どこかで見たような・・・・」
「・・・・この顔、ご存知ですか?」
朽平は自分の顔を指さす。
「・・・・・・知らぬ。気のせいであった」
「はぁ」
「では通るぞ!澪瀬、ついて来い!!」
「あ、貞基殿!!お待ちください!」
ざしゅっ!!
「痛いっ!!」
澪瀬は最期に一太刀を行尊に浴びせると、貞基を追って走り出した。
「ああ、澪瀬!水瀬のことも相手してっ!!」
水瀬が叫ぶが、澪瀬は振り向かずに走って行った。
「もう、澪瀬ったら!!恥ずかしがり屋さん!!」
「あの姉妹、本当に大丈夫なのか?」
娜縞皇女がつぶやくと、ふるふると雷巌が首を横に振る。
「ですが、三種の神器のことがわかりましたね!」
にゅっと顔を出す行尊。
「なぜ無事なのだ、行尊・・・・」
娜縞皇女が訝しげな顔をする。
「話せば長い話になります。ともあれ先を急ぎましょう」
そう言うと、行尊が歩きだす。
その腕に水瀬が絡みつく。
「こんなところで妹に会えるとは思いませんでしたわ!水瀬、澪瀬が元気そうでとっても安心!」
「・・・・次は人を斬らぬように強く言っていただきたい」
満面の笑顔の水瀬は、行尊の言葉など耳に入らないようだった。
「ほら、その他の皆さまもはやくはやく!」
水瀬が振り向いて娜縞皇女たちを手招きする。
「おいっ!!誰がその他だっ!!」




