0-41 栄耀ノ章 四
御体匠がいなくなった。
六原は上を下への大騒ぎとなった。
作りかけの戦御体の図と、それを描いていた楠慶秀が逃げてしまった。
いくつかの図は残されていたものの、唐の職人たちはあたふたするだけで役に立たない。
そもそも、慶秀がいなくなったので、言葉を伝える者がいなくなったのだ。
「どうする、兄者?」
孝基が浄基のところへ走り込んできて、開口一番そう言った。
「探すしかあるまいな」
浄基もそう答えるしかない。
「どこを?」
「・・・・たまには己で考えてみよ」
「わかった!やってみる!」
孝基はそう言い残すと、来た時と同じように廊下をどすどすと走って行った。
孝基と入れ替わるように、使いの者が入ってきた。
「殿、大殿がお呼びです」
・・・・ちっ、父上か!
「浄基ぉっ!!御体匠が逃げたとはどういうことじゃぁ!!」
紀基は怒り心頭だ。顔が真っ赤になっている。
「今、孝基が探しに行っております」
務めて冷静に返事をする。
「御体は・・・戦御体はどうなるっ!!」
「他にも、作れるものはおります。逃げた者が特別ではございませぬゆえ、お気になさらず」
「何のために、唐まで渡らせたと思うておる!!見つけ次第、引き戻して首を刎ねてしまえ!」
「首を刎ねるなら引き戻す意味はございませぬ。生きて従わせてこそ、御体匠には意味があります」
「そんなことはわかっておるわ!!では浄基、お主が何とかせよ!!」
「もとよりそのつもり。御免」
そう言って浄基が紀基の前から下がった後も、紀基が怒鳴り散らしている声が六原に響いていた。
「おらおらぁ!!どけどけーっ!!」
朔臣は、緋紀基の子で三男、澄乃の弟にあたる。
まだ元服前ではあるが、歳も十五になった。
この日は孝基に頼まれて、職人探しをするために馬で都の大路を走り回っていた。
「じゃまだぁっ!!どけぃ!!」
「きゃあっ!!」
女の持っている野菜かごをひっくり返す。
「おれたちは御体匠を探しておる!怪しいところをこれより検める!」
そう叫ぶと、荷車をひっくり返し、水を汲む桶をばらばらに踏みつぶしたりして暴れ回った。
それに飽きると、再び馬を走らせる。逃げ惑う町人たちが面白くて仕方なかった。
数名の家臣を従えながら、都の街中を荒らしまわっていた。
その朔臣たちの前を牛車が道を塞いだ。
「こら!そこの牛車!われらに道をあけよ!!」
朔臣が声を上げる。
牛車の御者が朔臣を見て言う。
「この牛車には橘中納言殿がお乗りになられておる。お主らこそ、無礼であろう!?」
「なにぃ!?」
朔臣たちは御者を叩きのめし、牛を繋いでいた綱をほどくと牛を逃がして、車を横倒しにしてしまった。
「ちゅ、中納言殿っ!」
従者たちが慌てて駆け寄る。
「ふん!緋家でなければ犬畜生にも劣るのだ!!」
朔臣たちはそう言って馬で走って行った。




