0-42 栄耀ノ章 伍
橘中納言から朝廷を通じて正式な抗議が来たのは二日後のことだった。
「お前は何をしているのだぁっ!!」
浄基は激昂した。
「だが、兄者!先に邪魔をしたのは向こうの方だ!」
「それがどうしたというのだ!!おまえのしたことは斬首刑でも足りぬくらいだっ!!」
「だが、兄者!」
「もう言い訳をするな!」
孝基はこの場にいることを後悔した。
浄基が本気で怒ると紀基よりも恐ろしい時がある。
それを目の当たりにして平然としていられる朔臣に感心していた。
「まあ、そんなことはどうでもよいではないか。御体匠は見つかったのか?」
紀基がのそりと言う。
・・・・どうでもよいわけがないでしょうが!?
浄基は言葉を飲み込み、心で叫んだ。
「それが、ひとつ」
恐る恐る孝基が声を出す。
「ほう、見つかったのか?」
「いや、そうではなく・・・・」
紀基が言うと、孝基が大きな体をさらに小さくして言った。
「代わりに、戦御体を作れると言う者が現れまして・・・」
「・・・・何か胡散臭いな。本当か?」
浄基が顔を歪ませる。
「おれもそう思ったのだ。だが、戦御体の図を持って現れて・・・・。試しに御体蔵に連れて行ったところ、仕組みはわかっておるようなのだ」
「・・・・まあ、何でもよい。使えるものは何でも使え」
面倒臭そうに紀基が答える。
「中納言だろうが帝であろうが、われらに歯向かうことがどれだけ愚かなことかをわからせろ。そのための力じゃ」
「ふふん!さすが父上!!」
朔臣が胸を張る。
「お前の愚行のことを言っているのではない!」
浄基が怒鳴ると、朔臣は、わかったわかったと言わんばかりに手を振った。
「此度のこと、上皇院はいかにお考えかっ!?」
御簾の向こうへ橘中納言満良が詰め寄った。
「・・・・・」
「緋家は狼藉の限りを尽くし、都の民は飢えております!我ら公卿を敬うことなく傍若無人!これはすでに朝廷に仇なすことでありますぞ!」
「・・・・・」
御簾の向こうから声はなかった。
「上皇!いかにか!?」
再度詰め寄る。
「中納言殿、桐雅はお疲れのようじゃ。ここはお引きなさい」
上皇后、彰子の宮が隣の御簾から声をかけた。
「しかし・・・・」
「中納言。上皇様の御前です。引きなさい」
「・・・・・」
橘中納言は無言のまま頭を下げると、肩を震わせながらその場を後にした。
彰子の宮は隣にいる上皇を見る。
上皇の目はものを見ていない。視点も合わず、ぽっかりと口を開けている。
すでに人ではない。
紀基と彰子の宮、二人が傀儡にした。すでにただの置物だ。
そして桐高に帝の座を譲り、紀基は義父としてその実権をわがものにした。
それが彰子の宮が紀基と契った代償。
もう今や、緋家に逆らうことは朝敵となる。




