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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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42 風結ノ章 四十二

「無駄だぁ!!」

土蜘蛛は腹に生えた棘を一斉に風結に向ける。

「泥水が来る!皆、避けろ!!」

白結丸の号令一下、観音像と切り結んでいた杜若と金冠、蒼刃が一斉に散る。

そこへ白い液体が飛び散る。

風結は空中で風の力を使い、自身に降りかかる泥水を弾き飛ばす。

そのまま土蜘蛛の背中に降りると、観音像の首に腕を巻き付ける。

「くそっ!!何をする!!放せ!!」

成正は観音像の十本の腕で風結に斬りかかるが、思うように背後に腕が回らない。

「腕が何本あろうが同じ動きしかできないようなら無いのと同じ!!」

「振り落としてやる!!」

土蜘蛛は体をよじらせて暴れまわる。

「くそっ!放してたまるか!!」

白結丸も必死に食らいつく。

蒼刃も斬りかかろうとするが、土蜘蛛が大きく暴れるので近づけない。

「白結丸!」

「嶺巴!今、こいつは観音像の腕を動かすのに必死だ!蜘蛛の前脚は止まっている!見極めて、関節を斬れ!」

・・・・そんなこと言ったって・・・・。

ここまで暴れ馬のように動き回られたら斬りたくても近づけない。

だが、確かに蜘蛛の前脚は止まっている。

ということは、この蜘蛛の前脚は足ではなく腕?

繰り手には腕が二本しかないから、観音像の腕も十本あったって、左右二通りにしか動かせない。しかも、蜘蛛の前脚も腕だ。どちらかしか一度に同時に動かせない。

後脚も左右三本づつあるが、前に進む動きと後ろに下がる動き、ばらばらに動いているように見えるが、一定の動きしかできないのだ。

・・・って、それがわかったところで!

「もうちょっと落ち着かせてくれよ!これだけ暴れてちゃ、斬り込めない!!」

「こっちだって必死なんだぁ!!」

振り回され続ける風結。


「ぜえぜえ・・・・」

額から汗が止まらない。

土蜘蛛には大量の御霊石が使われている。各関節に純度の高い御霊石をはめ込んでいる。

この巨大な土蜘蛛を一人の繰り手で動かすには高純度の御霊石が大量に必要だった。その御霊石すべてに霊力を送るため、繰り手の霊力を大量消費することとなった。

成正はすでに霊力切れの症状を起こしていたのだ。

「こんなに早く霊力切れとは・・・・」


「・・・さっきまでより動きが鈍くなってきたね。疲れたのかね?」

嶺巴は蒼刃を土蜘蛛の前脚めがけて突っ込ませる。

「もらったよ!」

上段から前脚の関節の緑色に鈍く光る部分、御霊石めがけて振り下ろす。

その刃は、難なく土蜘蛛の前脚を関節から斬り落とした。

「やったよ!!」


「ぐあああ!?」

痛みが走る成正。

その痛みは足ではなく腕に伝わり、観音像も動きを止める。


「よくやった、嶺巴!!感謝する!!」

風結は観音像にしがみついたまま、太刀を観音像に突き立てる。

「ぐああああああっ!!」

風結の太刀は観音像の背中から腹に突き抜け、串刺しにした。

成正に死と同じだけの痛みが走る。

一瞬の沈黙の後、土蜘蛛は力を失って、その場に崩れ落ちた。


「・・・勝った?」

『成正は気を失ったようじゃな。無理もないが』

「とどめを刺しておく」

『そうじゃな。せっかく父上に救われた命、無駄に使いおって!』

ミカナの怒りが白結丸には痛いほど届く。


「・・・まだまだ・・・。ここで死ぬわけには・・・・」


「白結丸!大事ない!?」

蒼刃が風結に近づいてくる。

「嶺巴!うかつに近づくな!こいつはまだ生きてる!」

突如、蒼刃の目の前で観音像が起き上がる。

「えっ!?何だい!?」

「嶺巴!避けろっ!!」

観音像は腹に風結の太刀を刺したまま、右の五本の太刀を風結めがけて振るう。

風結は慌てて観音像の腕を掴むが、五本の腕すべてを抑えきれない。

蒼刃は後ろへ飛び退くが、観音像の太刀が一本、蒼刃の左腕を掠める。

「うっ!」

「嶺巴!」

「大丈夫!大したことない!」

蒼刃は距離を取って太刀を構える。


「いつまで上に乗っている気だっ!!」

成正は土蜘蛛を起こし、背中に乗っている風結は振り落とす。

「うあっ!!」

「白結丸!!」

風結は土蜘蛛から落ち、地面に背中から叩きつけられる。

「もう、許さん!!なぜ、おれの邪魔をするっ!!」


土蜘蛛は残っている左の前脚を風結に振り下ろす。

風結の太刀は観音像の腹に刺さったまま、丸腰の風結には受け流す手段もない。

「白結丸様!!」

杜若が風結の上にかぶさる。

「伊佐!!」

「伊佐姉様!!」

白結丸、時千代が叫ぶ。

土蜘蛛の鉤爪は杜若の背中に突き刺さる。

「きゃあああああっ!!」

「伊佐っ!!伊佐ぁっ!!」


土蜘蛛の鉤爪は、杜若の背中を浅く抉ったところで、飛んできた竹の矢に弾かれる。

「今度は何だ!!次から次へと!!」

山肌の小高い崖の上に、弓を持った御体。黒い体に白い狐の面。

「宿儀!!」

嶺巴が叫ぶ。


「すまないっ、矢を作るのに手間取った!!多事多難であった!!」

英醐はさらに矢を番えると、土蜘蛛めがけて放つ。

矢はまっすぐに観音像の頭部めがけて飛んだが、土蜘蛛は太刀で矢を切り落とす。

「弓を使う御体・・・?ふざけるなっ!!」

土蜘蛛が腹の棘を英醐に向けて水を吹く。

「おっと!」

英醐は素早く森の中に隠れる。


「大丈夫か、伊佐?」

「・・・白結丸様。大したことはありません。少し背中に痛みがあるだけで・・・・」

「すまない・・・。おれのために・・・」

「いえ、白結丸様をお守りできるのなら、この私の命など・・・・」

「何を言う。おれは・・・」

『ごほん!!いい雰囲気のところ申し訳ないが、あの蜘蛛はまだ生きとるぞ!!』

「あ、ああそうだ!伊佐、動けるか?」

「は、はい」

「安全なところへ隠れていてくれ。時千代!伊佐を頼む!」

「承知しました!」

動けない紅羽の彩芽を運んでいた金冠が、伊佐の杜若も引きずっていく。

「・・・白結丸様ー!!杜若の太刀をお使いくださいっ!!」

「すまない!恩に着るぞ、伊佐!」

・・・せっかくいい感じだったのに・・・・。

でも、さっき途中で誰かの声がしたようなしないような・・・?

??




「なんだい、こいつ!!腹に太刀が刺さっているのに!!」

道明といい、痛みを越えてくる輩が本当にいやだ!!しつこい!!

「嶺巴殿!あまり動かないで!矢に当たります!」

「宿儀!無茶いうなっ!!」

英醐が離れたところから観音像を弓で狙っているが、動きが激しいせいで狙いを決めかねている。時折、白い泥水も飛んでくるせいで的を絞り切れない。

「ええい!!」

英醐が竹矢を放つ。

ひゅん!と音を立てて蒼刃の目の前を通り過ぎ、地面に刺さる。

「何すんだい!!あたしを殺す気!?鼻を掠ったよ!!」

「すまぬ!!だが、これでは徒労無功!」

「わけわかんないこと言ってないで、ちゃんとあたしを援護しなよっ!!」

「・・・・はい。平身低頭」

英醐は地面に両手をついて頭を下げる。

「内輪揉めしているとは、舐められたものだ!!」

土蜘蛛が残った左の前脚を振り上げて蒼刃を襲う。

「しまった!!」

「嶺巴!!」

ぎいん!!

金属音が響いて火花が散る。

風結が土蜘蛛の鉤爪を太刀で受ける。

「待たせた!大丈夫か!?」

「白結丸!!」

「まずはこの前足を片付けよう!こいつは霊力が切れかかっている!動きは前より遅いはずだ!」

「承知!」

蒼刃が跳んで、土蜘蛛の鉤爪の付け根の御霊石を目掛けて太刀を振る。

「させるか!」

観音像が太刀を振るって空中の蒼刃を襲う。

蒼刃は身をひねって太刀を構え、観音像の太刀を受けるがその勢いで弾き飛ばされる。

「うわっ!?」

「こっちの手が空いてるぞ!」

風結が土蜘蛛の鉤爪を太刀で跳ね上げ、一気に観音像の前に間を詰める。

「ええい!」

気合一閃、風結の太刀は観音像の左腕を三本目まで一気に切り落とす。

「うわぁぁっ!!」

成正が悲鳴をあげる。

「いい加減に気を失ってくれ!!」

風結は地面に降りると、すぐさま跳び上がり残る鉤爪を切り落とす。

『腕が多い分、痛みも大きいはずなんじゃが・・・。やはり、父上の水の癒しの力かもしれん!』

「どうすりゃいいんだ!?」

『とはいえ、もう霊力が弱い!もうすぐ動けなくなるはずじゃ!耐えよ!』

「ひぃー!!」


左三本と蜘蛛の前脚を失ったとはいえ、左二本と右五本の腕が残っている。

残った腕で、自棄のように斬り込んでくる。

「もう、おれの霊力は残っていない!霊力が尽きたら、おれは終わりだ!その前に、お前らを!!」

そう叫ぶと、成正の口から血の塊が吐き出された。

「ぐはっ!?」

・・・霊力が尽きる!意識が遠のく!

駄目だ、こんなところで!この土蜘蛛がこんなところで倒されていいわけがない!!


蒼刃の一閃が、観音像の右腕を二本、斬り飛ばした。

「どうだ!!」

だが、土蜘蛛はまだ動きを止めない。

「なんだよ、こいつ!!」

やみくもに振って来る観音像の太刀を躱すと、嶺巴は蒼刃を後ろの下げて距離を取る。

「宿儀!」

「承知!!」

英醐が狙いを定め、竹矢を射る。

ひゅん、と空を切って飛んだ矢は寸分違わず観音像の頭を打ち抜いた。

砕け散って吹き飛ぶ観音像の頭部。


「!!」

その瞬間、成正は白目をむいて泡を吹いた。

土蜘蛛は体を支えていた脚から力が抜けて胴体が地面に落ちる。

ずうん・・・。


「やったか・・・?」

白結丸も、嶺巴も肩で息をする。

『白結丸、早くとどめを刺せ!』

「そ、そうだ!」

風結は成正のいる蜘蛛の胸の部分めがけて太刀を振り上げる。

「これで、最期だ!」

風結が太刀を振り下ろす。


次の瞬間。


「何っ!?」

突如、風結がかなり強い力で後ろへ引っ張られる。

風結は土蜘蛛から引きはがされて地面に叩きつけられる。

「うはっ!!」

白結丸は何が起きたかわからなかった。

『しまった・・・。不意打ちを食らった!』


「ここで、この男を死なせるわけにはいかぬ!!」

土蜘蛛の前にあの妖の女が現れた。白い顔と白い着物。黒髪をなびかせて、宙に浮いている。

「あいつ!!」

蒼刃が太刀を振りかぶる。

夜和が手のひらをかざす。

蒼刃は引っ張られて後ろへ飛ばされる。

「うあっ!」

ずううん!!

地面に叩きつけられる。

「嶺巴、大丈夫か!?」

「くそっ、あの妖の女!!」


「わが宿願のため、こいつに死んでもらうわけにいかぬ!」

夜和は光となって、ゆっくりと観音像の下腹あたり、土蜘蛛とのつなぎ目あたりに吸い込まれていった。

そこには土蜘蛛の核となる御霊石、封魂炉と呼ばれる一番大きな石がはめられている。

強い緑色の光を放ち、首のない観音像が起き上がる。蜘蛛の残った六本の脚も力を取り戻し、立ち上がった。


『白結丸!あの妖は蜘蛛もどきに吸い込まれた!今のおれと同じじゃ!あの観音像の下腹を狙え!あそこにあの女がいる!』

「わかった、やってみる!!」

風結は立ち上がり、太刀を構える。

蒼刃も横に並ぶ。

「嶺巴、あの観音像の下腹あたり、あの女が消えたあたりを狙え!」

「承知したよ!」

英醐の方を見ると、わかっている、といった風に片手をあげた。


風結が太刀を振るうと、観音像が残った腕ではじき返す。

右腕の残った一番上の攻撃を太刀で受けると、次の右腕が風結めがけて一閃する。

風結は間一髪でそれを躱すが、左腕の斬り込みが息つく暇を与えずに斬り込んでくる。

それを蒼刃が太刀で受け流すと、次の左腕が蒼刃を襲う。

風結がそれを流し、土蜘蛛と距離を取るため後ろへ跳ぶ。

「こいつ、今までと違うぞ!?腕それぞれが違う攻撃をしてくる!」

「とにかく腕を減らさないと、近づけないよ!」

「任せろ!!」

宿儀が叫ぶ。

英醐は小高い崖の上に登ると、土蜘蛛を見下ろす場所に立つ。

「二人とも、合図したら避けてくれ!はい!!」

英醐は言うなり竹矢を放つ!

「おおおお!?」

「いきなりかいっ!?」

風結と蒼刃は寸での所で矢をよける。

英語の放った矢は観音像の左腕の一本に突き刺さる。

「あぶないよっ!!」

嶺巴が起こるのも無理はない。

「虚を突く不意打ちは奇襲攻撃あるのみ!」

「全部同じ意味じゃないかっ!?」

宿儀はいたって満足げなのが、英醐がふんぞり返っている姿でわかる。

「ともあれ、腕を一本減らせた!」

「・・・白結丸、前向きだねぇ・・・・」


だが、今の成正は痛みを感じていない。

すでに成正は意識を失い、生命の灯すら失いつつあった。

どれだけ土蜘蛛が痛手を負おうと、繰り手が怯むことがないので動きは変わらない。

土蜘蛛からすれば、ただ刀を振る腕が一本減っただけに過ぎない。

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