5-50 流転ノ章 幕間 三
「いいですか、あそこに正体不明の船が数隻停泊しています」
行尊は雷巌、朽平、娜縞皇女と顔を突き合わせて声をひそめている。
「あの船を奪えば、因幡まではすぐに着けます。あくまでわたしの勘ですが、あの船は公にできない船と見ております。でなければ、このような港もないようなところに船団が停泊していることがおかしいです」
「海賊ということですか?」
朽平が驚いたように言う。
「いえ、それとも違うようです。近くを荷船が通っても襲う気配もありませんから」
「・・・・では、何の船だ?」
娜縞皇女が行尊に言う。
「おそらく、あれは・・・・・・」
「あれは・・・・・・?」
一同が息を飲む。
「我々のための誰かが用意してくれた舟でしょうね」
「絶対違うな!」
「はい。絶対違います」
娜縞皇女と朽平が口を揃える。
ふるふる。雷巌も首を振る。
「まあ、そういう解釈して、船をお借りしましょう。後で返せばよいのです」
「・・・・いいのか?」
娜縞皇女は朽平に聞く。
「良いわけないと思うのですが・・・・」
ふんふん。雷巌が首を縦に振る。
◇
「ああ・・・・退屈じゃのう」
惟正は小さな舟の縁にもたれて海の中を眺めていた。
「殿、やっと船の揺れに慣れたようですね」
「これだけ長い間揺られておると、嫌でも慣れるわい」
「でも、瑞奈様は「船で待て!」とおっしゃいましたから」
「どうせ、わしらのことなど忘れておるに違いないわ」
「まあ、そう卑屈にならずに」
「漕ぎ手も、用がないならと帰ってしまったしのう・・・・」
「行けと言われたら行く、待てと言われたら待つ!それが家臣の鉄則です」
「お主に言われると思わなんだ。それに瑞奈殿は妻であって主ではない。しかも、わしは犬ではない!」
「・・・・殿はただの犬にしか見えませんが?」
「誰が犬じゃっ!?」
「あ!瑞奈殿っ!!」
「わんっ!!」
「嘘ですよっ!殿、騙されてやんの!!」
「元康ぅっ!!折檻じゃっ!!」
◇
「・・・・なにやってるんだ、あいつら?」
そのすぐ近く、ひときわ大きな船の上から茂威と山吹がその様子を見下ろしていた。
「山吹、世の中には愚弄して一笑に付すべきものと、感心して奉るべきものがあるんだ。あれは前者だよ」
「ふうん。いしなげてもいい?」
「いいよ。ただし、ちゃんと当てなさい。石がもったいないから」
「はーい!!」
「はははは!退屈そうですね!!」
突如、近くで声がした。
「何奴!!」
茂威と山吹が振り向く。
そこには、頭巾で口元を隠した、怪しげな四人組が並んで立っている。
ひとりは僧服。ひとりは大男。ひとりは職人風。ひとりは女児。
「ちちうえ、あいつらなんなのだ?」
「山吹、さっき言った通り、世の中には関わった方がよい者たちと、関わってはいけない者たちがいるんだ。あいつらは後者だよ」
「じゃあ、いしなげてもいい?」
「いいよ。ただし、外さないようにね」
「おいっ!!わたしたちの言うことを聞いてもら・・・・いてっ!!」
「あたった!わたし、あてたよ!!」
「すごいね、山吹!次はもっと大きな石を投げてみようか」
「こらっ!!聞きなさい!!」
◇
「というわけで、われわれは緋家の船を追って因幡へ行きたいのです」
結局、落ち着いて話すことになった。
行尊が言うと、茂威は難しい顔で首をひねる。
「だが、わたしたちは水軍の将の命で動いているのです。命令なしで勝手なことはできません」
「ちちうえのいうことをちゃんときくんだぞ!!」
「いいかい、山吹。この人たちは今、ちゃんと父上の言うことを聞いているんだよ」
「わかった!もっとちゃんときけよ!!」
「偉いね、山吹」
そう言って茂威は山吹の頭を撫でる。
・・・・・何だ、この父娘?
「して、この船団はどこの船なのですか?」
「ああ、船は関ノ府から来ました。わたしは下総の国の住人、千波茂威と申します。こいつは娘の山吹」
「・・・・では、霞家の船団ですか?」
「はい」
「・・・・そんなに簡単に話してよいのか?」
朽平が小声で言うと、雷巌がふるふると首を横に振る。
「ちちうえにかなうやつはいないからな!!」
山吹が胸を張って言う。
「・・・・・・ということは、この水軍の将というのは?」
「ああ、あの小さな船で倒れている方です」
そう言ってこの船の陰に隠れて漂っている小船を指さした。
船の中で男が二人、伸びている。
「ええと・・・・霞惟正殿?」
「はい。たしか、そんな名でした」
「どうして伸びているのですか?」
「山吹が石を投げて遊んでいたのです。さすが山吹。ちゃんと見事に命中させました」
惟正と元康の頭には見事なこぶが出来ている。
「ふんっ!!」
鼻息荒く、力こぶを作って見せる山吹。
「行尊、知り合いか?」
娜縞皇女が行尊に聞く。
「ええと・・・・恋敵?・・・・とも違いますね。圧倒的にわたしの勝ちなので。ええと、ともに嶺巴の弟子です」
「・・・・何を言うとる?意味が分からんのだが」
娜縞皇女は首をひねった。
「では、話は早いですね。このまま、因幡へ出航してください。我々を降ろしたら戻ってもらってかまいません」
「ええと、なぜ?」
「わたしは、瑞奈殿のためにも三種の神器を手に入れたいのです」
「ですが、すでに瑞奈殿は三種の神器を・・・・」
「ははさまがもっていったぞ!!」
・・・・母様!?
「ちょっと引っかかるが、あとで聞きましょう。その三種の神器は偽物です。これと同じものでしょう」
行尊は荷物の中から箱をふたつ取り出した。
「・・・・これは!確かに同じ木箱!」
「はい。どちらも三種の神器。そしてどちらも偽物です」




