5-46 流転ノ章 十七
「ああっ!!どっちも動きが足らんのう!やはりおれがおらんとっ!!こう、こうじゃっ!!」
ミカナが草叢に隠れて、体をわちゃわちゃと動かしながら二人の戦いを見ている。
「ミカナ、どうなってる?」
馬で勢多川を渡ってきた嶺巴が声をかけてきた。
「嶺巴か!もう、どちらも決め手に欠けてのう!こうじゃっ!!そこじゃというのにっ!!もうっ!!」
「・・・・とりあえずミカナ、衣装をちゃんと着ようか。尻が出てるぞ」
「そんな暇ないのじゃ!それに、誰も見ておらんじゃろう!?ああっ、またじゃっ!!よけてばかりではっ!!」
「・・・・あのう、おれたちもいます」
低い声で義陽が声をかける。その義陽の目を伊佐が両手で覆う。
「ミカナ、ちゃんと袴をはいてくださいね」
「もう、面倒なのじゃっ!!」
ミカナは袴に足を通そうとして転びながら、なんとか装束を身につける。
「ミカナ、火の手がこちらにも回ってきています。風上へ移動しましょう」
伊佐がミカナの襟をつかんで引き摺って行く。
「淡影、いつもより動きが鈍いね」
「おれがおらんのじゃからな!霊力が切れることを気にしておる!そこっ、そこじゃっ!!」
嶺巴が言うと、ミカナが答えた。
「こら、暴れないで!」
伊佐がミカナに言う。
「でも、確かにお互い互角です。先に霊力が切れたほうが負けですね」
義陽が伊佐の隣に立って言った。
伊佐が義陽を見上げて頷く。
「・・・・・・」
嶺巴が二人の顔をじとっと見る。
「な、何?嶺巴・・・・」
伊佐が顔を赤くして言うと、嶺巴が伊佐の顔にぐいっと近づいた。
「・・・・あんたら、いつの間にそんなに仲良くなったのさ?」
「え?」
「まあ、前からお似合いだとは思っていたけどねぇ・・・・」
「い、今はそれどころじゃないでしょ!!」
「ふうん・・・・。まあ、淡影を狙う泥棒猫が一匹減ったってことだねぇ」
「なっ!!」
ぼんっ!
顔から火が出るように伊佐の顔が熱くなる。
義陽は気まずそうにそっぽを向いて鼻の頭を掻く。
「あああっ!!淡影っ!!」
その時、ミカナが叫んだ。
明らかに風結の動きが鈍くなり、防戦一方へ変わってきた。。
互角だった二つの戦御体の動きは、明らかに風結が押されてきている。
「やはり、霊力が・・・・」
嶺巴がつぶやく。
「まずいのじゃっ!」
◇
「くっ・・・・。やはり、霊力が・・・・・・」
目の前が翳み始める。
手足が重い。体が鉛のようだ。
苦しい。息が上がってくる。
淡影は必死に意識を繋ぎとめ、鹿嶺王の太刀を弾き返していた。
「どうした淡影!霊力切れか!」
「兄上!」
ぎいん!!
鹿嶺王の振り下ろした太刀を風結が受け止める。
ぎりぎりぎりぎり・・・・・・。
刃同士が掠れ合う。
「おれを越えてみせるのではなかったのか!!」
「越えるっ!!おれしか、兄上を越えられない!!」
「そうだ!!打ってこいっ!!淡影!!」
鹿嶺王は刃を弾き、一気に後ろへ跳んで間合いを取る。
「吹原にはおれの娘がいる!おまえたちをこのまま吹原に行かせるわけにはいかないっ!!」
「・・・・!?」
「おまえと墨羽が戦えば、この世が滅びるほどの力を産む!おれはそれを止めるためにお前と戦っているんだ!」
ぎいんっ!!
再び風結と鹿嶺王は刃を合わせ、弾かれて離れる。
「さっき、おまえが橋を渡ってきたときに確信した!おまえとミカナの持つ風の力は、人の身に余るものだ!その力同士がぶつかれば、さらに強い力になり人そのものを滅ぼす!」
宗影の脳裏に葦野原での墨羽との戦いのことが浮かぶ。
「認めよう!戦はお前たち伊豆の勝ちだ!だが淡影、この先にお前を進ませるわけにはいかない!!」
「・・・・おれは・・・・」
淡影が奥歯を噛みしめる。
「自分でも何をしたいのか、わからない・・・・。だけど、おれのことを信じてくれる人を、そういう人たちを裏切ることはできない!それは兄上、あなたもだ!」
「・・・・・・」
「兄上はおれに、自分を越えてほしいと思っている!おれが自分を越えていくことを期待している!おれはそれに応えたい!!」
「淡影・・・・」
「おれにはまだやることがある!すべて救ってみせる!!兄上も、兄上以外も!!」
「思い上がるな!!」
ぎいんっ!!
鹿嶺王が風結に打ち込む。
刃を合わせ、二つの戦御体が睨み合う。
「蓮華が言ったんだ!おれにも兄上にも死んでほしくないと!おれもそう思っている!」
「戦場で死ぬのが武士の誉れだ!」
刃を離し、再び向き合う。
「おれは、戦いの中で何度も死ぬと思った!だが、ここまで生き延びてしまった!だから宗近はおれを邪魔者としてしか見ていない!淡影、もしお前がおれを越えたいのなら、おれの屍を踏め!そして、宗近をも越えろ!」
「違う!勝ち負けは生き死にのことではないと、おれは信じている!!」
「それが思い上がりだというのだ!!」
鹿嶺王が風結めがけて太刀を振り下ろす。
ぎいん!!
それを風結が受け止める。
「これ以上の問答は意味もない!次で決着をつけようではないか!!」
「くっ!!」
鹿嶺王は風結から離れると、姿勢を低くして、太刀を構え、切っ先を風結に向けた。
”突き”の構えだ。
・・・・兄上!
風結もそれに倣う。
腰を落とし低く構え、ゆっくりと切っ先を鹿嶺王に向ける。
・・・・この切っ先が、相手に届いた方が勝つ。
宗影はふう、と深く息を吐いた。
・・・・もうお前の想いはじゅうぶんわかった。決着をつけよう、淡影。




