5-45 流転ノ章 十六
恒影は白縫を木の陰から陰に移動させながら、相手の出方を窺う。
時折、離れたところを走る黒い影が見える。
・・・・相手は動きながら矢を放っている。それなのに、狂いなく正確にこちらを狙ってくる。恐ろしい腕だな。
しかも、こちらが宗影殿の援護をしようとした時にだけ矢を撃ってくる。無駄な矢を撃たないように考えているようだ。それも恐ろしいほど冷静な敵だ。
・・・・ならば、こちらも!
恒影は森の木の中に白縫を走らせる。
狭い間隔で生い茂る木々の間をすり抜けながら走り回る。
・・・・こうして木の間を動いていれば、遠くから弓では狙えまい!
白縫の巨体が森の木の間をすり抜ける。
ガサガサと葉が揺れ、木の枝がこすれ合う。
「近づいて来いっ!!」
一瞬、少し離れたところの木の隙間に黒鉄色の戦御体の影が通った。
・・・・あれか!
恒影はさらに速度を上げる。
・・・・また見えた!
さっきまではまるで姿を見せなかった敵が、ようやく木の陰からちらちらと姿を見せるようになった。
・・・・あと少し!
さらに木々の間を走り回る。
恒影の白縫のすぐそばで、木の枝が揺れた。
・・・・来たっ!!
炎の上がっている方へ!
恒影は一気に、宗影と淡影が戦う唐橋へ向けて白縫を走らせる。
ひゅんっ!!
空気を切り裂く音。
かんっ!!
だがその音は恒影の白縫までは届かない。
矢は白縫を隠すように聳え立つ森の木の幹に突き刺さる。
・・・・来るっ!二つ目!
敵の姿がはっきり見えた。
こちらへ向けて弓を絞る、黒鉄色の戦御体!
「姿さえ見えればっ!!」
白縫は地面を滑りながら走りを止め、一気に黒鉄色の戦御体の方へ走り出す。
ひゅんっ!!
黒鉄色の戦御体が矢を放つ。
きんっ!!
その矢を恒影の白縫が太刀で叩き落す。
白縫は敵の方へ飛び掛かりながら、太刀を一閃した。
しゅっ!!
黒鉄色の戦御体は後ろへ跳んで避けたが、白縫の太刀の切っ先は敵の弓を捉えた。
弓が二つに折れ、黒鉄色の戦御体の手から落ちる。
ざんっ!
恒影の白縫と、間合いを取った黒鉄色の戦御体は正面で対峙した。
狐の面のような顔をこちらへ向けている。
「ようやく姿を見せたか!我が名は木曽霞太郎恒影!名を名乗れ!」
「・・・・おれは武士でないので堂々と名乗る意味などないが、その意気に免じて名乗っておこう。おれは但馬出石・鍛冶師の隠れ里の住人・黒部宿儀。この戦御体は英醐という」
「・・・・鍛冶師か?」
「いや、狩人だ」
宿儀の英醐は足につけた矢筒を捨て、腰の太刀を抜く。
「どちらでも構わん!行くぞっ!!」
恒影が白縫を走らせる。
ひゅん!
白縫の太刀が空を切る。
英醐はすっと飛んで躱すと、木の幹の間を縫って走り出す。
・・・・見失ってたまるかっ!!
恒影は白縫を走らせ、英醐を追う。
だが、英醐の足は白縫よりもずっと速い。
徐々に遠ざかっていく。
「くそっ!戦御体の差か!!」
恒影は忌々し気に吐き捨てる。
だが、必死に追いかける。
すると、目の前に炎が見えた。
・・・・ここは。
炎を上げる唐橋の前。
宗影と淡影が刃を交えている場所。
今まさに、恒影の目の前で二体の戦御体は接戦を繰り広げていた。
きいん!!きいん!!
太刀同士がぶつかる金属音が響く。
走り、跳ぶ。
まったくの互角。
ほんの少しの間だったが、その打ち合いの激しさに気を取られてしまった。
・・・・なぜ、ここに!?
「はっ!?奴はっ!?」
恒影があたりを見ようとしたその時。
ぎいいんっ!!
「うっ!?」
白縫の右腕を弾かれた。
持っていた太刀が跳ね飛ばされ、カラン、と地面に落ちる。
「くっ!」
思わず右腕を押さえる。
痛みはあるが、斬られてはいない。
「動くな」
真横で声がした。
宿儀の英醐がそこに立っている。こちらへ太刀を向けてきた。
「なぜだ!?なぜ、ここへ連れてきた!?」
「おまえには、木曽の側の証人としてこの戦いを見届けてもらう。もう、おまえたちにこの戦の勝ち目はない。衆寡不敵だ。だが、あの御仁たちは霞家の誇りをかけて戦っている。ひとりでも多くの者の目に焼き付けるべき戦いだ」
「・・・・それまで、おれを生かすと!?」
「残念だが、おれは弓を折られた。その時、勝負はついた。おれの負けだ」
「なんだと?」
「剣の技ではおれは勝てん。お前の勝ちだ。恒影殿」
「・・・・・・」
「だが、そこを動くな。動けば容赦はしない」
英醐は持った太刀を、白縫の腹のあたり、繰り座に向けた。
「・・・・わかった。宗影殿の戦いを、見届けよう」
恒影がそう言うと、英醐は少し頷いた。
◇
・・・・ミカナなしでこれほど風結を動かしたことがない。あとどれほど動けるのだろう?
風結と鹿嶺王、二体の戦御体はほぼ互角の動きをしていた。
同じ御体匠、慶秀が作った戦御体同士。
だが、淡影は自身の霊力があとどれくらい持つのかわからない。
霊力が切れればそこで終わりだ。
今までミカナに頼り過ぎていた。
ミカナのいない風結がここまで重いと思ってもいなかった。
・・・・だが、それは兄上も同じはずだ!
きいん!!
お互いに刃を合わせ、離れて間を取る。
・・・・これでは同じことを繰り返しているだけだ。
淡影の中に焦りが出始める。
だが、なかなか決め手が見つからない。
お互いが同じ師に剣術を叩きこまれた者同士、狙いも動きも避け方も全てお互いに読まれている。
一方の宗影も、打ち込む刃がことごとく防がれる状況に焦燥を覚えていた。
・・・・消耗戦かっ!!
これだけの相手を敵にしたことがなかった。
誰を相手にしていても、いつも何処かに勝ち目の糸口が見えていた。
今までは。
だが、淡影にはその糸口が見えない。
一瞬でも気を抜けばやられる。
・・・・ここを死に場所と決めたからといって、負けてやる気はない!
鹿嶺王は大きく太刀を振りかぶり、風結に襲いかかった。
ぎいいんっ!!




