5-44 流転ノ章 十五
ざんっ!!
鹿嶺王の一閃は、敵の白縫を切り裂いた。
白縫はそのまま仰向けに倒れ、動かなくなる。
・・・・やはり、見事だ。
恒影は鹿嶺王、宗影の剣技に見惚れていた。
その勢いはすさまじく、気がつけば勢多の唐橋まで戻ってきている。
唐橋は炎を上げていて、その火はあたりの森の木々に飛び火していて、辺りに熱気が籠っている。
「淡影はどこだ?そろそろ敵の中心のはずだが」
宗影がそう言った時だった。
!
鹿嶺王は不意に太刀を一閃する。
かん!という乾いた音を立てて、鹿嶺王の太刀は飛んできた矢を弾いた。
大きく太い矢が地面に落ちる。
「・・・・戦御体で矢を放ったのか?」
恒影が言う。
あたりを見渡すが、すでに矢が放たれたあたりに気配はない。森の木の間を隠れるように移動している。
「恒影、気をつけよ」
ひゅん!
空を切る音がして、矢が飛んでくる。
かん!
鹿嶺王がその矢を払い落す。
「宗影殿・・・・」
「少し手強い相手のようだな。姿が見えん」
・・・・。
「恒影、後ろへ跳べ!」
不意に宗影が叫んだ。
恒影は理解する暇なく、それに従う。
ずしゅっ!!
恒影の白縫がいたあたりの地面に、矢が刺さった。
「次も来る!」
宗影が続けて叫ぶ。
「くっ!!」
恒影の白縫はまた後ろへ跳ぶ。
ずしゅっ!!
また地面に矢が刺さる。
「まただ!!」
白縫はさらに後ろへ。
ずしゅっ!!
また矢が地面に突き刺さる。
・・・・宗影殿と離されてしまった。
そう思いながら、木の陰に隠れる。
・・・・もしや、わざと離したのか?だと、まずいな。
恒影がそこから出ようとすると、足元に矢が飛んでくる。
ずしゅっ!
・・・・やはり、わざと離されたのか。
恒影の視線の先に、佇む鹿嶺王。
その先には燃えている唐橋がある。
その炎が、少しづつ揺らぐ。
・・・・なんだ?風か?
唐橋に立ち上る炎が、一気に左右に分かれ、道を開けた。
その間を風が吹き抜ける。
その中を、一体の戦御体が渡ってくる。
一瞬だった。
まるで飛んでいるように。
向こう岸からこちらまで、瞬きする暇もないほど。
ざざざざ・・・・・。
戦御体は地面を滑ると、鹿嶺王から少し離れたところに立った。
唐橋の炎が元に戻る。
「遅かったな、淡影」
「すまない!場所を間違えて迷っていた!!」
宗影が言うと、風結の淡影が答えた。
『まったく、嶺巴のことは言えんのじゃ!』
「はは、そう言うなよ、ミカナ。ちゃんと間に合っただろ?」
『間に合ったとは言えんのじゃ!』
「だが、すまない、ミカナ。ここからはおれと兄上だけでやらせてくれ」
『まったく、素直でない兄弟じゃ!好きにせい!』
「ありがとう、ミカナ!」
ミカナの体が光となって風結の頭部から外へ出る。
それは緑色に光りながら、ゆっくりと地上へ降り、一糸まとわぬ少女の形になる。
「離れて隠れていてくれ!」
風結の繰り座から淡影がミカナの衣装の入った包みを投げる。
「わかったわ!やりたいだけ存分にせい!!」
ミカナはその包みを受け取ると、草むらに隠れた。
「さて、待たせてすまない!兄上!!」
「待ちくたびれたぞ!淡影!!」
鹿嶺王が太刀を構える。
風結も太刀を抜き、低く構えた。
「宗影殿っ!!」
ずしゅっ!
恒影の白縫が木の陰から出ようとすると、足元に矢が飛んでくる。
・・・・邪魔するなということか!
「いくぞっ!!」
宗影が叫ぶ。
鹿嶺王が地面を蹴った。
一瞬で風結の間合いに入る。
ひゅんっ!!
鹿嶺王の真横の一閃は空を切る。
姿勢を低くして躱した風結は、その低い姿勢のまま鹿嶺王めがけて太刀を振り上げる。
ひゅっ!!
鹿嶺王は身をよじって躱すと、
地面に転がってその勢いのまま立ち上がる。
その鹿嶺王めがけて、風結が地面を蹴る。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
淡影が叫び、太刀を振るう。
ぎいいん!!
激しい金属音が響き、風結の太刀を、鹿嶺王の太刀が受け止めた。
「まだまだだ!おまえの力はその程度か!?」
「絶対に、兄上を越えてみせる!!」
鹿嶺王が太刀を振り切ると、その勢いで風結が後ろへ跳ぶ。
ざざざ・・・・。
風結は間合いを取って立つ。
・・・・やはり、ミカナがいないと風結が重い。それに、長引くと危ないな。おれの霊力がどこで切れるのか、まだわからない!
淡影は再び風結を走らせる。
◇
「なんという速さだ・・・・」
二体の戦御体の戦いは、目で追うのもやっとだ。
恒影は飛んでくる矢を警戒しながら、木の間を縫うように走る。
だが、鹿嶺王と風結に近づこうとすると、どこからともなく矢が飛んでくる。
「これでは、籠の鳥と同じだ・・・・」
・・・・わかっている、おれが近づいたところで、あの戦いの中には入れない。足手纏いになるだけだ。だが・・・・。
あの矢を放つ戦御体を、何とかせねば!
・・・・どこにいる?
目を凝らせ・・・・音を聞くんだ・・・・。
近くで、こちらの動きを窺っているはずだ。
・・・・・・。
その時、木の間を駆け抜ける黒い影が一瞬垣間見えた。
「そこかっ!!」
影めがけて白縫を走らせる。
だが、すぐにその影を見失う。
・・・・速い。
・・・・どうすれば!?
恒影の頬を汗が伝う。
相手はこちらを殺そうとしているわけではない。おそらく、宗影殿と淡影殿の戦いを邪魔するな、見届けよと言いたのだろう。
それはわかっている。だがおれも武士だ・・・・。
あの矢を放ってくる戦御体には、一矢報いなければ!




