5-42 流転ノ章 十三
「伊佐殿、下がっていてください!この敵はおれが倒します!」
義陽の白縫が杜若の前に立つ。
「いけません!この敵はかなりの手練れです!」
「・・・・・・え?」
「ですので・・・・・・かなり強いですよ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「今こそ、力を合わせましょう!」
「・・・・そうなると思いました」
・・・・だけど、それでも勝てるかどうか。
他の白縫たちがもうそこまで来ている。
全員で取り囲めばあるいは・・・・。
そう、伊佐が思った時。
「放てーっ!!」
どこからか号令が響き、渡河してくる白縫たちに一斉に火矢が降りかかった。
どすどすどす・・・・!
炎に襲われ、足を止める白縫たち。
戦御体に火が燃え移り、たまらず川に身を投げ込む。
ざあん!!
水しぶきと共に白煙が上がる。
・・・・足止めされた!
伊佐は杜若を立て直すと、太刀を構える。
◇
・・・・助かるな、恒影!
文堅は心の中で恒影に感謝した。
・・・・それにしても、もう一体いるとは。まるで気配すら感じなかったが。
杜若の前に立つ白縫。
「わしは木曽冠者の家臣、古越文堅!お主の名も聞いておこう!」
「お、おれの名は関ノ府政所別当・汐永義陽!ええと・・・・以後お見知りおきを!」
「お見知りおきは余分ですよ!ここは戦場ですから!」
伊佐が言うと、義陽の白縫はついていない頭を少し下げた。
「す、すみません。慣れないもので・・・・」
・・・・政所別当・・・・戦は素人か?
太刀を構えてはいるが、隙だらけだ。
だが、そこへ打ち込むと、もう一体の”首付き”が狙っている。
あの”緋家の娘”の戦御体の方が白縫より速い。こちらがあの白縫を斬る前に、こちらがやられる。
ならば、”緋家の娘”を先に仕留めるか?
だが、目の前に立ちはだかっている白縫、ちと邪魔だ。
後ろにいる”緋家の娘”を狙えば、同時に二対を相手にすることになる。
・・・・二対一、少々厄介だな。
◇
・・・・これほどの手練れなら、汐永殿が武芸の素人であることは構えを見て気付いたはず。
伊佐は構えながらも、迂闊に手が出せない。
義陽の前に出れば、恰好の的になる。だが、このままでは打ち込むことが出来ない。
・・・・どうすれば・・・・。
頬を汗が伝う。
その時だった。
「でえええいっ!!」
叫び声をあげながら、義陽の白縫が敵めがけて走り出した。
・・・・伊佐殿に、良いところを見せねばっ!!
「ああっ、汐永殿っ!?」
杜若が手を伸ばす。
・・・・まったく!これだから!!
慌てて伊佐が杜若を走らせる。
・・・・おれだって、幾度も戦は経験してきた!!
敵が手練れだろうが、まるで通用しないことなどない!!
・・・・と思う!!
義陽の突進に、敵はピクリとも動かない。
「怖気づいたかっ!!」
・・・・そうならいいけどっ!!
自分で言いながら、希望を込める。
思い切り、敵の白縫めがけて太刀を振り下ろす。
「もらったーっ!!」
ざんっ!!
義陽の白縫の振り下ろした太刀は、地面を切った。
「え?消えた?」
義陽が顔を上げた直後、目の前に敵の白縫が太刀を振り上げるのが見えた。
「うへぇっ!?」
・・・・いつの間に!?
敵の白縫の一撃が義陽の白縫めがけて振り下ろされる。
・・・・やられるっ!!
思わず目をつぶる。
ぎいいんっ!!
その敵の一閃を、伊佐の杜若が受け止めた。
だが、その勢いで義陽の白縫と杜若は弾き飛ばされる。
「うわぁっ!?」
「きゃああっ!?」
二体は縺れ合ってよろめきながら地面に倒れる。
「い、痛いっ!?」
「汐永殿!早く上からどいてください!敵が来ます!!」
「え!?」
上に乗るように倒れた義陽の白縫が邪魔で杜若は身動きが取れない。
そこへ敵の白縫が一気に間を詰めて来た。
「まとめて葬る!!」
文堅が叫ぶ。
「うわあっ!?待ってっ!!来るなっ!!」
義陽が叫ぶ。
文堅の白縫が太刀を逆手に持ち突き刺すように高く掲げる。
「えっ?」
義陽は急に体が宙に浮くような感触を覚えた。
杜若は両足を使って思い切り上に乗っていた義陽の白縫を蹴り飛ばしたのだ。
・・・・伊佐殿?
その義陽の白縫にぶつかって、文堅の白縫は少し体制を崩す。
「くっ!だがっ!!」
それでも文堅は太刀を杜若めがけて突き刺した。
ずしゃっ!!
「きゃああああっ!!」
伊佐の悲鳴が響く。
ずん!
義陽の白縫は地面に打ち付けられて転がり、立ち上がる。
「伊佐殿ーっ!!」
文堅の白縫は、杜若の大腿に太刀を突きたてていた。
「ううっ・・・・はっ・・・・・・」
・・・・杜若の痛み!こんなに強いなんて!!
太腿を貫かれた傷が逆流して伊佐の脳に痛みを伝える。
意識が遠のいていく。
目の前が暗くなる。
「い、伊佐殿っ!!」
「・・・・外したか!だが、これでもう素早く動けまい!」
文堅の白縫が杜若の大腿から太刀を抜く。
ずしゅっ!
「ううっ!!」
伊佐が声を上げる。
だが、もう痛みすら感じていない。
「次は外さん!!これで終わりだ!緋家の娘!!」
文堅の白縫が太刀を振り上げる。
狙いは、杜若の胴体あたり。繰り座のある位置。
あれが振り下ろされれば伊佐の命はない。
「そうは、させるかぁっ!!」
義陽は白縫を全力で走らせる。
「うおりゃああああっ!!」
文堅が叫びながら、太刀を倒れている杜若めがけて振り下ろした。
ぎいいんっ!!
「・・・・何っ!?」
文堅が驚愕の声を上げた。
伊佐は、遠のく意識の中で敵の一撃を太刀で受け止めた。
「まだ、意識があったのか!?」
文堅が驚愕の声を上げた。
次の瞬間。
目の前に、義陽の白縫の太刀が迫った。
ざしゅっ!!
「なんだ、こいつらは・・・・?」
消えていく意識。
「兄者・・・・待っていたぞ!」
「おお、文成!!昭基も一緒か!!」
「おい、文堅!!」
「相変わらず文堅は来るのが遅いな!」
「なんだ、守武に直兼!こんなところにいたのか!!」
「おれたちはみんな、待っているんだ。仲間だからな!」
守武が言った。
義陽の白縫の太刀が、文堅の白縫の体を貫いた。
そのまま二体の白縫は倒れ込み、砂煙を上げる。
◇
「伊佐殿、申し訳ありません・・・・。大丈夫ですか?」
杜若の繰り座の蓋を開けて、義陽が顔をのぞかせた。
眩しい日の光が伊佐の顔を照らす。
「汐永殿・・・・」
少し目を細める。
義陽は伊佐の体を抱きかかえ、杜若から外へ出す。
あたりはようやくたどり着いた白縫たちのおかげで、周囲に敵兵はいない。ほぼ制圧状態となった。
「すみません。おれのせいで・・・・伊佐殿を・・・・・・失うところでした」
義陽は唇を噛む。その目から涙が一滴こぼれる。
「いえ・・・・信じていました。約束ですから・・・・・・助けに来てくれると・・・・」
伊佐は少し微笑んだ。
「伊佐殿・・・・・・」
義陽は笑顔を作ったが、やはり涙が止まらなかった。




