5-39 流転ノ章 十
「よし、行くぞ嶺巴殿っ!一気に倒すっ!!」
獅剛が太刀を構え直す。
「わかった!あたしの言う通りに動きな!」
「おれが主だというのに!!」
「あんたは片腕の奴、あたしはあっちのをやる!」
「おれに指図するなっ!!」
「行くよっ!」
「わかった!!」
蒼刃と獅剛は勢い良く地面を蹴った。
◇
「来るぞ、昭基!おれの左側に立て!そちらからくる刃を全て跳ね返せ!こちら側は気にするな!」
「・・・・わかった!!」
・・・・文成殿の白縫の、なくなった左腕の代わりにならなければ!
「いいか、打ち込もうとするな!跳ね返すだけでいい!」
「わかった!!」
◇
「ええええいっ!!」
蒼刃は一気に踏み込むと、素早く斬撃を繰り返し打ち込む。
ぎん!きぃん!!ぎんぎいん!!
幾度となく火花を散らしながら、蒼刃の打ち込む刃を撥ね退ける朱獄。
・・・・さっきまでより、反応が素早い?
嶺巴がどれだけ打ち込んでも、その刃は敵の戦御体に届かない。全て撥ね返される。
・・・・やっぱり筋はいいね。たぶん、若いんだろう。動きも速い。
生き残ってちゃんと成長すれば、強い武士になれるだろうに・・・・。
「・・・・だけど!!」
蒼刃は大きく上から振りかぶった。
「今だ!!」
文成が叫んだ。
「うおおおおおっ!!」
昭基は叫びながら蒼刃めがけて太刀を振るう。
「へっ!?」
防戦一歩だった朱獄がいきなり打ってきた。
まるで、始めからこれを狙っていたみたいに。
ざしゅっ!!
蒼刃は慌てて体を捻るが、朱獄の切っ先が蒼刃の肩を掠めた。
「くっ!!」
痛みに顔を歪める嶺巴。
「大丈夫か、嶺巴殿!」
近くに獅剛が来る。
「なんてことないよ!かすり傷さ!でも、あいつら、狙っていやがったね!」
朱獄が白縫の失った方の腕を庇って、白縫が朱獄の背中を守る。
さっきから、一段と息が合ってきた。
「それに、早く倒さないとまずいよ!あいつ、さっきまでと動きが段違いだ!」
嶺巴が白い朱獄を睨む。
・・・・何者なんだ、あれ?
◇
「昭基、今のでいい!攻めてくる相手は必ずどこかに隙を作る!それまで焦るな!」
「わかった!おれがあんたの片腕の代わりをしてやる!」
白縫と朱獄、二体が並んでこちらへ向けて太刀を構える。
・・・・生意気を。
文成はそう思いながら、顔をほころばせた。
◇
「仕方がない・・・・」
嶺巴がふぅ、と息を吐いた。
「二人で同時に片腕を狙う!」
長綱が嶺巴に言った。
「今、それ、あたしが言おうと思っていたのに!」
「早い者が勝ちじゃ!行くぞ!!」
獅剛が地面を蹴って白縫の前に出る。
「おうりゃぁぁぁっ!!」
上から太刀を振り下ろす。
ぎいん!!
文成の白縫はその一撃を受け止めるが、さすがに片腕ではさっきまでの力はない。
受け止めきれず、刃先が横へ流れる。
「でええええいっ!!」
その隙をついて、蒼刃が白縫の右側から襲いかかる。
「ふんっ!!」
文成の白縫は片腕で獅剛を撥ね退けると、蒼刃めがけて刃先を突き出す。
「うおっ!?片腕で!?」
思わずのけぞる長綱の獅剛。
その獅剛を昭基の朱獄が狙う。
「もらったっ!!」
朱獄は獅剛に向けて太刀を振り上げた。
そして力一杯振り下ろす。
「いかんっ!!」
文成が叫んだ。
蒼刃が狙っていたのは目の前の白縫ではなかった。
突き出した白縫の太刀を躱し、白縫の背後をするりと抜ける。
「うわああああああっ!!」
昭基は叫びながら太刀を振り下ろす。
獅剛は刀が流れた勢いのまま、地面を転がってその一閃を避ける。
ざんっ!!
振り下ろした朱獄の太刀は、獅剛の右足に浅く切り込むと、その勢いのまま深く地面を抉った。
・・・・あ。
昭基の目の前に、蒼刃の顔が迫った。
「やめろおおおおおおおっ!!」
文成が叫んだ。
ざしゅうううううう・・・・・・。
蒼刃の太刀は、朱獄の胸を貫く。
「昭基ぉっ!!」
文成の叫び声が響く。
・・・・・・ああっ・・・・・・・。
・・・・そうだ。さっきも言われたじゃないか。
むやみに打って出てはいけないんだ。
最初はちゃんとできたから、もう大丈夫と思ってしまった。
でも、やられた。
文成殿、ごめんなさい。
ずうううん・・・・・・。
朱獄が地面に倒れる。
「うおおおおおおおおおおっ!!よくも、よくもおおっ!!」
文成の怒りの波動が嶺巴に向けられる。
白縫の片腕の一閃は、正確に蒼刃を捉えていた。
だが、その刃が蒼刃に届くより先に、獅剛の刃が白縫の残った腕を捉えた。
ざんっ!!
白縫の右腕は太刀を握ったまま宙を舞い、ずん、と音を立てて地面に落ちた。
「・・・・・・ああっ!!」
文成を絶望が襲う。
・・・・だが、だがっ!!
白縫は蒼刃めがけて体をぶつけてきた。
がんっ!!
「このまま、負けてなるものかっ!!このままっ!!」
「もう、いい加減にしなよっ!!あたしだって、斬りたいんじゃないさっ!!」
蒼刃は太刀を逆手に持つ。
ずしゃっ!!
白縫の背中から太刀を突きたてた。その切っ先は、白縫の腹までを貫く。
「ぐはっ!?」
文成は喉から胸あたりまでを刃に貫かれ、血を吐いた。
目の前が暗くなっていく。
瞼の裏に、文堅が豪快に笑う顔が浮かんだ。
・・・・兄者、すまない。先に逝く・・・・。
昭基・・・・。
ずううん・・・・・・。
白縫が地面に倒れる。
・・・・終わった?
そう思った瞬間。
「い、痛っ・・・・」
蒼刃が受けた右肩の痛みを思い出した。
「長綱殿、立てるか?」
「す、すまん。足をやられて・・・・」
蒼刃が倒れている獅剛へ手を差し伸べた時だった。
がしっ!
蒼刃の足を、何者かが掴んだ。
「なんだっ!?」
嶺巴が驚きの声を上げる。
それと同時に、足を取られた蒼刃は地面に倒れ込む。
ずうん!!
「くっ!?」
顔を歪ませる嶺巴。
「まだ・・・・・終わっていないっ!!」
昭基の朱獄が、ゆっくりと立ち上がった。




