5-38 流転ノ章 九
嶺巴の蒼刃と長綱の獅剛があらかた弓兵たちを片付けた時、味方の兵たちが宇治川を渡ってこちらの岸へ到達した。
「よし、蹴散らすぞぉっ!!」
長綱が叫び、兵たちの士気を上げる。
「おおおおーっ!!」
「あたしが言いたかったやつ!取るなよっ!」
嶺巴が文句を言いながら蒼刃を先に走らせる。
「ああっ、待てっ!!先に行くなっ!!」
慌てて追いかける獅剛。
だが、すぐに蒼刃は立ち止まった。
「・・・・お出ましだねぇ」
蒼刃の前に、白い戦御体が二体。
一体は白縫。もう一体は、形が違う。
「おお、やっとやりがいがありそうな敵がお目見えか!?」
獅剛も腰を落として太刀を構える。
◇
・・・・参ったな。
文成は白縫の中で奥歯を噛みしめた。
いきなり出会った戦御体が二体。しかも、両方とも”首付き”。
自分はともかく、昭基にまともな相手が出来るだろうか?
「・・・・昭基!」
「なんだっ!敵が来るぞ!」
「御前様へこのことを知らせろ!」
「嫌だ!!」
「・・・・なんだと!?」
「そんなことは早馬の兵にやらせろ!おれは戦う!」
・・・・・・とことんいうことを聞かない奴だっ!!
「おれがここを離れたら、文成殿はひとりであいつらと戦うつもりだろう!?そんなことをさせられるかっ!!」
・・・・。
まったく。
「では、かまえろ!稽古とは違う!だが、稽古のつもりで死ぬ気で挑め!!」
「当たり前だ!わかっている!!」
文成の白縫と、昭基の白い朱獄は太刀を構えた。
◇
「我が名は藍羽政直の娘・嶺巴!これは戦御体・蒼刃!!いざ、参る!!」
嶺巴が大音声で名乗りを上げる。
「お、ずるいぞ!おれが先だというのに!我が名は関ノ府武士所別当、稲部長綱!そして戦御体・獅剛!いざ勝負!!」
「我が名は・・・・古越文成!戦御体・白縫!!」
「・・・・・・」
・・・・名乗らないのか?
嶺巴は少し相手のもう一体に違和感を感じた。
名乗るほどの名がないのか、それとも、名乗れないのか?
「まあいい!いくぞっ!!」
蒼刃が走り出す。
「あ、おれが先だとっ!!」
獅剛も一歩遅れて前に出る。
文成の白縫を目掛けて振り下ろした蒼刃の太刀は、空を切った。
白縫は横へ跳び、地面を転がると低い姿勢で勢いのままに立ち上がる。
その蒼刃めがけてもう一体が斬りかかってくる。
「おっとっ!」
その一撃を太刀で受け止める。
ぎいいんっ!!
金属同士がぶつかり火花が散り、固い音が響く。
ぎりぎりぎり・・・・。
少しづつ蒼刃が相手を押し返す。
押し合いが不利と見るや、昭基は後ろへ跳んで間合いを取る。
・・・・思い切りがいいねぇ。筋がいいってことだね。
白い戦御体が前に踏み込んでくる。
蒼刃めがけて横へ太刀を一閃する。
「おっと!」
蒼刃は素早く躱すと、体制を整える。
「こっちからも行くよっ!」
蒼刃は大きく振りかぶりながら前に跳んだ。
◇
蒼刃の一閃を避けた文成の白縫を、長綱の獅剛が襲う。
「獅剛の初陣の一番首にしてやる!!」
獅剛の振り下ろした太刀を、白縫が太刀で受ける。
ぎいんっ!!
獅剛はそのまま力で押す。
ぎりぎりぎりぎり・・・・・。
だが、白縫も負けてはいない。
力は拮抗し、互いに押し合う。
地面の土が抉れていく。
「くぅ・・・・・・。わしが力押しで負けるわけがないっ!!」
長綱が呻く。
「・・・・・ふんっ!!」
文成の白縫が獅剛の刀をすっといなす。
「うおっ!?」
獅剛の太刀はするっと地面に刺さり、獅剛は体勢を崩す。
「もらったっ!!」
白縫が太刀を高く振り上げる。
「しまったっ!!」
長綱が叫ぶ。
その瞬間、大きく跳んできた蒼刃の一閃が白縫を狙った。
「もらったのはこっちだよっ!!」
「なにっ!?」
文成が呻く。
白縫は咄嗟に体を逸らして、その一閃を避けた。
胸のあたりを蒼刃の太刀の切っ先が掠める。
「くそっ!浅い!」
白縫は後ろへ跳んで、間合いを取った。
「文成殿!」
昭基の朱獄が駆け寄ってくる。
「すまない、急に敵が向きを変えた!」
・・・・昭基が戦い慣れしていないことを見抜かれた。まずいな。
文成はぎりぎりと奥歯を噛んだ。
◇
「いいかい、まずはあっちの白縫だ。もう一体は戦に慣れていない。後で倒せばいい。ただ、逃げられないようにだけ気をつけな!」
「わしに指図するな!だが、助かった!すまん!!」
・・・・素直じゃない奴だね、ほんと。
嶺巴は苦笑いした。
「来るよ!!」
蒼刃は跳びあがった。
獅剛も横へ飛び退く。
その空間を白縫の太刀が切り裂く。
「甘いよっ!!」
蒼刃が地面に着くと同時に前に跳び出す。
ぎいんっ!!
蒼刃の一閃を白縫が弾き返す。
「こっちだっ!!」
獅剛がそこへ斬りかかる。
白縫はそれを体を捻って躱すと、獅剛めがけて太刀を振り下ろす。
「同じ手は食わん!!」
獅剛は横へ転がってそれを避ける。
◇
・・・・すごい。
”首付き”二体を相手にしている。
しかも、押されていない・・・・。
「ま、負けてはいられない!!」
白い朱獄は再び太刀を握り直す。
「絶対に、倒すっ!!」
昭基は、獅剛めがけて朱獄を走らせる。
「うりゃああああああああああっ!!」
「なんだ!?」
獅剛は振り返る。
白い朱獄がまるで捨て身のように突っ込んでくる。
「え!?本気か!?」
「やめろっ!!昭基っ!!」
文成が叫んだ。
だが、昭基は止まらなかった。
獅剛めがけて大きく太刀を振り上げる。
「がら空きだっ!!もらったっ!!」
獅剛は朱獄めがけて太刀を振り上げた。
どおおん!!
何かがぶつかる大きな音がした。
「ぐあああっ!!」
文成の叫び声が響く。
「文成殿ぉっ!?」
昭基が叫ぶ。
獅剛の太刀が朱獄に突き刺さる瞬間、文成の白縫が朱獄を突き飛ばしたのだ。
「あいつ、庇ったのか?」
嶺巴も声を漏らす。
「ふ、文成殿っ!!」
「む、むやみに踏み込むな・・・・お前の悪い癖だ。教えただろう?」
「ああ、すまない・・・・。おれのせいで・・・・左腕が・・・・」
地面に白縫の左腕が転がっている。
飛び掛かった瞬間に獅剛に斬り落とされたのだ。
「大丈夫だ。まだ、右腕がある・・・・」
白縫はゆっくりと立ち上がった。




