5-37 流転ノ章 幕間 二
墨羽の鳳炎天と寅正の朱獄が港へたどり着いたとき、すでに港には敵の戦御体の姿はなかった。
「・・・・なんだっ!?おれは敵と戦いに来たのだぞぉっ!!」
寅正が吼える。
「どこにも敵はいないようね。逃げられた・・・・というか、何のために出てきたの?」
「三種の神器を渡せ!と叫んでいたのだから、それはもちろん・・・・」
寅正が何か言いかけて、はっとなる。
「「三種の神器っ!!」」
ふたりは戦御体のまま街中を駆け抜ける。
幾川の社につくと、ふたりは戦御体を飛び降りて本堂の中へ飛び込む。
「神職!!」
ふたりが目にしたのは、柱に縛られた神職。
「ああっ!戻ってきてくれたのですか!!」
「何があったのですっ!?」
墨羽が駆け寄る。
「あの親子が、三種の神器を奪って逃げたのです!」
「ええっ!?」
「おれたちを騙したなっ!!で、どっちへ行ったのだ!?」
寅正が鬼の形相で怒鳴る。
「裏口から出て行きました!」
「わかった!!」
寅正はそのまま裏口の方へ走って行く。
「わたしも追いかけます!」
墨羽も裏口の方へ走って行った。
「ああっ、ほどいてからにしてくださいっ!!」
神職が叫ぶ。
「あのう・・・・」
「ああっ、さっきの僧侶殿!」
そこには行尊が戻ってきていた。
「すみません。賊は取り逃がしました」
「と、とにかく、皆わたしをこのまま置いていくのです!話はほどいてからにしてください!」
「わかりました・・・・」
行尊は神職の縄をほどく。
「で、どんな賊だったのですか?」
「・・・・知らずに追いかけたのですね?」
「ああ、慌てていたので・・・・」
「病で明日までの命の母親と、屈強な体つきの父親と、鎧兜を着た小さな娘の三人組です」
「・・・・はぁ?」
・・・・なんだそりゃ?
「それと、先ほどの二人組は?」
「あちらは緋家の武士所詰所の方ですよ」
・・・・やはり、役人か。
「神職っ!!」
裏口の方から声がした。
娘の方だ。
「では、あとはご自身で」
行尊はそのまま本堂を足早に出て行った。
「ああっ!?腕の縄がまだ・・・・」
「神職、賊というのはあの親子でしたか?」
「はい!あの明日には死ぬ母親に縛られたのです!」
「やはり・・・・怪しいと思ったのです!!」
「なら連れてこないでいただきたい・・・・」
「では、偉い方・・・・知基様に報告するので、これにて御免」
墨羽は頭を下げて本堂を走って出ていく。
「ああっ!!腕の縄をっ!!」
「おい!もう見つからんぞっ!!」
寅正が帰ってきた。
「う、腕の縄を!!」
「くそう!!この俺様をたばかるとは!!あの父娘、見つけたらただではおかん!!」
「う、腕の縄を・・・・」
「小娘はどこへ行った!?」
「ああ、知基様に報告するとかで・・・・」
「また先を越された!!わしも行く!!」
そう言うと、寅正も本堂を出て行った。
「あああっ!!」
・・・・。
「・・・・・・だれか、ほどいて・・・・・・」
◇
その後、行尊一行は集まって、朽平と雷巌が奪ってきた三種の神器の偽物を確かめた後。
「ああ、無駄足だった・・・・」
娜縞皇女が地面に足を投げ出して天を仰ぐ。
「ですが、港で走り出した役人は四人。確かめた三種の神器は二つ。残りの二つのどちらかが本物という可能性が残されています」
「では、どうするのだ?もう同じ手は通用しまい」
「そうですな」
ふんふん、と雷巌が頷く。
「あのう・・・・」
朽平が手を挙げる。
「何か?」
「やはり、吹原にある三種の神器は全て偽物なのでは?」
「どうしてですか?まだ確かめていないものが・・・・」
行尊が言いかけると、朽平が箱に納められていた草薙剣の偽物を差し出した。
「ここを見てください」
朽平が指さした場所に、小さな文字で何か書かれている。
「どれどれ・・・・」
”三種の神器・草薙剣(贋作)その四”
「四つ目の・・・・偽物・・・・」
「ということは、全て偽物だと・・・・」
「はぁ・・・・やはり、吹原に三種の神器はないのか・・・・」
全員が再び肩を落とした。
「だが、これからどうする?もう三種の神器がない以上、ここにいても始まるまい」
娜縞皇女が言うと、雷巌がふんふん、と首を縦に振る。
「・・・・そう言えば!」
娜縞皇女が急に大きな声を上げた。
「な、何です?」
「さっき、港の役人が話しておった!昨日やっと、何とかいうやつが因幡へ出て行ってくれて助かったとか何とか・・・・」
「・・・・もしかしたら、その船が三種の神器を積んでいると?」
「そんなうまい話はなかろうが、敵のいる京や東国へ持ち出すことはあるまい。運ぶなら西国だろう?」
「・・・・それもそうですねぇ」
行尊は顎に手を当てて考え込む。
「いずれにしても、わたしは因幡へ幻丈の足跡を探しに行くつもりでした。では、因幡へ向かってみましょうか」
ふんふん、と雷巌が大きく頷く。
「おお!行ってみよう!」
娜縞皇女も頷く。
「・・・・因幡・・・・因幡・・・・蜘蛛?」
朽平がぽつりとつぶやく。
「どうかなされたか、朽平殿?」
「いえ・・・・何か・・・・。なんでもありません。因幡へ行ってみましょう!」




