5-36 流転ノ章 幕間 一
はぁ・・・・・・。
紅羽は相変わらず毎日を仕事に追われていた。
次から次へと舞い込む厄介ごとは、なぜだかすべて紅羽のところへ運ばれてくる。
「・・・・隣の畑の芋の蔓がこちらに生えた・・・・雨が少なくて水が足りない・・・・山崩れで家がつぶれた・・・・子供が転んだ・・・・・」
はぁ・・・・。
「知るかっ!!」
「紅羽殿!!」
「うわぁっ!?」
突然間近で呼ばれて驚く。
「な、なななんだ!?」
「はい。何度かお声がけしたのですが。紅羽殿に会いたいという方が・・・・」
「・・・・わたしは忙しいのだが・・・・」
「そう申上げているのですが・・・・その・・・・」
「誰だ?わたしに会いたいというのは?」
「はい。吹原から来た緋貞基という方でして・・・・」
「追い返せ」
「は?」
「国府の扉全てに閂をかけろ。塀を今の倍まで高くして、すべて鉄で作り替えろ。空を飛ぶものは全て弓で撃ち落とせ。土竜も蚯蚓も、入って来るものは全て斬り殺せ!」
「何もそこまで・・・・」
「紅羽姉様!!」
「どうした、時之?」
急に目尻が下がる。
時千代は元服して時之と名前を変えた。
因幡守稲葉時之。それが今の時千代の呼び名だ。
だが、相変わらずかわいい。
あまり声変わりもせず、紅羽が恐れていた、いわゆる”男らしい体つき”にもならない。一見すると、まだ子供のように見える。背もあまり伸びない。
「元服したからと言って急に大人になるわけでもない」
そう時之にも自分にも言い聞かせる紅羽だった。
「貞基叔父殿が遊びに来てくれました!」
「紅羽!久しいな!」
だぁ!!
「な、何で連れてくる!?」
「え、せっかく遠くから来てくれたのですから!」
「ご無沙汰しておりますな、紅羽様」
貞基の後ろから重国。そして、目つきの鋭い女がついて入ってきた。
「・・・・なんだ、わたしは忙しいのだが?」
思い切り不機嫌そうな声を出してやる。
「今日は、紅羽に見せたいものがあって持ってきたのだ!」
後ろに控えている目つきの鋭い女が抱えている古い木箱を、前に差し出した。
紐で十字に縛られている。
「なんだ、それは?」
「三種の神器だ!」
「はぁ?」
「なんだ、知らんのか?帝の即位の時に使う・・・・」
「それは知っている!何故このようなところへ持ってきたのかと聞いている!」
「ああ、兄者から預かってな。紅羽が見たことがないだろうと思って、わざわざ見せてやろうと船でここまで来たのだ」
「見たことはないが、見たいとも思わないぞ!?それに、それをわたしに見せてどうする?」
「まあ、祝言の品だと思ってくれてよい」
「訳がわからないし、祝言を挙げる気もないっ!!」
「船に置いておくといつ海に沈んでしまうかわかりませんので、出来ればここでお預かりいただきたいと思いまして・・・・」
重国が無表情で言う。
「あのな、そんな大事なもの、おいそれと預かるなど出来るはずもあるまい?」
「ええ!?見てみたいですよ!」
時之が好奇心いっぱいの目で訴えてくる。
「・・・・見るだけだぞ?」
・・・・ああ、甘い。わたしはこの目に甘い!
「やった!」
「では、開けてみせよう!」
貞基が勝ち誇ったように、古い木箱を縛っている紐をほどく。
「これが三種の神器だ!」
蓋を開ける。
・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
そこには、古ぼけた青銅の剣、青錆びだらけの青銅鏡と、緑色の小さな勾玉っぽい石ころが入っていた。
「くさっ!?」
黴臭い匂いが一気に部屋中に広がる。
「・・・・・・と、言うわけで」
貞基が慌てて蓋を閉める。
「次に帝が即位するときに取りに来る。それまで預かってくれ!」
「こらっ!!持って帰れっ!!」
「やっぱり駄目か・・・・」
貞基は渋々、箱の紐を結び直す。
「当たり前だろう?そんなもの、因幡では預かれん!」
「では、澪瀬殿の故郷の備前では・・・・」
貞基が目つきの鋭い女の方を振り返る。
「・・・・箱ごと、斬る!」
「・・・・駄目だな」
「では紅羽、次会うときはおれとおまえの祝言だな!」
「二度と会わん!!」
「楽しみだっ!はーっはっはっはっ!!」
笑ながら、貞基は部屋を出ていく。
重国は無表情のまま一礼すると、貞基を追って出て行った。
そして・・・・。
・・・・澪瀬と呼ばれていたな。目つきの鋭い女。
澪瀬も立ち上がり、紅羽と時之に一礼した。
「・・・・斬る」
ひとことつぶやくと、そそくさと部屋を出ていく。
「何しに来たのでしょうね?」
「時之、あいつが来ても、もう入れないようにしてくれ」
「でも・・・・・」
時之は部屋の隅に置かれた古い箱を指さした。
「あーっ、あいつ!三種の神器を置いて行った!!」
・・・・まあ良いか。どうせ偽物だ。
・・・・たぶん。
いや?




