↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
流転 (るてん)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

402/417

5-35 流転ノ章 八

「すみませんでした、娜縞殿!賊に三種の神器を奪われ、逃げられてしまいました!」

行尊と娜縞皇女《なしまのひめみこ》は吹原から南東へ行った海辺に来ていた。

あらかじめ、落ち合う場所として決めていたところである。


「仕方あるまい。しかし、わたしたちより先に三種の神器を狙っておった輩がいるとは・・・・」

「それが、”明日にも死ぬと言われている母親”と、”屈強な父親”、”鎧姿の小さな娘”というおかしな賊らしいのです。これを手掛かりにすれば、探せば見つかるかもしれません」

「確かに、おかしなやつらだな。しかし、それにしても三種の神器を盗んでどうするつもりであろうな?」

「・・・・そうですね」


三種の神器は皇室にあるからこそ意味がある。

民草が持っていても本物だとは思ってもらえないだろうし、古い鏡や錆びた剣がそれほどの価値があるとは・・・・。


「おーい!!」


不意に、声がした。

こちらへ走ってくる人影。


「朽平殿!」

行尊が声を上げる。


「やりましたよっ!!」

朽平はうれしそうな顔で、小さな箱を両手で掲げた。

「「え?」」

行尊と娜縞皇女は同時に声を上げた。


「はぁ、はぁ、三種の神器、手に入れました!!」


朽平は両腕で大事そうに木の箱を抱えている。

わりと新しい木で作られていて、紐で十字に縛られている。



「・・・・どういうことでしょう?」

行尊が首をひねる。

「と、ともかく開けてみようではないか!」

娜縞皇女が朽平のもつ箱に手を伸ばそうとした時だった。


「ふーん!ふーーーーんっ!!」

大柄な人影がこちらへ来るのが見えた。


「・・・・雷巌殿!?」


こちらへ走ってくる雷巌の腕の中には、朽平が持ってきたのとまったく同じ箱があった。





◇





「戦はもう始まっているかもしれません!わたしは狐白丸で先に京へ行きます!あなたたちは船に戻ってください!」

瑞奈が狐白丸に跨り、箱を両腕で大事そうに抱える。

言うが早いか、狐白丸と瑞奈はあっという間に高く跳んで見えなくなった。


「ちちうえ!やまぶきもあれにのりたい!」

「山吹、ちゃんと真っ当に生きている人というのは、あんな訳のわからないものに乗らないのだよ」

「でも、のりたい!」

山吹はずり落ちてくる兜を押さえながら地団駄を踏んだ。

「では、今度母上に頼んでみなさい」

「わかった!」


「・・・・瑞奈殿を完全に母上にしおって・・・・」

惟正がじとっと悔し気に呟く。

「ふん!所詮は子供じゃな!わしは死んでもあんな狐に乗りたくはないのじゃがな!」

「その前に噛みつかれますからね」

元康がさらっと言った。



◇



「と、ともかく開けてみようではないか!!」

もう一度、さっきと同じことを娜縞皇女が言う。


朽平と雷巌は、それぞれが持ってきた箱を同時に開ける。



そこには、真新しい短剣、小さな手鏡、勾玉っぽい石が入っていた。


「・・・・両方とも偽物だ」

娜縞皇女が落胆した様子で言う。

「「「はぁ」」」

全員がため息をついて肩を落とす。


「してやられましたね」

行尊もため息をつく。


「では、わたしが賊に盗まれたものが本物でしょうか。それとも・・・・」





◇




「知基様!お知らせいたします!」

吹原の緋家の屋敷。知基の部屋。

役人がひとり、知基のところへ走ってきて頭を下げる。


「どうした?」

「はい!ただいま知らせが入りまして・・・・」


役人が頭を下げたまま言う。


「《《四つの”三種の神器”のうち、三っつ》》が賊に奪われました!」


「・・・・そうか。ならば新しいものを用意して、同じように届けさせよ」

「はっ!・・・・賊の方は追いますか?」

「いらん。勝手にさせておけ」

「承知!」

役人はもう一度頭を下げて部屋から出て行った。


「いよいよ、伊豆霞が出てきたか・・・・」


名も忘れたが、あの二人組。無事に伊豆の霞宗近のところへ着いたようだ。


・・・・しかし、こんなにうまく騙されてくれるとは・・・・・・。




◇




「瑞奈様ーっ!!」

内裏の朱雀門の前で蓮華と天狗が待っている。

瑞奈は狐白丸が地面に降り立つと同時に自らも地面に降り、内裏の中へ走り込む。

「おいで!」

蓮華が狐白丸に両腕を差し出すと、狐白丸は小さくなって蓮華の腕の中に飛び込む。

「我らも行くぞ、蓮華!」

「はい!」

瑞奈を追って二人も内裏の中へ走り出す。



◇


「上皇様。この通り、三種の神器を持って参りました」

瑞奈が桐高の前に箱を差し出す。


桐高は少し怪訝そうな表情をした後、その真新しい木箱をじっと見つめる。


「お主、中は見たのか?」

「いえ。見ておりません」


桐高は箱の紐を解いて、蓋を開けた。


小さな剣、手鏡、小石。

それらが無造作に木くずの中に埋められていた。


「・・・・これは?」

瑞奈が身を乗り出す。

「見てわかるだろう、偽物だ」


「・・・・・・ええっ!?」


「緋家にやられたようだな」

桐高は心なしか、残念な気持ちになっていた。それが自分でも何の感情かわからない。

「紀基亡き今なら、おまえに帝の座を与えても良いと思っていたが・・・・残念だ」

「・・・・・・そんな・・・・・・」

瑞奈の体から力が抜けて、両手を床につく。


「戦は今朝から宇治川で始まったと聞く。もう手遅れだ。諦めてここで事の顛末を見守れ」


瑞奈の中に、桐高のその言葉が重くのしかかった。

”帝になれば、戦を止められる”、そう思っていた。帝という、この世で唯一の存在になれば、すべてを変えられると思っていた。

だが、帝になれば、ここで戦が終わるのを待つしか出来ないのだ。

その現実が瑞奈の前に影を落とした。

・・・・だが、何より・・・・わたしは帝になることすらできない。


「・・・・・・」


「瑞奈様・・・・」

蓮華が瑞奈の肩に手を置く。

天狗がどん、と拳を床に打ち付けた。


狐白丸がゆっくりと瑞奈のそばに近づき、瑞奈の顔を見上げる。


涙が溢れてきた。

悔しい。


・・・・やはり、わたしには戦を止められない。


もう、打つ手が・・・・ない。

ぽとり、と涙の粒が床に落ちる。


ぺろっ。


狐白丸が瑞奈の頬を舐めた。


「・・・・狐白丸・・・・」


狐白丸は庭へ出ると、体を大きく膨らませた。


「・・・・乗れというの?」

「あおおおん!!」

「でも、もう・・・・」

「おんっ!!おんっ!!」


「狐白丸・・・・」



・・・・何も出来ない。行けばきっと、辛いだけだ。

自分の無力を、さらに思い知らされる。



・・・・だけど!



でも、ここで誰かが死んでいくのをただ待っているなんて・・・・わたしには出来ない!!



「わたし、行きます!宇治川へ!」

そう言うと、瑞奈は狐白丸へ飛び乗った。


「わたしも!」

蓮華が立ち上がって走り出す。

「仕方ない!宗影も淡影もわしの教え子じゃ!わしも行かねばな!」

天狗もそう言って立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。