5-33 流転ノ章 六
「よかったのだ!なんでもべらべらとしゃべってしまいそうなあたまのわるそうなやつをさがしていたら、おまえたちをみかけたのだ!」
「・・・・それ、褒められているのかな?」
山吹の遠慮ない言葉に墨羽がぼそりという。
「こら、山吹」
そう。父親ならちゃんと叱りなさい。
「そういうことは本人に聞こえないように言うもんだぞ。いつも言っているだろう?」
「わかったのだ、ちちうえ!」
・・・・おーい。
「でも、どうして母様は三種の神器などが見たいのです?」
墨羽が言うと、山吹が首をひねる。
「・・・・」
「?」
「・・・・それは・・・・・・」
「そこまで、かんがえてなかったのだ」
「・・・・?」
「ああ、昔、妻がどこかで見たことがあったとかで・・・・もう一度どうしても見たいと・・・・」
「・・・・そうなのですか」
「ちちうえのいうことはまちがいないのだ!」
・・・・本当かな?
「で、寅正、三種の神器ってどこにあるの?」
「・・・・知らん」
「は?」
「おまえも中納言の娘だろう?三種の神器くらい何とかできんのか?」
「出来るわけないでしょう?そもそも三種の神器って何よ?」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
全員が黙る。
「三種というくらいだから、三つあるのでは?」
茂威が言う。
「あの、昔見たのでしょう?」
墨羽が言うと、茂威は首をぶんぶんと横に振る。
「わたしは見ていませんよ!?妻が見ただけで・・・・」
「・・・・・・」
・・・・どうも、いろいろ怪しい。
「ちちうえがいうことはまちがいないのだ!」
・・・・この子がそう言うなら、そういうことにするか。
「とりあえず、偉い人にどこにあるか聞いてきます。ここで待っていてください」
そう言うと、墨羽と寅正は御所の方へ走って行った。
◇
そして時間が経ち。
「貸してくれと言ったら殴られました」
墨羽が頭をさすりながら戻ってきた。
寅正も頬が赤く腫れている。
「・・・・おもしろいかお」
「ですが、三種の神器がある場所だけは聞いてきました。わたしが一緒で、社の神職が許せば見せてもらえるそうです」
「おおっ!!すごいではないですか!?」
「やはりおまえたちでよかったのだ!」
茂威と山吹が飛び上がって喜ぶ。
・・・・初めて、中納言の娘で中宮の妹という立場を利用してしまった。
多少の罪悪感。
父様、清葉、ごめんなさい。
でも、この子の母上のため・・・・。かなり怪しいけど。
「というわけなので、明日の朝ここで待っていますから、母様を連れてきてください」
◇
「というわけなのです」
茂威が社に戻り、経緯を惟正と元康に話した。
「・・・・病の母を連れて来いと!?」
「あと三日の命、明日にはあと二日の命なのに?」
惟正と元康は悲鳴のような声を上げる。
「では、明日の朝までに”病で死にかけている母親”を連れてこなくては・・・・」
元康が言うと、惟正が眉間にしわを寄せる。
「し、しかし・・・・瑞奈殿も蓮華殿もここには・・・・」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
「仕方ない、わしが一肌脱ごう」
◇
「ぎゃああっ!!ようかいへんげ!!」
惟正の女装に山吹が悲鳴をあげる。
「な、何を言うのじゃ!母上じゃぞっ!!」
「ぎゃあああああっ!!ぎゃああああっ!!」
泣き叫ぶ山吹。茂威は顔を手で覆う。
「殿・・・・やはり無理があります」
元康が首を横に振る。
「しかし・・・・では、そこいらの女にこの娘の母親になってくれと頼むしか・・・・」
惟正ががっくりと肩を落とした時だった。
「あのう・・・・何をしているのですか?その気持ち悪い恰好・・・・」
その声に振り向くと、狐白丸に跨った瑞奈がいた。
「は、瑞奈殿っ!?」
◇
「では、わたしがその病の母親になればよいということですね?」
・・・・とりあえず三種の神器の場所がわかれば後からでもなんとかなるが、今は急がないと・・・・。
「そして、緋家の役人が二人。大柄な男と小柄な娘・・・・天狗殿がいれば何とかなったかもしれないですが・・・・」
瑞奈は一同を見渡す。
惟正、元康、茂威はともかく、山吹。相手は戦にも出ている武士だろう。とても戦って勝つのは無理だ。
そして、自分も力には自信がない。
「もし、奪える機会があれば、その場で盗んで逃げましょう。でも、無理はしないように。たぶん、戦いになれば勝てません」
「ちちうえはつよいぞ!」
「山吹。父上はここにいる誰よりも強いが、ここにいない者は父上よりも強いかもしれないのだ。相手がわからないというときは、むやみに戦うべきではないのだぞ?」
「わかった!」
・・・・すごい!珍しく後半だけいいことを言った!
「では、明朝。いよいよ三種の神器と対面いたしましょう」
◇
翌朝。
白粉を薄めて顔に塗る。
・・・・こんなで騙されてくれるのかしら?
どう見ても、明日死ぬ人の顔ではない。
・・・・それに、この子の母親にしては若すぎるかも。
父親ともつり合いがとれていないが・・・・。
「大丈夫ですか!?ここまで来ていただいて・・・・」
墨羽という娘がやたら気を使ってくれる。
「何かあったらすぐに言え!おれが医者まで連れて行ってやるからな!」
寅正という大柄な男、すっかり信じている。
このふたり、本当に大丈夫なのか?
「ごほごほ・・・・すみません・・・・わがままを・・・・」
茂威の背に乗って、顔をできるだけ上げないように・・・・。
髪で顔を隠して、言葉も少なめに・・・・。
「かあちゃん、だいじょうぶか?」
棒読みだな!
「おまえ、しっかりしろ!もうすぐ、おまえがわがまま言って見たがっていた三種の神器が見られるぞ!この方たちのおかげだぞ!そしておれと山吹のおかげだぞ!感謝するんだぞ!」
・・・・この父娘、明日死ぬ母親をもっと大事にしてほしい。
「では、行きましょう。すぐそこですから」
そう言うと、墨羽と寅正が歩き出す。
そして、それは惟正と元康が隠れている社の前だった。
・・・・戻ってきてしまった。
「ここです」
墨羽がそう言って、門をくぐり中へ入っていった。




