5-32 流転ノ章 五
「わたしたちは上皇様と宗影殿に会ってきます!あなたたちは三種の神器の隠し場所を突き止めておきなさい!」
・・・・瑞奈殿にはそう言われたが・・・・。
惟正は頭を抱える。
「どこをどう探せばよいのでしょうねぇ?はふはふ」
元康は焼き魚に嚙り付きながら言う。
「・・・・元康、わしの分は?」
「一匹しかもらえなかったのです」
「ならばそれはわしの分じゃろう!?」
「なぜですか?わたしがもらったのにっ!?」
惟正と元康、茂威と山吹は吹原の都の中ほど、吹原に古くからある大社の境内で座り込んでいた。
「で、どうなさるのですか?おそらく三種の神器は御所近くの宝物庫や寺などに祀られているのでは?」
茂威が言うと、山吹が頷く。
「おまえたちはあたまがたりないから、ちちうえのいうとおりにするのだぞ!」
「こら、山吹。たとえそうだとしても本人に言ってはならないよ」
「わかった!」
山吹がずり落ちる兜を手で押さえながら勢いよく頷く。
「なんじゃ、この父娘」
「痛いとこをずばずば突いてきますね」
「じゃが、恐らくそうであろうな。まずは御所を探そう!・・・・と、言いたいところなのじゃが・・・・」
「緋家の屋敷のそばには近づけませんね。わたしたち、顔が知られているので・・・・」
「では、おれと山吹で行ってこよう。何か聞かれても、娘を散歩していて道に迷ったと言えば許させるだろうからな」
「どうだ!ちちうえはかしこいだろう!」
山吹が胸を張る。
「おまえたちのたりないあたまでは、ひゃくねんかんがえてもうかばないのだ!」
「こら山吹。人は本当のことを言われると機嫌を損ねるのだ。少し控えなさい」
「はい!ちちうえ!」
・・・・この小娘めっ!というか、父親もだ!
「・・・・では、たのむのじゃ・・・・」
こめかみに血管を浮かばせながら惟正が言う。手が震えている。
「では、行ってまいります。ここらでお待ちください」
「いってきてやるぞ!かんしゃしろ!!」
「・・・・・・殿、よく堪えました。ご立派です」
「元康・・・・当たっているだけに悔しい・・・・」
◇
「さて、だがどうしたものか?」
北の方角、この大路の先に一番大きな建物がある。恐らくあれが御所だろう。
「かといって、間違えた振りで中へ入るわけにもいかんな」
「ちちうえ!だれかにきいてみればよいのだ!」
「そうだな。吹原に詳しそうな・・・・」
「あたまのわるそうなやつにきけば、なんでもべらべらしゃべるのだ!」
「そうだな。誰か頭の悪そうなやつを探そうか」
茂威が言うと、山吹は指さした。
「あいつらはあたまがわるそうなのだ!」
そこには体の大きな男と、小さな娘が二人で何か荷物を運んでいた。腰に刀を差している。
「ああ、あれは役人だから、声をかけないように・・・・」
・・・・さっきまでここにいた山吹がいない。
「おい!おまえたち!!」
山吹の声が聞こえた。そちらを見ると、すでに山吹が二人に声をかけていた。
「ああ、参ったな」
仕方なく茂威もそちらへ向かう。
◇
「まったく、詰所の荷をなぜわれらで運ばねばならんのだ!?」
「仕方ないでしょう?吹原も人が足りないのだから・・・・」
愚痴を言う寅正を、墨羽が嗜める。
「おい!おまえたち!」
急に、小さな子供が前に現れて思わず抱えた荷を落としそうになる。
「おおっと!?」
「なんだ、このちっこいのは?」
寅正が眉間にしわを寄せて言う。
「・・・・なんて、かわいい!」
墨羽が子供を見て声を上げる。
小さな子供がぶかぶかの甲冑を着ている。
「おまえたちに、おしえさせてやろう!」
「はい?なにかしら?」
「ええと・・・・」
「?」
・・・・聞くことを忘れたのかしら。
「すまない。娘が声をかけてしまった」
茂威が慌てて声をかける。
「ああこの子の父上ですか?」
「はい。わたしは下総の住人、千波八郎茂威と申します。この子は山吹」
「ああ、どうも。わたしは橘中納言の娘、橘墨羽です」
「おれは緋寅正だ」
「これは・・・・中納言様の娘御と、緋家の縁者の方でしたか!」
墨羽と寅正は顔を見合わせる。
・・・・しもふさ?って、どこ?
まあ、これだけ堂々としているのだから、悪いものではないでしょう。
「娘児がわたしたちに何か聞きたいようで・・・・」
「はい、ですが・・・・」
茂威が言いかけた時、山吹がはっと顔を上げる。
「おもいだした!おまえたちに、さんちゅのちんきのばしょをちちうえにおしえさせてやる!!」
「さんちゅの・・・・」
「ちんき・・・・?」
「こら、山吹。そういうことはこっそり言わないと駄目じゃないか。怪しい奴だと思われてしまうぞ?」
「わかった!ちちうえ!!」
「ええと、さんちゅのちんきとは・・・・?」
「ああ、三種の神器のことです」
茂威がさらっと言う。
「ああ、三種の神器ですか!」
墨羽が頷く。
「・・・・なんですか、それ?」
「小娘、そんなことも知らんのか。帝が即位するときに使う天皇家の秘宝中の秘宝だ」
「へえ。そんなもの、どうして見たいの?」
墨羽が山吹に目を向ける。
すると、じわっと山吹の顔が泣き顔になる。
「やまいの・・・・おっかぁが・・・・どうしてもさんちゅのちんきをみたいって・・・・」
「病の母様が?」
墨羽が声を上げる。
「ううっ、すみません。この子の母は病で伏せっており・・・・医者の話だともってあと三日・・・・」
「えええっ!?」
「もしも、さんちゅのちんきをちかくでみれたら、げんきになるって・・・・」
・・・・そんな話・・・・・・。
墨羽が振り返ると、寅正はだらだらと涙を流している。
「おおお・・・・・・。おれたちに任せろ!三種の神器くらい!」
「・・・・今、おれ《《たち》》って言った?それ、わたしじゃないよね?」
墨羽が困惑して寅正を睨みつけている陰で、茂威と山吹はしめしめとこぶしを合わせた。




