5-27 波瀾ノ章 十四
寺の裏に三人分の穴を掘り、亡骸を丁重に埋葬した。
行尊が経を読み、全員で手を合わせる。
「わたしなどの経で申し訳ない。もっと、徳の高い僧であればよかったのですが」
「兄貴ぃ、お頭ぁ・・・・・・」
資孝はずっと泣き続けている。
弔いが終わると、早々に行尊たちは鳳凰山を立ち去ることにした。
資孝と僦馬党たち、雷鳥の連れていた滅創衆たちはここに残り、寺を守る村を作ると言っていた。
「お頭がやろうとしていた、賊じゃない真っ当な運び屋をやっていくのさっ!!」
資孝は涙ながらに力強くそう言った。
◇
行尊と雷巌はその後、鳳凰山を後にした。
「で、なぜあなたたちはわたしについてくるのでしょう?」
雷鳥と記憶を失った職人風の男も一緒だ。
それと、御体車とそれを牽く馬。
御体車の上には、椿が乗っていた戦御体が横たわっている。
・・・・繰り手のいない戦御体など、荷物にしかならないが。
当の雷鳥は、雷巌の肩の上に座って足をバタバタと楽しそうにしている。
「わたし、置いて行かれると心細いので・・・・。何もわからなくて」
職人風の男が小声で言う。
「名くらいは思い出しましたか?」
「さあ・・・・」
「そいつの名は”朽平”だ。御体匠の朽平。斎尾・・・・幻丈が連れてきたのだ。それ以外はわたしも知らぬ」
雷鳥が言う。
「・・・・朽平・・・・・・。あまりしっくりきませんが?」
男は首をひねる。
「まあ、他に呼び名もないですから、とりあえず朽平殿とお呼びいたします」
「は、はぁ・・・・」
・・・・椿の術で記憶を失ったのなら、香炉が落ちた時に術は解けたはず。未だに思い出せないということは、誰か別の者の術なのか?それとも・・・。
「それと、わたしの名は雷鳥ではない。雷鳥はこの戦御体の名前だ」
「そうなのですか。ではあなたを何とお呼びすれば?」
「わたしの名を聞いて驚くなよ?」
ニヤッとした顔でこちらを見てくる。
・・・・。
「もったいつけないで教えてもらえませんか?山道を歩きながらなのでほかに気を取られると危ないです」
「ふふん!わたしは、天部の帝の末娘、娜縞皇女である!」
・・・・・・。
「そうでしたか」
「弱いなっ!もっと驚けっ!」
「ですが、まったく存じ上げないお名でしたので・・・・」
「まあ、仕方あるまい。斎尾・・・・いや、幻丈によれば、わたしが生まれたのは今から六百年ほど前になるらしいからの!」
「六百年っ!?」
朽平が声を上げた。
「そんなに長い間、どうしていたのです!?」
「うむ!そういう驚き方をしてほしい!なんと、石の中で眠っておったぞ!」
「ああ、御霊石ですか」
「・・・・いきなりがっくりだな」
・・・・石の中に閉じ込められて、時が止まる。ミカナ殿もそう言っていましたね。
しかし、六百歳とは。見た目はどう見ても六歳だ。
「朽平殿、御霊石に人が閉じ込められて、長い間時が止まるということは、よくあることなのですか?」
「・・・・・・さぁ?」
「そうですよね。覚えが戻ったら教えてください」
「それで、だ!」
いきなり娜縞皇女が声を上げた。
「はい、何でしょう?」
「わたしは斎尾を騙った幻丈と約定を交わした。聞けば行尊、おぬしは幻丈の後始末のために旅をしていると聞く」
「はぁ・・・・・・まあ・・・・・・」
・・・・嫌な予感しかしない。
「それで、わたしの約定をおぬしが果たしてたもれ!」
・・・・やっぱり。
「とんでもない約定でなければよいですが・・・・」
「なあに、簡単なこと」
「はあ・・・・」
気の乗らない行尊。
雷巌は時折ちらちらと娜縞皇女を見ている。気に入ったのだろうか?
「でも、それを聞く前に確かめておきたいのですが、約定ということは、お互いがそれを果たさなければいけないのでは?」
「うむ。もちろん」
「あなたが果たす約定とは?」
「行尊を殺すことだ」
「でしょう?わたしは生きてますよ」
「当たり前であるぞ。おまえを殺したら、だれがわたしの約定を守るのだ?」
・・・・・・かなりややこしい話になってしまった。
幻丈が斎尾に成り代わっていただけでもややこしいのに、本当の斎尾である行尊が殺されなければならなくて、そのうえで何かをしなければならないとは。
「はぁ。で、わたしは何をすればよろしいのです?」
「ようやくやる気になったか!?」
「いえ。とても嫌ですが、とにかく話を聞きましょう」
「先ほど言った通り、わが父上は天部の帝。わたしはその末娘。その証となるものを、今の血のつながらない皇族から取り戻してほしいのである」
「・・・・・・あのう、それはもしかして・・・・・」
「うむ。草薙剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉の三つ。父上がとても大切にしていたものだ!」
「・・・・三種の神器」
「六百年という長い月日の間に、本来あるべき父上の血筋と違う者が帝として朝廷に立っておる。わたしはそれが許せぬ!」
「あのう、それは・・・・ちょっと無理かも・・・・」
「無理でもよい!何とかせよ!」
娜縞皇女は雷巌の頭をぽかぽかと殴る。
・・・・緋家が吹原に都を移した。ならば、三種の神器もそこにあるはず。
「しかし、くれと言ってもらえるものでもないのですよ?」
「そこを何とかするのがおぬしの役目だ!斎尾、いや幻丈は・・・ややこしい!・・・二つ返事で引き受けたぞ!」
・・・・参りましたね。よりによって、三種の神器とは。
「・・・・ともかく、西へ向かいましょうか。まずは都、そして吹原へ」




