↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
波瀾 (はらん)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

389/423

5-22 波瀾ノ章 九

「お頭!蔵の扉が破られましたっ!!」

資孝が傷だらけの顔で走ってきた。相当雷巌に殴られたのだろう。

「なんだって!?」

榊御前が立ち上がる。

「まずい!ここの食べ物がすべてなくなる!」

行尊は立ち上がると、本堂を飛び出す。

「まったく、あんたらが来てからいい迷惑だよ!!」

榊御前が行尊に続く。

「面目ない!!」


蔵の入り口には人だかりができている。

「すまない、入れてくれ・・・・」

行尊が人をかき分けて中へ入る。


くちゃ、はぐはぐ・・・・。


「ああ、こんなに食い散らかして・・・・」


雷巌はまた我を失っているようだ。

「やはり馬の枯れ草では腹持ちしなかったのですね・・・・」


そう言って行尊は胸の前で指を二本立てて印を結ぶと、ふうと息を吐き出した。


「雷巌殿、御免っ!!」


そう言って雷巌の頭目掛けて思い切り錫杖を振り下ろす。


ごいぃぃぃぃん!!


・・・・・・。



雷巌はゆっくりと立ち上がる。


そして、振り向いて行尊の方を見る。

頭が割れ、額を血が流れている。

そしてその目は怒りに血走っている。



・・・・普通なら死んでいるくらい叩きのめしたつもりですが・・・・。


「さすが雷巌殿、と言っている余裕もなさそうですね」


錫杖をもう一度構える。


次の瞬間。


ばたああん!!


雷巌の巨体は床に倒れた。濛々と埃が舞う。


「・・・・・・危なかった」


額の汗を拭う行尊。


「ああ、あたしたちの糧が・・・・」

榊御前が惨状を見て嘆くように声を上げる。

「こんな山の上じゃ糧を得るだけでも大変な苦労なんだよ!とっととそいつを連れて出て行っておくれ!!」


・・・・ああ、怒らせてしまった。


「はい。ですがその前に・・・・」



・・・・あ、あの男がいない。本堂に置いてきてしまった!



「く、熊丸は!?」

行尊が言うと、榊御前は怒り顔のまま首を横に振る。

「しまったっ!!」


行尊が走り出す。



◇



・・・・・・似ている女。



その女が連れている娘。



目が合って・・・・・・。



「うう、頭が・・・・」



男は頭を抱え込む。

思い出せそうで出てこない。記憶は出てこようとしているのに、何かがそれに蓋をしているような感覚。


「・・・・お頭は甘いのだ。素性の分からぬ奴など、斬ってしまえばいいものを・・・・」

そう言うと、腰から刀を抜く。


そして男の首辺りに刃先を突き付けた。



・・・・あの時も、こうだった。


刀を突きつけられて・・・・必死に逃げて・・・・何日も、何日も。


そして鳥を見つけて・・・・空腹に勝てず、思わず飛び出してしまった。



それをあの娘に見つかって・・・・・・。



目が、怪しく・・・・。それと、匂い・・・・甘い、香の匂い・・・・。




「用はない!もう死ねっ!!」



「待てーっ!!」



ぎいんっ!!



熊丸の振り下ろした刀を、行尊の鉄の錫杖が受け止める。


「あ、危ない・・・・」

「またお前か!?邪魔するならおまえも斬る!!」

「待ちなさい!この男は雷鳥・・・・椿殿につながる何かを知っている!殺してはなりません!」

「知ったことか!!」


きいん!!


きんっ!!


熊丸が立て続けに振り下ろす刀を行尊が錫杖で受け止める。


・・・・まずいな。剣術では勝てない。

この男を連れて逃げるか?

その場合、雷巌殿は・・・・。



ま、いいか。



「御免!!」


行尊は男の襟首をつかむと、本堂の外へ飛び出す。

「ま、まてっ!!」

熊丸が追いかけてくる。


今はこの男の覚えだけが頼り!殺させるわけにはいかない!!


「おい!熊丸!!むやみに殺すんじゃないよ!」


遠くで榊御前の声がした。

熊丸が足を止めて、悔しそうな顔でこちらを睨みつける。


・・・・だが、このままどこかに身を隠した方がよさそうだ。


男の顔を見ると、目を大きく開いてわなわなと震えている。

行尊は男を肩に担ぎ上げると、森の中に入っていった。




◇



「・・・・とはいえ、このまま見殺しにはできませんよね」


その夜、行尊と男はそっと僦馬党の隠れ家に戻ってきた。

「・・・・あのう・・・・」

「ああ、あなたはあの木の陰あたりに隠れていてください。決して動かぬように」

「はい・・・・」

返事をすると、男は一番大きな木の陰に身をひそめた。


「さて、雷巌殿は・・・・」


山の高い場所だからか雲も少なく、月明かりで明るい。


足音を忍ばせながら、本堂の裏手に回り込む。

本堂の縁の廊下で、僦馬党の男たちが背を合わせて寝ている。


ふん!・・・・ふん!!


・・・・どこかで、雷巌殿の声・・・・ではないが、荒い息が聞こえる。


行尊たちが閉じ込められていたお堂の格子戸は壊れたままだ。

ここでもない。



ふん!・・・・ふうん!!



・・・・こっちか。


本堂の表に回る。


本堂の前には広い境内があり、大きな御神木がそびえ立っている。

そのあたりから声が・・・・。



ふんっ!!ふんっ!!




御神木の根元あたり、不自然な盛り上がりがある。


・・・・あれか。


そっと近づく。




大人五人ほどで手を伸ばしてやっと抱えられそうな大木。

その幹に、縄しか見えないほどぐるぐる巻きに、大きな何かが巻き付けられている。


「・・・・雷巌殿か?」


ふん、ふん!


「ええと、まともな雷巌殿でよいですか?」


ふん、ふん!!


・・・・信じるしかないでしょうね。



行尊は懐から取り出した短刀で、雷巌を縛っているぐるぐる巻きの縄を切り始めた。


ぶはっ!!


はらりと縄が落ちて、雷巌の顔があらわになる。

「生きていますか?というより、よく殺されませんでしたね」

ふんふん。

「もう、我を失うのは勘弁してくださいよ」

ふん・・・・ふん・・・・。

「反省はしているようですね」

そう言いながら、残りの縄も切る。


「ともかく、もう逃げましょう。手がかりは手に入れましたから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。