5-18 波瀾ノ章 五
むすっ!
「雷巌殿、また閉じ込められてしまったから不機嫌なのですね?」
ふるふる。
「違うのですか?・・・・そうか、何も食べ物をくれなかったからですか?」
ふんふん。
雷巌は腕を組んで、顔いっぱいに皺を寄せている。
「まあ、まあ」
行尊は手のひらを下に振ると、ニタリ顔で言う。
「ですが、この僦馬党という者たちが、滅創衆と何かしら関係があるとはわかりました。これは大きな収穫ですよ」
ふん!
雷巌は、どうでもいい!と言った感じで首を横へ向ける。
「まあ、機嫌を直してください。こんなお堂、逃げ出すのは簡単でしょう?」
雷巌が腕をまくって見せる。
「待ってください!まだ逃げ出してはいけません!滅創衆のことを聞き出してからでないと!」
・・・・・・むすっ!
「ははは・・・・」
苦笑いの行尊。
・・・・わたしの懐に干芋が一切れ残っていますが、これは・・・・黙っていましょう。
◇
「おい、おまえたち!お頭が話をしてくれるってよ!こっちへ来い!」
先ほどの武士風の男がお堂の格子戸を開けた。
「おお、話しをしてくれる気になったようですね!」
行尊は立ち上がる。
続いて雷巌も立ち上がるが、武士風の男はそれを制した。
「話があるのはこの僧だけだ!おまえはここにいろ!」
ふるふる!!
激しく首を横に振る雷巌。
「駄目だ!」
武士風の男は腰の刀に手をかける。
「まあまあ、待っていてください、雷巌殿」
行尊は言うと、武士風の男に言った。
「すみませんが、どんなものでもよいですから、食べるものをあげてください。おとなしくなります。草でも何でもかまいません」
◇
「お頭、連れてまいりやした!」
武士風の男が行尊を本堂の中へ放り出した。行尊は床に転がる。
「いたた・・・・もう少し優しくしていただきたいですね・・・・」
行尊が顔を上げると、先ほどの大柄でぼさぼさ髪の男。
そしてその隣に四十くらいの褐色の肌の女が座っている。長い髪を後ろで束ね、少し肩を出している。
・・・・瑞奈殿とは違う、大人の色香。
にへら。
「おい、資孝!来客に乱暴するんじゃないよ!」
女が低い声で言った。
「へい、すいやせん。お頭」
・・・・お頭?
ということは、僦馬党の頭というのはこの女の方か。
では、隣の男は護衛といったところだろうか?
「その、お頭っていうのもやめてくれないかねぇ?いかにも山賊みたいでいやなんだよ。あたしらは山賊じゃないんだから。ちゃんと榊御前と呼んでおくれ」
「へい、すいやせん・・・・お頭」
資孝が言うと、少しむっとした顔の榊御前。
隣の男はただ座っているように見えるが、いつでもこちらに飛び掛かれるように膝を立てて前に体を起こしている。
迂闊な動きをすればすぐに切り捨てられるだろう。
まあ、そんな気もないが。
「資孝はいつも通り見張りに行きな!あとはあたしと熊丸でじゅうぶんさ」
「へい・・・・ですが・・・・」
「いいって言ってんだろ!早く出て行きな!」
「へ、へい!」
そう言って資孝は本堂を出て行った。
「さて、おまえさん、なんで滅創衆を探しているんだい?」
榊御前が前に出る。
「ああ、それはですね・・・・」
行尊はニタリと笑顔で榊御前に近づく。
熊丸が腰を浮かせるが、榊御前がそれを手え抑える。
「あなたのような美しいお方に巡り合うためですよ」
「あら、うれしいこと言ってくれるじゃないか。よく見るといい男だね、坊さんにしとくのはもったいないよ」
「ああ、あなたのためでしたらすぐにでも還俗いたしますよ」
行尊がニタリ顔で言うと、熊丸が腰の刀の柄に手をかける。
「ふふふ。おや、熊丸がお怒りのようだ。冗談はここまでだね」
「はい。ごあいさつ程度でしたが・・・・」
そう言って行尊は榊御前から離れる。
「申し遅れましたが、わたしは行尊。旅の腐れ生臭坊主でございます」
「おや、面白いことを自分で言うんだね」
「はい。最近、自らの節操のなさを痛感いたしておりまして・・・・。で、滅創衆ですが・・・・」
「滅創衆のこと、あんた何か知っているのかい?」
・・・・知っているも何も、わたしは滅創衆の二ノ衆の破導、斎尾。
幻丈がその立場を乗っ取って悪事を働いていたために、その名を名乗ることが出来なくなったが・・・・。
「斎尾、もしくは幻丈という名に心当たりはおありでしょうか?」
「・・・・いや、知らないね」
「そうですか。では、雷鳥という者は?」
「雷鳥?・・・・知らないけど、もしかしたら・・・・」
「何か、ご存知で?」
「いや・・・・」
榊御前は首を少し捻る。
「もしかしたら、あたしの娘と関係あるかもしれないねぇ」
「・・・・・・娘御ですか?」
「ああ。わたしの娘を攫った連中さ。滅創衆、あたしは許せないね」
榊御前は語気を荒げた。
その瞬間。
ばきぃっ!!がらがらがら・・・・!!
本堂の外で何かが壊れる音がした。
「うぎゃあああああっ!?」
悲鳴が響く。
「あれは・・・・?」
行尊が振り向く。
「資孝の声だ!」
榊御前が叫ぶと、熊丸は一瞬のうちに立ち上がり、外へ飛び出していった。
慌てて後を追う行尊。
すると、さっきまで閉じ込められていたお堂の格子戸がばらばらに吹き飛んでいた。
・・・・もしかして。
嫌な予感しかしない。
そして、地面に転がっている資孝。
「い、いてぇっ!!」
肩を押さえて地面をのたうち回っている。
「・・・・雷巌殿・・・・」
お堂の中から、ゆっくりと雷巌が姿を現した。




