5-17 波瀾ノ章 四
「で、どこへ行くのかって?」
行尊が言うと、雷巌がふんふん、と首を縦に振る。
「雷鳥を探しに行くのですよ。知っていますか?雷鳥」
ふたりは鳳凰山の山裾にいた。
峠道を上り下りしながら、高原を目指して歩いている。
ふるふる、と首を横に振る。
「雷鳥とは、高い山の上にしかいない鳥で、声は聞こえても姿を見せないので”姿なき鳥”とか、”霊鳥”などと呼ばれています」
じゅるっと雷巌が涎を啜る。
「いや、食べるために行くのではありませんよ。神の鳥を食べてどうするのですか?」
「・・・・・・」
「そんなに淋しそうな顔しても駄目です。それに、わたしが探しているのは本物の雷鳥ではありません。滅創衆の”雷鳥”です」
「??」
「鷹根峠で見かけたときは、幼い娘の姿をしていましたが、ね。あれは本当の姿かどうかわかりません。」
ふるふる。首を横に振る。
「滅創衆を名乗って幻丈の下で動いているのに、わたしの顔を知らないということは、近頃滅創衆になった者か、それとも・・・・」
ふんふん。
「ともかく、先ほどの村落でわたしの昔の仲間から聞いた話だと、この鳳凰山が怪しいということです。数年前から、ここに住み着いた者たちがいるということですからね」
ふんふん。
「わかってます?」
ふるふる。
「でしょうね」
◇
「雷巌殿、しーっ・・・・あそこ、見てください。本物に会えてしまいました・・・・」
行尊の指さす方に、黒のまだら模様の茶色い鳥がつがいで巣作りをしている。
じゅる・・・・。
「だから、食べるために来たのではありませんよ!」
その声に驚いて、雷鳥は羽音を立てて飛び立った。
「ああ、行ってしまった・・・・」
「おい!おまえたち、何者だ!?」
不意に、ふたりの後ろで人影が動いた。
「二人・・・・いや、三人か?」
振り向くと、まだ少し距離はあるがこちらへ近づいてくる。
腰に刀を差した武士風の男と、槍を持った村人風のふたりの男。
ふん!
雷巌が腕まくりをして前に出ようとするのを行尊が片手で押し留める。
「待ってください。ここは捕まりましょう」
そう言うと、雷巌はあからさまに嫌そうな顔をした。
また牢に入れられるのではないかと思っているようだ。
「でも、捕まれば、何か食べさせてくれるかもしれませんよ」
行尊がそう言うと、雷巌は表情を一転させた。
ふんふん!
◇
「お頭!怪しい奴らを連れてきやした!!」
行尊達が連れてこられたのは山の中腹に立てられた、名もわからない古寺。
昔は寺の前に街道が通っていたようなのだが、今では荒れ放題に草が伸び人の歩く道はほとんど見えない。
「お頭というのはどんなお方ですか?」
行尊は両手首を縛られたまま、ニタリ顔で聞く。
「うるさい!誰がしゃべっていいと言った!」
「おや、御仏は人に声を出し、それを言葉として発するという奇跡をお与えになりました。それは人が許しを得て・・・・」
「うるさいっ!!こんなところで説法をとくな!!」
「おや、寺で説法は坊主の務め・・・・」
「黙れっ!!」
武士姿の男は行尊の手首の綱を掴むと、引き摺り倒した。
ばしゃっ!
行尊は倒れて地面に打ち付けられる。
「!!」
雷巌がぴくりと動くが、素早く立ち上がった行尊はそれを手で押さえた。
「まあ、痛くもないし慣れていますから」
そうニタニタしながら言う。
「・・・・・・・・」
武士姿の男もさすがに気持ち悪く感じたようだ。顔を顰める。
「どうした?何か見つけたのか?」
本堂の戸口が開き、大柄な男がのそりと現れた。
「お頭、山をうろついていたおかしなやつらを連れてきました!」
「坊主と、大男か・・・・?何もんだおまえら・・・・」
「おや、あなたがお頭ですか。わたしは行尊。旅の腐れ生臭坊主です。こちらは相棒の雷巌」
「そんな奴らが、どうしておれたちの山にいたんだ?」
「わたしたち、雷鳥を探しています」
「・・・・雷鳥?」
「はい。あなたたち、山賊のようですが、滅創衆というものをご存知ですか?」
「・・・・滅創衆・・・・・・」
「ご存じないですか。・・・・ここは無駄足でしたね」
行尊ががっくりと肩を落とす。
「おい、坊主・・・・」
「はい?何でしょう」
「おまえ、何もんだ?」
「ですので、旅の生臭坊主・・・・」
「なぜ、滅創衆を知っている?」
「・・・・・・おや、はずれかと思ったらあたりでした!」
「滅創衆は・・・・おれたち、僦馬党の敵だ」
「僦馬党?」
「おまえたち、滅創衆と何の関係がある?」
「・・・・滅創衆を倒すために旅をしています」
「・・・・ふん・・・・・・」
男は鼻を鳴らすと、武士風の男に顎で合図をした。
「こい!」
行尊たちは寺の本堂の裏に連れていかれ、離れのお堂の中に閉じ込められた。
「・・・・お頭は情け深いお方だ。おとなしくしていれば命だけは助かるだろう」
「ええと・・・・滅創衆のこと、いろいろ聞かせてはもらえませんかねぇ?」
「黙っていろといっているだろう!」
武士風の男は行尊と雷巌をお堂に押し込めて格子を閉めると、閂をかけた。
「余計なことをすると命はないと思えよ!」
そう言うと何処かへ去って行った。
「雷巌殿、ともあれあたりを引いたようです。さて、ここからどうしましょうか」
ふるふる。首を横に振る雷巌。
「僦馬党・・・・どこかで聞いた気もするのですよね・・・・」




