↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
波瀾 (はらん)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/423

5-15 波瀾ノ章 二

翌日。


「やあ、待っておりましたぞ!霞・・・・惟正殿、でしたか?」

霜田の港に着いた瑞奈たちを出迎えたのは、見るからに屈強な男。

「まっていたぞ!」

それと、小さな女児。

竹丸や狛丸より小さいので、二歳くらいだろうか?小さな体に、どう見ても不釣り合いな鎧兜を着ている。


「・・・・かわいい!」

思わず蓮華が声を上げる。


「わたしは下総の住人、千波八郎茂威《ちばはちろうしげたけ》と申します」

「おまえたちが、ちちうえのかしんだぞ!!」

ずり落ちる兜を上げながら、女児が言う。

「違うぞ、山吹。父上は、この人たちの家臣なんだ」

「でも、ちちうえ!こいつら、ちちうえよりもよわそうだぞ!」

「こら。そんなことを言うな。父上よりも弱くても、偉い人はいっぱいいるんだ」


・・・・それ、言っていいのかな?


瑞奈はちょっと思いながらも、親子の会話が嫌にほほえましく感じた。


「いかにも、わしが水軍大将の霞惟正であるのじゃ!」


「では、船に荷を乗せましょう。おや、戦御体もあるのですね」

「は、はい!わたしの紫雲《むらくも》です!」

「では、一番大きい船に皆さんご一緒いたしましょう!」

「ありがとうございます!」

蓮華が頭を下げると、山吹が自慢げに胸を張る。

「ちちうえのふねに、のせてやるからな!」

「ふふ、ありがとう」

瑞奈がそう言ってしゃがみ込んで、顔を覗き込みながら山吹の頭を撫でる。

「あ・・・・」

瑞奈の方を見て、ちょっと顔を赤らめる山吹。

「の、のせてやる・・・・のじゃ・・・・」


「では、おじゃましようかのぅ」

天狗が言うと、山吹はぎょっとした顔をする。


「いつも天狗の面をされているのですか?」

「いや、昔の戦で顔に大きな傷を負ってしまってな・・・・」



・・・・・・。

「殿、はやく荷を乗せましょうよ」


「元康、わし、水軍の大将じゃな?」

「・・・・さぁ?」



◇



「うげぇ・・・・」

「うぷぷぷ・・・・・」

瑞奈と惟正が並んで船酔いしている。

「まったく、まだ出港していないですよ!?」

元康が二人を前に呆れ顔で腕を組む。


「えい、やあ!」

その横で、蓮華は山吹が小さな木の刀を振り回しているのを楽しそうに見ていた。


・・・・かわいいなぁ。


蓮華もぼんやりとしか覚えていないが、白結丸が蔵馬に来た時もこれくらいだった。


◇


「えい、やあ!!」

小さな木の枝を振り回す。

「ちょっと、あぶないよ!」

「でも、てんぐがまいにちやれというんだ!」

法橋尼寺の境内。

いつも掃除している蓮華の後ろをついて回っていた。


・・・・あの頃から璃玖様に似ていて、綺麗な顔立ちをしていた。


◇


「幼い頃の白結丸を見ているようじゃな」

「・・・・天狗様!?」

急に見透かされたような気がして驚く蓮華。

「あの頃の白結丸は強くなりたいばかりじゃったからな。璃玖殿を守ると、そればかり言っておった」

「・・・・うっすらとですが、覚えています」

「蓮華も幼かったからの」

「・・・・かわいかったなぁ」

「おまえたちも姉弟のように仲が良くてな。見ていて微笑ましかった」

「えへへ・・・」

少し照れたように頭を掻く蓮華。


「では、船を出しますよ!」

茂威が声を上げた。


船が白い帆を上げる。

風を受け、ゆっくりと船が進み出した。



ゆっくりと船が動き出す。

「〇▽×◇!?」

「・・・・まったく。水軍の将がそれでどうするんですか?」


「じゃが、この小船・・・・ものすごく揺れるのじゃが・・・・」

「まあ、船は小さい方が揺れますから」


「なぜ、大将のわしが一番小さい船なのじゃ?」

「戦御体がありませんからね」



大型船四隻には戦御体や食糧が積み込まれ、瑞奈たちと茂威もそこへ乗り込んだ。戦御体は蓮華の紫雲と、茂威の”瀾鳴《なみなり》”、白縫が二体。

一千騎の兵たちは中型船や小型船へ分かれて乗り込む。

そしてなぜか惟正と元康だけが、一番小さな船だった。


「・・・・どういうことじゃ?悪意を感じるぞ?」

「ええと、嵐が来たときに小さい船の方が沈みにくいそうで・・・・」

「本当かっ!?嘘ではなかろうな!?」

「・・・・・・知りませんよ!わたしだって!!」

「は、瑞奈殿の船がいいっ!!」

「駄々を捏ねないでください!わたしだって、好きで殿と同じ船に乗っているのではありませんっ!」


・・・・・・。



「「・・・・ふんっ!!」」



同時に顔をそむける。


「・・・・・・うぷっ!?れろれろれろ・・・・」


「うわぁっ!?大丈夫ですかっ!?殿―っ!!」




◇



「大丈夫ですか、瑞奈様?」

蓮華が瑞奈の背中をさする。


「はい・・・・あの人たちも、相変わらず仲がよさそうで・・・・・・うぷっ!?」

「・・・・喧嘩しかしてないですけど」

蓮華は苦笑いする。


「れ、蓮華殿・・・・」

「は、はい?」

船の縁に掴まって蓮華を見上げる瑞奈。普段から色白の瑞奈の顔はさらに蒼白になっている。

「だ、大丈夫ですか?」



「もう駄目っ!!◇▽〇×□△!!」

「いやぁっ!!瑞奈様、海へ!海へしてぇっ!!」


「やっぱり、ちちうえよりよわいぞ!!」



◇



「ふっふっふ。あんなこともあろうかと、二つ貰っておいてよかったのじゃ」

天狗は不敵に笑う(?)と、懐から巻物を出す。

「さて、何が書いてあるかというと・・・・」


”伊豆遊覧初見探訪絵巻”


「・・・・・・直海から室山を越えて、霜田に着く前の甘木辺りにはきれいな水が多く、旨い山葵が採れて、良い酒が造られている。この地の酒はあまりに絶品と言われており、ここをこの酒を飲まずして通り過ぎること勿れ・・・・」


・・・・通り過ぎてしまった・・・・。



天狗は巻物をびりびりと破ると、海に捨てた。



・・・・酒、飲みたかったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。