5-13 影狼ノ章 十三
「不思議なのですが、蒼刃と紫雲。あまりに似ている部品が多くてですね・・・・」
皆秀の”戦御体語り”が始まったな・・・・と嶺巴と伊佐は顔を顰めた。
「そういえば、以前蓮華殿が紫雲を作ったのは朽平という御体匠だと言っていましたが、蒼刃は誰が作ったのです?」
「え?朽平が!?」
「知っているのですか?嶺巴殿」
「ああ。もともと蒼刃を作ったのは常秀といういけ好かない野郎でね。まともに動かなかったんだ。誰が乗っても暴走しちまって。ある日、朽平がちゃんと言うことを聞くようにしてやる、って直していったんだよ」
「そうなのですか。やはり、同じ御体匠が関わっていたのですね」
腕を組んでうんうん、と頷く皆秀。
「戦御体というのは、御体匠が違うとそんなに作りが違うものなのですか?」
瑞奈が言った。
皆秀が嬉しそうに顔をぱっと明るくさせる。
「そうなんですよ!!知りたくなりましたよね!ね!!」
嶺巴と伊佐は、額に手を当てて視線を下げる。
「ええと・・・・いえ、そうでもないです・・・・」
「いいえ、瑞奈殿!!知りたいはずです!!ではお教えいたしましょう!!そもそも、戦御体というものにこうでなくてはならないという作り方はなく、御体匠によって独特の癖と言いましょうか、使う部品にもこだわりがあるのです。例えば、御体匠の慶秀の作った風結は上半身は軽く、下半身は急な動きにも耐えられるように鉄を多く使って丈夫に作られています!そして伊佐殿の杜若はおそらく唐の御体匠の作でありましょうね!ふんだんに歯車が使われているんです!これは振動を抑え動き滑らかになる半面、動きが伝わるのが遅くて壊れやすい特徴を持っているのです。ですが杜若には御霊石がふんだんに使われていて、この弱点を全て補うという、神憑り的な視点で今の速さと動きを創り出しているのです。ですが、間接に歯車を使うという御体の特徴は、もともと土木作業用として作られた戦御体ならではの構造でして、これはこの関ノ府の御体匠、織部綴師殿が作る戦御体”白縫”にもある特徴です。なぜそのように作られているかと言うと・・・・・・あれ?」
・・・・誰もいない。
◇
「まったく、皆秀に戦御体の話をするときは気を付けてくれよ」
嶺巴が瑞奈に言う。
「はい、まさかあんなに饒舌だとは・・・・」
嶺巴と伊佐、瑞奈が御体蔵から出たちょうどその時、蓮華が戻ってきた。
「蓮華殿!」
瑞奈が声をかける。
「瑞奈様、お待たせしました!」
笑顔の蓮華。
「じゃあ、蓮華殿も戻ってきたことだし、わたしたちは御体車の支度があるからこれで行きますね!」
伊佐と嶺巴は手を振ってその場を後にした。
瑞奈と蓮華も手を振る。
「・・・・どうでしたか?」
瑞奈が低い声で言う。
「はい。いつも通りでした!」
いつもの蓮華の声。元気で明るい声。
だが、蓮華の目が少し赤いことに瑞奈は気づいた。
「では、久しぶりに紫雲を動かしてみましょうよ!」
瑞奈が言うと、蓮華は勢いよく頷いた。
「はいっ!!」
◇
「お、お、!?」
「どうですかー!?」
紫雲の繰り座に座る蓮華に、下から皆秀が声をかける。
「前より動きやすいです!気持ちいいくらい、すっと動いてくれますね!」
「そうでしょう!わたしにかかれば!!」
「よっ!はっ!!それっ!!」
いろいろな動きで新しくなった紫雲を確かめる蓮華。
それを瑞奈はじっと眺める。
・・・・たぶん、大丈夫。
淡影殿に限って、万が一はない。必ず、勝って帰ってくる。
でも、それは恩のある宗影殿の死を意味する。
澄玲殿は・・・・無事でいてくれるのだろうか。
何とか、戦を止められれば良かったのに・・・・。
わたしには・・・・これ以上・・・・なにもできないの?
・・・・そんなことない。
ひとつだけ、出来ることがある。
いや、むしろ、わたしにしか出来ないこと。
それには、どうすれば・・・・・・。
淡影殿たちよりも、早く都へ着けば、間に合うかもしれない。
陸路で大軍を進めるには普通より時間がかかる。
なら、もっと早く都へ着けば・・・・。
狐白丸で跳んでいく?
いえ、狐白丸に乗れるのはわたし一人が限界。それに、ここから都まで狐白丸が持たない。
・・・・なら、船?
船で遠江あたりまで行けば・・・・・・。
順調に行けば、かなり早くつける!
でも、船って、どうやって・・・・。
「瑞奈殿!!」
「ひいっ!?」
急に、後ろから声がした。
跳び上がる瑞奈。
「な、何ですか急にっ!?」
振り向くと、霞惟正と貝元康のふたりだ。
「今日は、瑞奈殿に今生のお別れを言いにまいりました!!」
「そうじゃないでしょ!」
半泣きの惟正に、元康が声を上げる。
「じゃが、じゃがぁ・・・・」
泣き出す惟正。
「な、何なのです!?」
「実は・・・・・・かくかくしかじか・・・・」
「船で吹原へ!?」
「はい。それはもう、捨て駒なのです!きっと、すぐ殺されます!そして、場所もわからない三種の神器を探してこいなどという無茶苦茶を・・・・」
「わたしも一緒に行きます!!」
・・・・・。
・・・・・・。
「・・・・・・へ?」
「わたしを、一緒の船に乗せてください!!」
瑞奈が惟正の手をぐっと握る。
惟正の顔がぼっ!と赤くなる。
「ま、任せておきなさい、瑞奈殿っ!この霞惟正!見事水軍を率いてみせましょうぞ!!」
「・・・・殿、さっきまでの死にそうな顔が嘘みたいですよ」
元康がぼそりと言った。
◇
その翌日、朝焼けと共に淡影を総大将にして、稲部長綱(もしゃもしゃ)、千浦和門(おしゃべり)、汐永義陽らを連れて関ノ府から三万の大軍が西へ向けて出発した。
それを高台から見つめる瑞奈と蓮華、天狗の三人と狐白丸。
旅装束に身を包んだ三人は、進んでいく大軍を見送る。
蓮華は淡影の姿が見えなくなるのを、目を細めて見つめている。
それを隣で見る瑞奈。
すっと、蓮華の手を握る。
「瑞奈様・・・・」
蓮華が瑞奈の顔を見ると、瑞奈は優しい笑顔で微笑んだ。
・・・・あの時。
「淡影様と一緒にいたいです!」
そう言ったあの時。
どうして、「お慕いしています」の言葉が続かなかったのだろう。
喉まで出てきていたのに、どうしても言えなかった。
嘘になるから?
そんなことない。
わたしは・・・・淡影様を、お慕いしている。
その気持ちに、嘘なんてない。
でも、どうしてもこの手を、瑞奈様のこの温かい手を・・・・。
離せない。離したくない。
蓮華は瑞奈の手を握り返した。
朝日に照らされる、いつもの瑞奈の美しく優しい笑顔。
「蓮華殿、大丈夫。また会えますよ」
「・・・・はい。そうですね!」
そう言って笑顔を作る。無理やりでも、笑顔は笑顔だから!
「あのう、瑞奈殿、そろそろ行かないと・・・・」
恐る恐る声をかける惟正。
「・・・・そうですね。みなさん、行きましょうか。京へ!」




