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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
影狼 (かげろう)

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5-04 影狼ノ章 四

その夜、宴の席に現れた雪御前の美しさに、誰もがため息を漏らしたそうです。

それは、舞の機会を与えた母でさえも魅了するほどの美しさでした。


そして太鼓が鳴り、雪御前は帝の前で舞いました。


それはあまりにも儚げで美しく、そして初々しさと同時に洗練されていたそうです。

母は後に、美しさに瞬(まばた)きを忘れ、息をすることを忘れ、そしてここが現世(うつしよ)であることさえ忘れたと言っていました。


雪御前が舞い終わった時、紀基は母に言いました。

「お前の言う通りにした、わしは間違っていなかった」


紀基は雪御前に寵愛を与えることを申し出ましたが、すでに雪御前は帝からの寵愛を受けていました。

そう、桐高です。


それでも雪御前を諦められなかった紀基は、母たちに冷たく当たるようになりました。

「雪御前のように舞え!出来ぬなら、六原から出ていけ!」

毎日、山のように届けられていた貢ぎ物はすっかりなくなり、屋敷に仕えていた者たちも次々と減っていきました。


ですがある時、雪御前が紀基へ下賜(かし)されることになったのです。


紀基はたいそう喜びました。

そして、母たちが住んでいた屋敷を、雪御前に与えると言ったのです。


母たちは六原から追い出されてしまいました。


都のはずれ、嵯峨野の竹藪の中の小さな庵で母たちは質素に暮らし始めました。

ですが、母としても、もうこれでよいという気持ちもあったそうです。


ですがある夜のことです。

寝静まった頃、戸を叩く音がして母は戸を開けて外に出ました。

すると、雪御前が立っていたのです。

両腕で大事そうに何かを抱えていました。



「どうしたのですか?こんな夜分に・・・・」

「濱王様、わたしはあなたに機会をいただいたのに、こんな風に追い出すようなことをしてしまい、申し訳なくて・・・・」


ただ、一言謝りたくて、六原を抜け出してきたというのです。


「そして、厚かましいことは重々承知しています。これを、預かってください」


そう言うと、大事そうに抱えていたものを母に渡しました。



それは、赤子と、一本の短刀。



紀基は雪御前の腹に桐高の子がいることを知って、激怒しました。

自分の娘の沙苑様ではなく、白拍子と子を作ったことにひどく憤慨したそうです。


生まれてくる子が男ならその場で殺す。女なら島へ流すと言ったそうです。



そして雪御前は、母に自分の子を預けて姿を消したのです。





◇




「・・・・その子というのは」

蓮華が震える声で言った。



「はい。わたしです」



「桐高様・・・・帝の、子?」


「そうです。わたしは、生まれているとわかれば紀基に命を狙われる。なので、母の子として育ちました」

そこで瑞奈は大きく息を吸う。



「そう、女として、育てられたのです」



・・・・・・。



・・・・・・。



・・・・・・。



・・・・・・。



「え・・・・・えと、それは、どういう・・・・?」

義陽が声を絞り出す。





「わたしは男です。その証拠をここではお見せ出来ませんが・・・・」


「「!!??」」






「雪御前は帝の寵愛を受け、わたしを身籠りました。ですが、周囲の者たちが帝の最初の子、すなわち次の帝となる子が白拍子の子ということを極端に恐れ、雪御前を無理やりに下賜することに決めたそうです。桐高に会ってこの話をしました。桐高とわたしの生みの母、雪御前は本当に思い合っていたと話してくれました。それまで、わたしは桐高のことを恨んでいましたから、宴に呼ばれたとき、わたしは桐高の命を狙いましたが、滅創衆が飛び込んできて、その後も宗影殿に捕まりで・・・・」



・・・・・・・・。


蓮華と義陽はまだ口をあんぐりと開けたままだった。


瑞奈がその後も何か話しているが、まったく頭に入ってこない。



・・・・男!?


これほど綺麗な・・・・・・。



ええっ!?



「は、瑞奈様!?」


「・・・・何でしょう?」


「あ、あの、ええと・・・・なんというか・・・・」


「はい。本来ならばわたしは皇位の継承権一位です。高条よりも年上ですので」



「いえ、そうではなく・・・・・・ええっ!?」

「う、嘘!?」


義陽も、蓮華も、もう何に驚いてよいのかわからない。




◇



ふたりは、くらくらすると言いながら戻って行った。

頭の中を整理したら、また来ます。そう言ってくれた。


・・・・話してしまった。

蓮華殿はともかく、しおながもちはどうするだろう?

宗近に話すだろうか?


そうなれば、この先・・・・。

いっそう、わたしを利用しようとするだろうか?




でも、今は・・・・。

先を考えるより、芋を食べましょう!!


蓮華の持って来てくれた包みを開ける。

蒸かした芋がたくさん入っている。


まだほんのり温かい。


ああ、幸せのひと時・・・・・・。



がしゃん!!


突然、何かが牢の柵を叩く音がした。


がしゃん!!


・・・・また。


「・・・・何?」


がしゃん!!


柵の隙間から外をのぞく。


気付かなかったが、少し離れたところにももうひとつ柵がある。


・・・・誰か、他にも捕まっているのだろうか?


がしゃん!!


がしゃん!!



・・・・声はしない。柵を揺さぶる音だけが、薄暗い牢の中に響いた。

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