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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
影狼 (かげろう)

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5-03 影狼ノ章 三

・・・・どうして、こうなったのだろう?


瑞奈はひとり牢獄の中で、冷たい床に膝を揃えて座っていた。


落ち着いて、よく考えよう。


上皇様からの書状には、緋家討伐をやめよと書かれていた。これを書かせるために、上皇様を拉致した。

そして、わたしが舞台に上がる時、いつもあの短刀を懐に入れていることを、宗近は知っていた。それを知ったうえで、わたしを捉えた。まるで、宗影殿が、宗近の命を狙う刺客としてわたしをここへ使わせたように・・・・。


・・・・そうか。


わたし、戦のために利用されたんだ。


戦を止めに来たのに、戦をするために利用されてしまった。


迂闊だったのかもしれない。


関ノ府へ来て、毎日が思っていたよりも楽しかった。

蓮華殿、天狗殿。

淡影殿とミカナ、嶺巴、伊佐、皆秀と宿儀。

しおながもちとさくら煮ごろごろ弁当。ええと、本当の名前は何だっけ?


・・・・はぁ。


ため息ばかり出る。

宗影殿、どう思うだろうな。わたし、ちゃんと届けたけど、戦を止められないみたい。

蓮華殿は元気かな。植えた茄子はちゃんと育ったかな。



「瑞奈様・・・・」

不意に声がした。

「・・・・蓮華殿!?」

声のした方へ駆け寄る。

薄暗い牢の柵の先に、蓮華の顔があった。


「どうしてここへ?」

「・・・・汐永様と一緒なら、入っても良いとお許しをもらいました」

「・・・・」

蓮華の後ろに、姿があった。

「しおながもち・・・・」

「ええと、瑞奈殿。すまない・・・・」

そう言って義陽は頭を下げた。


「これはどういうことなのです?」

瑞奈は自身でも意識していなかったが、少し語気が荒かったようだ。

「・・・・すまない。今はそれしか言えないが、瑞奈殿のことはおれが預かることとなった。すぐにここから出て、おれの屋敷へ来てもらうことになる。もう少しだけ我慢してほしい」

「・・・・・・」


「瑞奈様、これ・・・・」

蓮華は牢の柵の間から、小さな包みを瑞奈に渡した。

「これは・・・・」

いい匂いがする。間違いない。


芋だ。


「あとで、こっそり食べてください」

「・・・・蓮華殿・・・・」

「瑞奈様、皆が心配しています。そして、怒っています。嶺巴など、汐永様の襟首をつかんでなかなか離しませんでした」

「はは・・・・それで合議の話し合いに遅れてしまいましたが・・・・」

義陽が頭に手を当てる。

「瑞奈様・・・・わたしは、瑞奈様が心配です。たぶん、瑞奈様は・・・・わたしの知らないことをいっぱい抱えているようで・・・・。わたし、とても、心細くて・・・・」

「蓮華殿・・・・」


胸が締め付けられる。


蓮華と東雲山で初めて知り合ってから、まだ半年も経っていない。

それでも、お互いに特別な感情を抱くには、じゅうぶん過ぎるほどに過酷な旅をしてきた。

蓮華の辛そうな顔を見ると、瑞奈の胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなる。


「蓮華殿・・・・いつか話そうと思っていたことがあります」

真剣な目で蓮華を見つめる。


「瑞奈様・・・・?」


「このようなところで話すことではないかもしれません。ですが・・・・」


「あ、あの・・・・ええと、おれはここを外した方がよいかな・・・・?」

義陽が控えめに言う。


「聞いていてください。そのうえで、わたしを預かるというのなら、あなたにそれをお任せいたします」


「・・・・・・はい」

姿勢を正す義陽。


「瑞奈様・・・・」

「本来、これは絶対に人に話してはいけないと、母様から言われ続けてきました。今までに話したのは、宗影殿だけです」


そう言って、瑞奈は目を閉じた。


ひとつ、ひとつ思い出すように、言葉を選びながら、瑞奈は話し始めた。





◇




わたしの母も白拍子でした。

名を濱王(はまおう)。都で最も名のある白拍子のひとりだったと聞いています。


その証拠に、ある時帝の御前で舞う機会を得ました。

母は妹の岬王(さきおう)と共に、舞台に上がったそうです。


一世一代の舞台。

それは、素晴らしい舞だったそうです。

そこで、母はある男から寵愛を受けることになります。


関白太政大臣、六原の緋紀基です。


母は紀基から妹・岬王、母・妓王(ぎおう)に、六原の中に大きな屋敷を与えて毎日のように貢ぎ物を送られたそうです。

ある宴のときなどは、紀基の正室しのよりも上座を与えられるほどだったと聞いています。


ですがある時、宴の席で若い白拍子が舞いをご披露したいと申し出たそうです。

紀基は「白拍子なら濱王に舞わせればよい」と一蹴したそうですが、母は「帝や殿の前で舞うような機会を得ることは並みでないことです。ぜひ、その若い白拍子にも機会をお与えください」と宥めて、紀基は「濱王が言うなら」と聞き入れました。


その白拍子は”雪御前”と言いました。

まだ若く、肌はその名の通りに白く美しい。誰もが目を引くほどの麗人だったそうです。

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